在日外国人が「故郷」と呼べる日本に

 2019年に香港で盛り上がった民主化運動を記録したドキュメンタリー映画『時代革命』を観てきた。

 私はこの運動を取材しに3回香港を訪れた。

渋谷ユーロスペースで上映中

 デモに制服で参加する中高生、遺書を書きのこす若者たち、デモ隊に飲み物やハンバーガーを差し入れる市民の姿に大きな感動をおぼえた。これはひょっとすると「革命」が成功するかも、と感じたのだが、運動は中国共産党の力で無慈悲にも粉々に粉砕されてしまった。

 映画はあの運動のまぶしいほどの輝きを活動家の立場から再現し、香港人の魂は死んでいない!と訴えてくる。取材当時を思い出し、感慨深かった。

 主人公の選び方が適切で、運動の節目もしっかり押さえており、資料的価値もある。

ロビーにはミニ・レノンウォールも

 上映後のロビーでは抱き合って泣く女性たちの姿もあった。香港人がたくさん観に来ているようだ。香港ではもちろん上映禁止。「時代革命」というスローガンを掲げただけで逮捕された人もいる。今も香港にとどまるキウィ・チョウ監督の勇気をたたえたい。

christianpress.jp


 渋谷ユーロスペースで上映中。
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 最近、ウクライナってこんな国だったのか!と新たに学ぶことが多く、自分がいかに無知だったかに気づかされている。

 Eテレで「Where We Call Home」というシリーズが放送された。もともとNHK Worldで英語放送として製作された番組で、在日外国人の暮らしぶりを描いている。この間、ウクライナを取り上げた2回の番組を観て、意外なお国ぶりを知った。

 例えばウクライナでは日本の武道がとても盛んだということ。

彼女の型の演武は実に美しい。Eテレより

 14歳から21歳までウクライナの空手の型の代表として国際大会でも活躍したアンナ・クレシェンコさんは、2017年に日本に留学してきて、今は大阪の大学院で女性の体調管理アプリを開発している。

思春期、妊活、妊娠、育児、各ステージに合わせたデジタルソリューションの開発をやっているという。横文字と漢語まじりの日本語をアンナさんは完璧に発音していた。次は更年期の女性の体調管理の「デジタルソリューション」(私にはよく理解できないが)を開発する予定だという。


 開発にあたってはウクライナIT技術者と協力することで、祖国で仕事を失った人々への支援にもなっている。

 ウクライナが豊富なIT人材を持っている事実も最近知った。

 彼女が日本の仕事を紹介したウクライナ人男性は、侵攻への抗議としてロシアやベラルーシの仕事を断ったので、日本の仕事ができるのはうれしいという。つまり、対ロ制裁に一役買っているというわけだ。

 武道でいえばもう一人、日本の空手の道場主がウクライナの弟子である少年たちに避難の手を差し伸べているケースもあった。

空手が縁で日本に避難してきたウクライナの少年たち

 禅道会という長野県に本部がある流派で、小沢隆首席師範が呼びかけて9人のウクライナの少年と親を日本に招いた。その一人アルチョムさんが練習を重ねて大会で優勝するというストーリーだ。彼はスマホウクライナで戦う父親に優勝を報告していた。

大会で優勝したアルチョムさんとお母さん

 なかでも印象的だったのは、本間カタリンさんという女性のエンジニア。

 日本人男性と結婚して来日したが離婚。2年前、沖縄の糸満市に移住し、そこで建設図面のソフト作成や顧客サポートを行っている。

 その傍ら、ウクライナ製のラジコンの販売も行っている。ウクライナがラジコン大国とは意外だった。いまその技術を対ロシア戦の無人飛行機制作に使っているという。

ウクライナのラジコン飛行機は日本にも輸出されている

 カタリナさんは形が不ぞろいだったり、ほんの少し傷んでいるだけで捨てられるニンジンを利用してニンジンパンを作り、バザーなどで売っている。

バザーでニンジンパンを売るカタリンさん。これを糸満市の名物にしたいという。

カタリンさん(右)が沖縄はいいところだからと移住を勧めた二人のロシア女性(パン屋を開業)と。侵攻のあとも3人の信頼関係は揺るがない


 カタリンさんを受け入れた近所の人が「沖縄の精神は、イチャリバチョーデーだよ」という。会えばみんな兄弟という意味だそうだ。暖かい人間関係に包まれて、カタリナさんはここが私の故郷で離れたくないと語る。

上手に三線をひき、唄っていた。すっかりなじんでいる様子に私も嬉しくなった

 こういう個々人の生き方を見てはじめて、多様な人々との共生を応援したくなる。

 多くの外国人がためらいなく日本を「故郷」と呼んでくれる社会にしたいと強く思う。

 サヘル・ローズさんのナレーションもいい。

番組にはバレエダンサーのカップルも登場した。長澤美絵さんとエフゲニー・ペトレンコさん。美絵さんはウクライナの名門バレー団のプリンシパルに抜擢されたバレリーナ

2人は初孫を美絵さんの親に見せようと来日。直後にロシアの侵攻があり、そのまま日本にとどまっている。今は地元のバレー教室で教え、ウクライナ支援公演で踊ったりしている