拉致問題の膠着を破る鍵について5

国立高校そばの歩道橋から

 東京の桜の名所の一つ、JR中央線国立(くにたち)駅の前から伸びる「大学通り」で満開の桜を眺めてきた。桜が心をうきうきさせるのか、行き交う人々に笑顔が浮かぶ。
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 台湾の大地震。痛ましい被害の映像がニュースで流れたが、同時に、被害の復旧、被災者への支援のすばやさ、的確さには目を見張った。

避難所にはプライバシーが保てる個室スペースが用意された(TBS報道特集より)

中にいるのが怖い人には外のテント

 地震から4時間後に設置された避難所には冷房完備、十分な食糧はもちろん、電話、充電設備、シャワーからボランティアのマッサージ、心のケア相談窓口、子どもの遊び場まで用意されていた。傾いたビルは地震の翌日から解体工事が始まっていたという。すごい。感銘を受けた。花蓮市幹部は日本の東日本大震災岩手県を訪れ、災害対応を学び、毎週、市の職員は災害対応を練ってきた、その成果が表れたのだそうだ。

子どもの遊び場まで用意されていた(報道特集より)

 日本は百年前から被災者は体育館に雑魚寝。「遅れている」ことをはっきり自覚すべきだ。近年、かつては日本をお手本にしていたアジアの諸国に見習うことが多い。

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 北大西洋条約機構NATO)は、4日で創設から75周年を迎えた創立時の12カ国からスウェーデンが3月7日に正式に加盟して32カ国になった。

 4日に行われた75周年の記念式典後、ストルテンベルグ事務総長はウクライナのクレバ外相と共同声明を発表。「ウクライナ支援が予測可能で、公平な負担分担で、そして長続きすることを保証する必要がある」と訴えた。

 これに対しクレバ氏は、「ロシアはウクライナを地図から消し去ろうとしている。記念日を台無しにしたくないが、私のメッセージは(地対空ミサイル)パトリオットだ」と述べた。ロシアは連日、ミサイルやドローンでウクライナのエネルギーインフラを含む生活基盤を破壊している。NATOが防空システムの供与を加速できるかが問われている。
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前回のつづき

 3月27日の集会で最初に挨拶に立ったのは、参議院拉致問題特別委員会の委員長、松下新平参議院議員だった。

 松下議員といえば、『週刊文春』で彼が「外交顧問兼外交秘書」にしていた中国人女性が風俗店を整体院といつわりコロナの持続化給付金を騙しとった疑いで書類送検されたことが報じられたばかり。

(2月28日号、https://bunshun.jp/denshiban/articles/b8122

 この女性は、中国が各国に置く「中国警察の海外拠点」の疑いのある秋葉原の「福州総会」の元幹部だった。松下議員とこの女性の関係についてはすでに21年12月23日号で記事になり、松下議員は週刊文春を名誉棄損で訴え、裁判中だ。

 集会には立場の異なる多様な顔ぶれが参加して興味深かった。主催した和田春樹氏をふくめ報告者の所説には同意し難いものも多々あったが、全体としては、今の「救う会」が主唱する「全拉致被害者の即時一括帰国」路線からの大転換をめざすことで一致していたと思う。

 つまり、拉致問題における安倍政治の否定である。

 ジャーナリストの有田芳生さん参議院議員時代、250本の質問主意書を出し、拉致問題の前進を活動の重点に置いていた。

集会で報告する有田芳生さん

 有田さんは2点を主張した。

 一つ、政府は、2014年に北朝鮮側から生存情報がもたらされた田中実さんと金田龍光さんについて具体的なアクションを取れということだ。

takase.hatenablog.jp


 田中実さんは、日本政府が認定した拉致被害者だが、家庭の事情で養護施設で育ち「家族会」には誰も入っていない。田中さん、金田さん以外の拉致被害者の新たな情報がないという理由で、二人の生存情報を記した報告書の受け取りを拒み、その情報を国民に隠蔽したままもう10年が過ぎた。

 日本に田中さんの家族はいないが、かつての担任の先生は「田中を頼むぞ」と田中さんの友人たちに言い残して亡くなったという。また、親友の同級生は、田中さんが帰国したら空港までみんなで迎えに行きたいと有田さんに語ったという。田中さんは今年7月で75歳。これ以上放置することは人道上も許されない。

右が田中実さん、左が親友で今も田中さんを案じている

 もう一つは、横田家とキム・ウンギョンさんのことだ。

 2014年に横田滋さん早紀江さん夫妻が孫娘であるウンギョンさんの一家が面会できたことは、大きな喜びだった。しかし、孫と会うのがこの1回で終わりというのではあまりに酷い。「救う会」は反対するだろうが、ぜひまたお孫さんと会ってください、今度はウンギョンさんを日本に招きましょうと政府が提案すべきだ

 滋さんの生前、横田夫妻は、ウンギョンさんを日本に招きたいと思っていた。そして滋さんが「ウンギョンさんが日本に来たら、ディスニーランドに連れていきたい」というと早紀江さんが「いや、おとうさん、(横田家が新潟に来る前に住んでいた)広島や歌舞伎も見せたい」などと楽しい夢を語り合っていたのだ。滋さんは間に合わなかったが、早紀江さんをぜひウンギョンさん一家と再会させてあげたい。

 再会の実現は、北朝鮮との交渉を促進するチャンスにもなる。14年3月の横田夫妻とウンギョンさんの面会を実現するための北朝鮮との接触が同年5月の「ストックホルム合意」(北朝鮮が「拉致問題は解決済み」としてきた立場を改めて、「特別調査委員会」を設置し、拉致被害者を含む日本人行方不明者の調査を行うと約束)に結実した。

 人道問題から外交的成果へとつなげることをめざすべきだ。

 有田さんの二つの提案は、説得的で理にかなったものと私には思われた。
(つづく)