周庭さん香港の闘いを語る1~運動に飛び込んだ15歳

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 朝、うちを出たら白い花が目に入った。韮(にら)だ。私にいってらっしゃいとでもいっているようだ。かわいらしい。韮の花は夏の季語だそうだ。
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 さて香港の取材。
 周庭さんの日常を密着取材をしようと思っていたら、香港到着直後に逮捕されてしまった。保釈されたが、夜間外出は禁止され、内外の記者たちからインタビュー取材依頼が殺到して「日常」どころではない。でも、香港の若者がなぜ闘うのかを彼女に聞きたいのでインタビューを申しこんだ。
 逮捕翌々日の9月1日(日)、彼女の自宅近くの大埔(タイポ)で取材することができた。インタビュー場所は駅近くの団地の公園。台風が近づいていてときおり強い風が吹いていたが幸いにも撮影中は雨に降られずにすんだ。

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大埔のレノンウォールにて

 周庭さんはなんと15歳で「活動家」になり、雨傘運動ではリーダーの一人になった。ごく普通の学生に見える彼女なのに、いったいどのようにして「運動」に飛び込んだのか。(周庭さんの日本語はすばらしいが、一部読みやすくするため修正した)

Q:30日に起きたことを教えてください。
 8月30日(金)の朝9時半くらいに、警察がうちにきて、私の部屋の前に待っていた。私は起きてからドアを開けて、警察を見ました。そして逮捕されました。逮捕された理由というのは、6月21日、警察本部であったデモに参加すること、そして扇動したことの二つの罪で逮捕されて、そしてそのあと、起訴されました。

Q:あなたとジョシュア・ウォン(周庭さんの同志)を逮捕した理由・狙いって何ですか?
 私たちが逮捕されたのは一昨日の8月30日なんですけれども、8月31日に大規模なデモを行う予定がありましたので、だからそういう重要なタイミングを狙って、知名度のある人たちを逮捕しようとしていましたね。

Q:デモへの牽制なんですね 。:逮捕されたとき、おうちにはだれがいたんですか?
 そうですね、うちはお父さんと私がいました。


Q:お父さんびっくりされたでしょう。
 そうですね、二人ともびっくりしましたけど、私は今回3回目、逮捕は3回目なんですけども、でも警察がうちに来て逮捕されるのは初めてだったので、だからびっくりしましたし、すごい眠い状態で、逮捕されので、結構びっくりしましたし、起訴されたのも初めてですね。


Q:いつもは朝9時半だと起きていない?
 そうですね、いま一応夏休みなので、大学生としては、9時はまだ起きてないですね。


Q:じゃあ、大学にもずっと通っている?
 いま夏休みですけども、もともと9月から、学校が再開するつもりだったんですけれども、でもいま授業ボイコットが明日からあるので、まだ学校は行かない状況で、明日とかもボイコットの集会に参加しに行きます。(翌日の9月2日は香港の全教育機関で授業ボイコットが呼びかけられていた)


Q:休みの日はどんなことを?
 この夏休みの話だったら、あまり休んでないですね。香港でいろいろおきて、まあデモも週1回ということではなく、ほぼ毎日いろいろ起きていますよ。政治的なこととか、逮捕された人がいるとか、デモがあるとか、そういう毎日いろんなこと起きるので、あまり休んでないですし、体が休んでいるとしても、心が本当にニュースとかスマホをチェックしたら全然休めない状況でした。


Q:ご家族は何人?
 お母さんとお父さんと私ですね、一人っ子です。


Q:ご家族は、あなたが運動していることを心配している?
 そうですね、もちろん心配の気持ちがあると思います。私は2012年から社会運動に参加し始めて、15歳から参加して、いま22歳になりましたけど、初めて15歳の時に社会運動に参加したときに、家族は反対しました。
 理由というのは、もともと私は政治に無関心な子なので、あまりそういう集会やデモに参加する印象がない。そして学生、中学生(香港は中学6年制なので日本で言う高校生)だから、なんだろう、学校に忠実的みたいな感じで、家族は反対しましたけど、私はけっこういい子ではないから、反抗しながら参加していって、そしていろいろやっていって、やっぱり両親に、私も、自分がやりたいからやっているというのを証明しましたので、お父さんお母さんも、尊重、私の参加に尊重という態度です。

