戦火の中で育つウクライナの民主主義

 ウクライナ軍の反撃がロシアの継戦能力を揺るがす一方で、国内では民主主義の強さを示す出来事が起きている。

 長距離ドローンによる連日の攻撃で、ロシアの製油・輸出インフラは深刻な打撃を受けた。ロシアの精製能力は4割前後が失われ、最大の外貨収入源であるエネルギー輸出も止めざるを得ない状況に追い込まれている。象徴的なのは、石油大国のロシアが、燃料不足を補うためインドからガソリンを輸入し始めたという事態だ

 ロシアは「報復」としていっそう非人道的攻撃を強め、民間人の犠牲も続いているが、しかし、戦争全体の力学にはこれまでとは異なる変化が見え始めている。

 一方、ウクライナの国内政治にも大きな動きがあった。
 改革派の旗手として国防のデジタル化を牽引してきたフェドロフ国防相が解任されると、首都キーウでは市民が抗議デモを起こし、6日間にわたって連日続いた。このデモは、昨夏の国家汚職対策局縮小案への抗議デモに次ぐ規模の盛り上がりを見せ、それだけ政権への不満が高まっていることは確かだ。

フェドロフ国防相解任に抗議するウクライナ市民(NHK国際報道)

 しかし、そのこと以上に重要なのは、市民が自由に抗議の声を上げられることである。 ウクライナは戒厳令下にあるにもかかわらず、デモは弾圧されていない。そしてそのデモがゼレンスキー大統領への圧力となり、ついにはフェドロフ国防相と対立していたシルスキー総司令官の解任という具体的な政治決定を動かすに至った。市民の声が封じられないというだけでなく、その声が実際に政治を動かす。ここに、ウクライナに市民社会がすでに根付いている証拠を見ることができる。

NHK国際報道より

 実際、報道の自由度ランキングでも、ウクライナは毎年のように順位を上げ、日本やアメリカを追い越している。(2026年版では180カ国中ウクライナが55位、日本62位、アメリカ64位)

 戦争のさなかに順位を上げ続けているのは驚くほかない。
 ウクライナの記者たちは、政府の「大本営発表」的な自軍に有利に発表される情報を批判し、戦地での取材制限に抵抗している。ウクライナでは、政治に透明性を求める圧力が現実に機能している。

 戦火の中にありながら、政権への異議申し立てが可能であり、それが記録され、報じられ続けている。この国はロシアの侵略に抵抗しながら、真に民主的な国家として生き延びることをめざしている。

 こうしたウクライナ社会のありようは、戦争の進め方にも表れている。
 ウクライナ・ロシア地域研究者の赤尾光春さんは、両国の戦い方の違いを次のように指摘している。

ロシアとウクライナの戦い方における決定的な違いは、前者による攻撃の主な標的が市民である一方、後者が徹底的に軍事施設やインフラ施設を標的にしてきたことにある

 この点でウクライナに義があることは言うまでもないが、露国民はそのおかげで戦争に直接関係しているという感覚をさほどもたなくて済んでいる一方、ウクライナの戦い方はプーチン体制の支配を快く思っていない国民層のウクライナに対する反感を呼び起こすこともない。

 侵略国に対するこのようなウクライナのほとんど模範的とさえ言える戦い方は、ロシア国民の戦時体制に対する不満が戦争の相手国というよりは、自国の政府に向かい得るような可能性に開かれているようにも思われる。

 残念ながら、今のところそのような可能性が開花する兆しはまるで見えないのだが。

 ウクライナ国民の多くは、プーチン政権とそれを支える政治的・軍事的エリートだけでなく、そうした政権に奴隷のように従っている露国民全般への憎悪や侮蔑の念で満たされている。だが、支援国や国際社会の手前もあるとはいえ、同時に戦時下で市民を殺傷することへの原理的な忌避感も持ち合わせている。》(赤尾さんのFBより)

 ロシアは民間人を恐怖で支配しようとする。一方、ウクライナは継戦能力を削ぐことを目的に軍事・エネルギー施設を狙う。
 この違いは単なる軍事戦略の違いではない。民主主義を守ろうとする国家と、独裁国家との価値観の違いでもある。そしてウクライナ国民の抵抗を支えているのは、ロシアのような自由のない国には絶対にならないという決意でもある