Q:15歳のころの周庭さんって、どんな女の子だったんですか?
 そうですね、15歳は高校1年生だったんですけれども、あの時そうですね…アニメがすごく好きで、日本の文化もすごく好きで、あまりもちろん学校に行くこともあまり好きじゃないし、宿題とかも好きじゃないし、勉強とかもあまり好きじゃないし、すごく普通な子だったんです。


Q:そういう普通の女の子が、どうして戦おうと?
 私は、ある日フェイスブックをみて、「愛国教育」という学科が、あの時香港政府やろうとしてましたけど、愛国教育に関する情報とかニュースとかを見ました。で、たまたまですね、もともと政治に無関心なので、新聞紙とかもよまないし、SNSで、そういう愛国教育の話が出てきて、そして昔の学生組織「学民思潮」という学生団体にページを見つけて「あ、そういう中学生たちは私と同い年なのに、全然違うことやっているね」とか思って、だから色々調べて、愛国教育はすごい問題的なんだって気づいて、だから学生団体に加入しました。


Q:その「愛国教育」については、大きな疑問があったんですか?
 そうですね。愛国教育は、まず本当にやるのなら、私か私の年下の子たちも愛国教育を勉強しないとダメですね。愛国教育の内容はすごく問題的な部分だと思います。愛国教育の中にまずは、「中国はどれくらい強い国なのか」、「共産党はどれくらいいい政権なのか」を教える学科なので、だからあんまり私にとって教育というのは人を学生や子供たちをもっと自分の意見を考えるために教育をするということで、ある意見、あるはっきりした立場を教えるではなく、どうやって考えるかを教えることが教育だと思います。
 でも愛国教育はその反対で、自分で考えるのではなく、もう「中国はいい国だ」、「中国共産党政党はいい政党だ」ということを教える学科なので、すごく問題的だと思います。
(つづく)

参照:愛国教育については当ブログhttps://takase.hatenablog.jp/entry/20120917

香港はなぜ闘うのか2

 長月、節気は白露(はくろ)。昼夜の気温差が大きくなって朝夕に降りる露のことを白露という。そろそろ残暑も終わりのはずが、台風のあとのきのう東京は35℃を超え、9月としては6年ぶりの猛暑日。きょうもまた猛暑日だった。
 8日から初候「草露白」(くさのつゆ、しろし)。次候「鶺鴒鳴」(せきれい、なく)が13日から。18日からが末候「玄鳥去」(つばめ、さる)。卯月(4月)のはじめ「玄鳥至」(つばめ、きたる)から半年、ツバメが温かい南の土地に帰っていく。
 子どものころ、かやぶきの実家の軒先に、何組ものつがいが巣を作り、ヒナが大きな口をあけてチイチイ鳴いていた。最近ツバメをあまり見ないなと思っていたら、はやり激減しているらしい。(「ツバメが消えた、50年で4分の1 1万人の小6が調査」https://www.asahi.com/articles/ASM5F7J3PM5FPJLB00K.html
 田畑の減少などの自然環境と、巣作りに適した日本家屋が少なくなったなどの変化のせいだというが、それだけなのか。気になってもっと知りたくなる。
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 8日(日)は超強力台風の関東直撃で、フジTV「Mr.サンデー」は台風特集を予定していた。夕方、香港特集を編集しているところに「台風被害が大きくなると、香港特集は放送が来週に延びる可能性がある」との連絡がくる。結局放送されたのだが、画面左と下に台風情報のテロップが出っ放しだった。

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台風情報のテロップで覆われた画面。でも災害情報の方が大事ですから・・


 台風情報もあって、Mr.サンデーの視聴率は非常に高く、ここ1週間のフジテレビの全番組のなかで最高だったという。香港特集のピークは13%を超えた。たくさんの人に観てもらえて、よかった。

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                      (報道ステーションより)

 

 私が帰国する間際の4日、林鄭月娥(りんていげつが)行政長官が「逃亡犯条例改正案」の正式撤回を発表した。いわゆる民主派側の大きな勝利であり、これで沈静化するかと思いきや、反政府抗議活動は今も続いている。これから本格的な混迷の時期を迎える予感がする。というのは現在の「運動」は、もともとの「逃亡犯条例改正案」反対からその要求を大きく変化させ、普通選挙など実現のきわめて困難な「5大要求」を掲げるにいたっているからだ。敗北に向かって運動が突っ走っているのではとさえ思えてくる。

 《撤回表明後、初の週末となった7、8の両日もこれまでと変わらずデモが行われた。ただ、デモ隊の行動や訴えはいずれも「本筋」からは外れていた。
 7日のデモでは、8月31日の大規模デモの際、地下鉄駅構内で警察の取り締まりによって3人が死亡したというインターネット上で拡散したうわさをもとに、地下鉄駅が攻撃対象になった。警察や病院は「死亡者はいない」と再三否定しているが、デモ隊側の疑念は晴れない。
 8日は、米国での香港関連法の早期成立を訴えるため、米総領事館を目指して行進。「香港の自由のため戦おう」と英語で叫び、星条旗を振って香港政府や中国政府への圧力を求めた。
 デモ隊の一部の行動は激しさを増しているが、怒りの矛先は鉄道会社や防犯カメラなどに広がり、かえって運動の争点が見えにくくなっている。
 デモ隊が掲げてきた改正案撤回以外の要求実現の見通しはなお厳しい。現在、市民が最も強く求めているのは、警察の実力行使の是非を問う独立調査委員会の設置で、それに続いて普通選挙実施への要求も強い。
 しかし、調査委に関して政府は、既存の調査機関があることを理由に拒否し続けている。普通選挙に関しては、従来型のデモの繰り返しで実現する可能性はほぼない。
 デモ隊側が明確な指針を定められずにいる一方、政府側も取り締まりを強化することしかできず、混乱収束の道筋は描けていない。香港政府の背後に控える中国本土について、ロイター通信は2日、「中国側は解決の期限を設けていない」と語る林鄭長官の音声記録を報じた。抗議活動、香港政府、習近平政権がにらみ合う「持久戦」がしばらく続きそうだ。》(香港時事)https://www.jiji.com/jc/article?k=2019090900940&g=int

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旺角(モンコック)警察署前で集会規制に出てきた警官隊(9月3日未明)

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警察の暴力への抗議が高まっている。高校生や勤め帰りのOLなどごく普通の人が顔をマスクで隠しながら抗議に加わる。

 香港情勢を理解するために、今回の運動の端緒から見ていこう。
(つづく)

香港はなぜ闘うのか1

 香港情勢を先月30日から取材して、きのう5日早朝に帰国しました。
 8日(日)夜10時からの「Mr.サンデー」(フジTV)で取材成果の一部を紹介しますので、ぜひご覧ください。
 私の問題意識は、「なぜ香港人はあんなにがんばって闘うのか?」でした。かつて私は、香港人はお金に最大の関心があって政治などには興味のない人々というイメージを持っていました。(香港人に謝ります。すみません!)
 日本のメディアでは、香港人の怒りや恐れ、闘うエートスがほとんど報じられていないと思うので、そのあたりにリアルに迫るべくいま編集中です。

 きょうから少しづつ香港取材の顛末を連載していきます。
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 香港では毎日どこかで集会・デモが行われているが、土曜日は大きなイベントがあるので、31日(土)の前日、30日(金)の早朝、香港に入った。宿泊費を節約して夜行便で行くが、5時間のフライトで睡眠時間は2~3時間なので私のような高齢者にはちょっとつらい。
 今回はカメラマンのSさん(女性だからカメラパースンか)と二人で取材した。
5年前の雨傘運動のリーダー、周庭さん(https://takase.hatenablog.jp/entry/2019/06/13/参照)を取材するアレンジができて、その日の夕方5時半に会うことになっていた。三脚はじめ撮影機材があるから荷物が重いが、やはり経費節約でバスに乗ってホテルに辿りつき、コーヒーを飲みながらほっと一息ついていた。
 すると、協力者からスマホのLINEに「ジョシュア・ウォン(黄之鋒)が逮捕された」との連絡が入った。黄之鋒さんといえば周庭さんの盟友だ。まだ22歳と若いが、2012年の「国民教育」反対運動のころからのリーダーで周庭さんとともに香港の自決権を掲げる「香港衆志(デモシスト)」という団体を立ち上げリーダーとなった。
 あす31日の大集会を控えた弾圧だろうとSさんと話し合っていると、さらにLINEに連絡が。「周庭も逮捕された」!!
 この時点で、想定していた取材予定がすべて狂ってしまった。実は私は周庭さんに独占密着取材をし、それを特集の柱の一つにするつもりだったのだ。

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ワンチャイ警察本部前

 おっとり刀で彼女が連行された警察へ。香港は何度か来ているが、さほど土地鑑はないのでスマホの地図アプリで探していく。このあたりの取材態勢は大企業メディアとは全く違う。午前10時半、ワンチャイ警察本部前に着くと30人ほどの取材者がたむろしている。あとで分かったのだが、周庭さんが自宅で逮捕されたのが9時だったそうだから、警察にはかなり早く着いたわけだ。
 とりあえず、その辺の記者連中から情報を仕入れ、立ちレポを何パターンか撮影。ここから裁判所に移送されるはずなので出口で警察車両をチェックするが、動きのないまま午後4時になる。ここでほぼ半日を浪費してしまった。食事をとっていなかったので、いったん警察を離れ食堂へ。そこに、周庭さんはすでに裁判所の中にいるとの情報。すわ、と裁判所へ急ぐ。

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100人超の取材陣がぎゅうぎゅう詰めで待ち受ける。私も場所を確保しようとむりやり体を押し込んだ

 裁判所の正面入り口は、100人を優に超す報道陣が密集して二人を待ち受けていた。夕方5時半ごろ、二人が出てきて即席の記者会見となった。

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二人は裁判所前で声明を発表した

 二人は、警察当局の許可を得ていない6月の集会への参加を扇動した罪などで起訴され、夕保釈された。明日の大集会も「違法集会」であり、政府は、参加者は厳しくとりしまるぞ、という強いメッセージを発したとみることができる。
 周庭さんは今回が3回目の逮捕だが、起訴されたのは初めて。夜11時から朝7時までの夜間外出と出国が禁止された。

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日本人記者たちに囲まれる周庭さん。彼女は日本への広報を自らに課しているようだ。


 これからも闘い続ける、我々の意志をくじくことはできないとたくさんのカメラの前で、周庭さんは語った。会見のあと彼女に近づいて、「ご連絡した高世です、なんとか取材させてください」と頼み込んだ。「はい、わかりました」と彼女はいうが、どうなるかわからない。
 到着直後から波乱の展開となった。

こんどはトウモロコシ爆買いで尻尾をふる安倍外交

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 栗の実が大きくなってきた。いよいよ夏も終わりに向かっている。夜、草むらからさかんに虫の音が聞こえる。コオロギか。
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 トランプ大統領は、デンマークからグリーンランドを買うだの、ハリケーンが米国に上陸する前に核爆弾で破壊することを提案するだの、ますますその「地」をあらわにして世界中を呆れさせている。そのトランプ氏にあくまでも忠実なポチぶりを発揮しているのが安倍首相だ。

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 米中経済戦争で中国に売れなくなった米国の農産物を、日本が引き受けて買いましょうと安倍首相が約束したそうだ。おいおい。
 「中国が約束を守らないから、米国ではトウモロコシが余っている。その全てを日本が買ってくれ、農家はとても幸せだ」
 トランプ氏は二十五日、仏ビアリッツでの日米首脳会談でこう語った。安倍首相は「日本では害虫被害に悩まされており、民間に追加購入需要がある」と応じたという。
 しかし、「害虫被害」は爆買いをとりつくろうための根拠のない言い訳に過ぎないようだ。

 《日米首脳が25日の会談で合意した米国産飼料用トウモロコシの大量輸入について、農業関係者から疑問の声が上がっている。
 菅義偉官房長官は27日午前の会見で、安倍晋三首相が表明した大量輸入について「(日本国内で)供給が不足する可能性がある」と説明した。日本では、7月からガの幼虫である「ツマジロクサヨトウ」の発生が確認されていて、九州地方を中心に11県で被害が出ている。そのため、米国から年間輸入量の3カ月分にあたる275万トン程度が輸入される見込みだという。トランプ米大統領は日本の輸入額について「数億ドル(数百億円)」と述べている。
 では、ツマジロクサヨトウの被害はどの程度なのか。275万トンを輸入するということで、すでに供給不足になっているのかと思いきや、農水省に確認したところ「現状で営農活動に影響は出ていません」(植物防疫課)と話す。発生が確認された地域では、大量発生を防ぐために防除や早期の刈り取りを促しているが、作物への影響はわずか。「現時点で被害量はまとめていません」(同)という。》(https://dot.asahi.com/dot/2019082700038.html?page=1
 さらに、米国から輸入するのは実を使用する「デントコーン」と呼ばれるトウモロコシで、日本で被害が出ている葉や茎を砕いて利用するトウモロコシ(サイレージコーン)とは性質が異なるという。
 記事はこうまとめている。
 《「害虫被害が限定的であることは調べればすぐにわかるのに、ほとんどのメディアがそのことに触れていません。安倍政権の説明を“忖度”してそのまま報道するとは、情けないとしか言いようがありません」(鈴木宣弘・東京大教授(農業経済学))
 安倍政権は、トウモロコシの大量輸入に向けて新たな補助金制度を作るという。莫大な税金を投入して得られる“国益”とは何か。ただ、トランプ大統領が上機嫌であることだけはたしかなようだ。》(AERA dot.編集部/西岡千史)

 売国外交と呼びたくなる安倍政権の外交・安全保障政策だが、これを54%もの人が「評価する」と答え、「評価しない」の31%を大きく上回っているという。(日本テレビの定例世論調査)

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https://www.ntv.co.jp/yoron/?fbclid=IwAR1MdxX2BsswazKy509TUhsl8vdJxx-YNWYEPj3NoySUg2pWlHvu3fuksjI
 愕然とする結果である。メディアの「忖度報道」の結果、人々に知らされていないからなのか。考え込んでしまう。

ストを敵視する、メマイがするニュース

 処暑(しょしょ)になった。「処」とは止まる、留まるという意味で、暑さも収まるころ。本来の七夕はこの時期だそうで、天の川もきれいに見えるはずだが、台風が続々やってきてすっきりしない空がつづく。
 23日から初候の「綿柎開」(わたのはなしべ、ひらく)。次候「天地始粛」(てんち、はじめてさむし)が28日から。末候「禾乃登」(こくのもの、すなわちみのる)が9月3日から。
 9月1日は二百十日立春から数えて210日目で、このころが台風の多い時期。稲が熟してくるときにあたるから要警戒ということだ。今年はすでに大雨被害が相次いだ。これ以上、災害がないよう祈りたい。

 明日、遅すぎる墓参りに山形に帰省しよう。この夏は長い休みがとれなかったな。
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 17日、ロバート・キャンベルさんが「こういう報道は初めて見た」とテレビのニュースに疑問を呈していた。

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 問題にしたのは《お盆のUターンラッシュの混雑が続くなか、従業員のストライキで営業を停止していた東北自動車道上り線の佐野サービスエリアで営業が再開されました》というニュース。
 まるで、スト破りを肯定するかのような報じ方だ。
 メディアでニュースを発する人たち自身が、権利意識が希薄なのだが、寄らば大樹、精神的に萎れた日本人の姿を浮き彫りにしてもいる。

 これについてもう一人、正論をぶっているのが斎藤美奈子さん。

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 《今般の日本では「ストライキ」という言葉すら禁句なのか。東北自動車上り線・佐野サービスエリア(SA)で14日から続いている従業員のストを伝える報道はメマイがしそうだった。
 営業休止、店舗休止、就業拒否などの漠然とした表現。「通常ならお盆で混雑する時期の出来事に利用客に戸惑いや落胆が広がっている」(朝日新聞・15日)などの迷惑そうな語り口。
 この件を比較的しっかり報じていた日刊スポーツによると、発端は運営会社のケイセイ・フーズの経営危機と、それを糾弾した従業員の不当解雇だったらしい。詳細は不明ながら、経営者視点、消費者視点の報道ばかりなのが気になる。
 もう一件、メマイがしそうだったのは17日に放送されたNHKの朝ドラ「なつぞら」である。妊娠した主人公を産休明けに契約社員にするとの通達に怒り、社長室を訪れたアニメ制作会社の従業員たち。ところが「まるで組合のデモじゃないですか」という社長に対し、現場の責任者は「これは組合を超えたわれわれ一人一人の個人的な支援」と答えるのだ。何それ。労働組合の団体交渉ではないと?主人公のモデルとなった奥山玲子は東映動画の組合活動も頑張った人なのに?
 こうして曖昧にされる労働者の権利。ニュースといいドラマといい、何を気にしているのか知りたいよ。(文藝評論家)》(東京新聞8月21日)
 日本の若者たちの中には、デモ、集会、ストなどというものは、本来やってはいけないことだと思っている人も多い。そうなると、香港で人口の4分の1、5分の1という広範な大衆がデモ行進をする事態は全く理解できないだろう。
 斎藤美奈子さんが「メマイがする」のは正常な感覚の持ち主だからであるが、その違和感をぜひ発信し続けてほしい。

    ごくまともなこと言っている斎藤さんが「左翼」に見えてしまうのはご時世か。当たり前のことを言うのに勇気がいる時代に入ったようだ。

記録とはこういうものと「拝謁記」

 アブラゼミが2匹並んでいた。たぶんオスとメスで、これから距離を詰めて交尾に至るのだろうが、暑いのと用事があったので見ることができなかった。セミは長いこと土の中で過ごし、ごくわずかな地上での生を生殖のために生きる。あの鳴き声もそのためと知るとちょっと切ない。

     8月の猛暑日が10日になり、記録的な暑さになっているが、一方で、夜は虫の音が季節が秋に近づいているのを知らせてくれる。

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 今朝の朝日川柳は「拝謁(はいえつ)記」でもちきりだ。


令和から昭和に戻る「拝謁記」徳島県 坂本義教)
天皇が「下剋上」と言う空しさよ山口県 青野浩二)

 NHKがスクープした昭和天皇の「生の声」である。

 《初代宮内庁長官を務めた故田島道治(みちじ)が昭和天皇との詳細なやりとりを記録した資料が十九日、公開された。日本の独立回復を祝う一九五二年五月の式典で、昭和天皇が戦争への後悔と反省を表明しようとしたにもかかわらず、当時の吉田茂首相の反対で「お言葉」から削除された詳細が明らかになった。昭和天皇から退位や、改憲による再軍備の必要性に触れるやりとりもあった。
 田島は四八年、宮内庁の前身である宮内府長官に就任、四九年から五三年まで宮内庁長官を務めた。資料は「拝謁記」と題された手帳やノート計十八冊。遺族から提供を受けたNHKが公表した。
 拝謁記には昭和天皇が式典でのお言葉に、「私ハどうしても反省といふ字をどうしても入れねばと思ふ」(五二年一月十一日)と述べたことが記されていた。吉田首相は「戦争を御始めになつた責任があるといはれる危険がある」と反対。昭和天皇に伝えられ、お言葉から削除された。研究書で内容は指摘されていたが、今回、詳細が判明した。
 軍部が暴走した張作霖爆殺事件(二八年)や、青年将校による二・二六事件(三六年)、太平洋戦争などの回想も登場。「終戦で戦争を止める位なら宣戦前か或はもつと早く止める事が出来なかつたかといふやうな疑を退位論者でなくとも疑問を持つと思う」と言いつつ「事の実際としてハ下剋上でとても出来るものではなかつた」(五一年十二月十七日)と後悔を記している。南京事件にも触れ、「ひどい事が行ハれてる」と聞いたとした上で「此事を注意もしなかつた」と悔やんだ。
 退位の可能性は繰り返し言及。「講和ガ訂結サレタ時ニ又退位等ノ論が出テイロイロノ情勢ガ許セバ退位トカ譲位トカイフコトモ考ヘラルル」(四九年十二月十九日)。独立回復を祝う式典のお言葉を検討する中では「国民が退位を希望するなら少しも躊躇せぬといふ事も書いて貰ひたい」(五一年十二月十三日)と述べていた。退位で「日本の安定ニ害がある様ニ思ふ」との言葉もあった。
 東西冷戦が激化する中、戦前の軍隊を否定しつつも、改憲による再軍備も主張。「軍備の点だけ公明正大に堂々と改正してやつた方がいい様ニ思ふ」(五二年二月十一日)。独立回復直後には「侵略を受ける脅威がある以上防衛的の新軍備なしといふ訳ニはいかぬ」(五二年五月八日)と述べた。田島は「政治ニ天皇は関与されぬ御立場」「それは禁句」などといさめている。 (引用部は一部原文のまま)》(中日新聞

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 戦後のこの時点で、天皇がかつての軍部の暴走を嫌悪し、戦争について強い「反省」の気持ちを持っていたことが分かる。

 また南京事件に触れた点も興味深い。
 《昭和天皇は52年2月20日に、自身にも反省することが多くあると述べ、その一つに南京事件を挙げた。南京での行為について、「ひくい其筋(そのすじ)でないもの」からうっすらと耳にしたが、表だっての報告はなかったと明かし、「従って私は此事(このこと)を注意もしなかったが市ヶ谷裁判(東京裁判)で公ニなった事を見れば実ニひどい」と述べた。その上で、「私の届かぬ事であるが軍も政府も国民もすべて下剋上とか軍部の専横を見逃すとか皆反省すればわるい事があるからそれらを皆反省して繰返したくないものだ」と語ったとされる》(朝日新聞

 そして注目される三つ目は、改憲による再軍備の主張である。
 《「侵略者のない世の中ニなれば武備ハ入らぬが侵略者が人間社会にある以上 軍隊は不得巳(やむをえず)必要だといふ事ハ残念ながら道理がある」「今それがいへぬから困る」(ともに52年3月11日)などとも語り、たびたび吉田首相に訴えようとしたが、田島がいさめたことも記されている》(朝日新聞
 田島がいさめたのも当然で、天皇改憲せよと首相に訴えるなどは憲法違反になる。
 一方、昭和天皇は《「再軍備によつて旧軍閥式の再抬頭(たいとう)は絶対にいやだ」(52年5月8日)と述べるなど、戦前のような軍隊や軍閥の復活には否定的だった》(朝日新聞

 天皇の「おことば」は、錦の御旗のようにそれぞれの政治勢力の「取りっこ」になる。憲法上は政治的存在ではないはずなのだが、拝謁記がここまで注目されるのは単なる歴史学の史料的価値を越えて政治的意味をも持つからだろう。
 それにしてもよく日記が残っていたものだ。田島本人は、病気で入院するさい、すべて焼くつもりだったのを、親族が保存を主張して焼却を免れたという。
 モリカケ問題で日本では公文書でさえ廃棄、隠滅、改竄が頻繁に行われるなか、資料の保存がいかに大事かを見せつけたという意味でも重要な発掘だった。
 今朝の朝日川柳からもう一首。


記録とはこういうものと「拝謁記」(東京都 上田耕作)

 日記を保存し公開に踏み切った遺族に感謝するとともに、早い全面公開を希望する。

 

(なお、今回のNHKによる日記公開に批判的な論評として「昭和天皇の戦争責任問題「反省」という点を特筆大書したいNHK特番,田島道治に関する放送(2019年8月18日)は,加藤恭子の17年前の学術研究をどう踏まえているのか」を参照。)
http://blog.livedoor.jp/bbgmgt/archives/1075530553.html

千鳥ヶ淵戦没者墓苑をめぐる

 東京は36度の猛暑。「危険な暑さ」のなか、千鳥ヶ淵戦没者墓苑に行った。実はきのう参拝しようと思ったのだが、着いたのが午後5時の閉門時間をわずかに過ぎて入れなかったのだ。私にとっては、ここに参拝にくることが年の一つの節目になっている。
暑さもあって、さすがに人影はまばらだったが、私がいた間に20人ほど参拝者があった。ちょっと意外なことに、若い人が多かった。

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 千鳥ヶ淵前没者墓苑には、日中戦争および太平洋戦争の海外での戦没者240万人(軍人・軍属・一般邦人)のうち、引き取り手のない遺骨およそ37万柱を安置している。戦没者のうち、6割が戦病死・餓死だったとされる。戦場で勇敢に戦って散ったというイメージとは程遠い現実だった。あの戦争をはじめたことだけでなく、多くの兵士を無駄死にさせた無謀極まりない作戦指導もまた大きな戦争責任ではないか。
 戦没者の運命を思うと、幸運な世の中に生れあわせたことに身が引き締まる思いがする。私がフィリピンで「発見」した数百の遺骨もここに納められていることを思うとなおさらだ。
https://takase.hatenablog.jp/entry/20080913
 千鳥ヶ淵前没者墓苑のことをあまり知らない人もいると思うので、ここで少し紹介してみたい。http://www.env.go.jp/garden/chidorigafuchi/
 ここはいわば日本版無名戦士の墓(軍属や民間人の遺骨もあるが)で、遺骨とは無縁な靖国神社とは性格を異にする。
 米国大使はじめ各国要人が献花に訪れ、皇室もここに参拝する。靖国神社には皇室は行かない。靖国神社は危機感を持っているようで、「靖国神社が昨秋、当時の天皇陛下に2019年の神社創立150年に合わせた参拝を求める極めて異例の「行幸請願」を宮内庁に行い、断られていた」というニュースが流れた。(13日、共同)

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天皇皇后の花籠があった

 墓苑の施設の中心には六角堂がある。六角形の納骨堂である。中央の陶棺の下に戦域別の六部屋に分けた地下室があり、遺骨が安置されている。平成3年以降は増設された地下納骨室に納められるようになっている。

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 昭和天皇御製の碑。御苑創建の昭和34年(1959年)に御苑のために詠んだ歌である。(書は秩父宮妃)
「くにのため いのちささげし ひとびとの ことをおもへば むねせまりくる」
 「むねせまりくる」は英語の解説文では”Our heart ache with with deep emotion”(心が痛む)となっている。深い反省の気持ちがうかがえる。

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 上皇御製の碑。「終戦60周年を迎えるにあたり、新春「歌会始の儀」で詠まれた上皇陛下の御製」。(常陸宮妃の書)
「いくさなきよを あゆみきて おもひいづ かのかたきひを いきしひとびと」
 自分は戦争を知らないけれど、戦争の悲惨を忘れないようにしたいという思いが強かったのだろう。

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 向かって左が「平和祈念碑」で、引揚に伴う死没者に哀悼の意を表するものだ。終戦の大混乱のなか、引き揚げ途中に20万人もが犠牲になった。いかに酷い極限的な状況であったかが偲ばれる。
 右は「追悼慰霊碑」で、強制抑留者の犠牲者を哀悼するもの。旧ソ連は約57万5千人の日本の軍人・軍属・民間人をシベリアや中央アジアに強制抑留し、過酷な強制労働に従事させた。極寒の劣悪な環境、栄養失調などで約5万5千人が犠牲になっている。
人々は戦場でだけ犠牲になったのではない。
 この墓苑をめぐると、「先の大戦」がもたらしたさまざまな側面の悲劇を知り、考えることができる。

 まだ参拝したことがない人はぜひ一度行ってみてください。
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 千鳥ヶ淵墓苑から帰ろうと歩いて行ったら靖国神社に通じる通りで、黒服の集団が歩道に長い列を作っている。何だろうと近づいて話しかけたら、在日香港人たちだった。

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 この近くに香港経済貿易代表部があり、香港警察の暴力行為に抗議しに行くと言う。日本人も加わっており、「ご一緒にどうですか」と声をかけられた。

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 みなマスクをしているのは、中国当局による顔認証を怖れているのか。プラカードには「日本の若い人たちが花火を見ている時に、香港の若者は」「私たちの香港を応援してください」とある。
 応援します。