マリウポリで起きている「ロシア化」の実態

 世界が注視するマリウポリだが、ロシアは全市を制圧したと発表した。そこで何が起きているのか。

 人工衛星運用企業「マクサー・テクノロジーズ」は21日、マリウポリから西に20キロほど離れた近郊の村に作られた集団埋葬地だとする衛星画像を公開した。この画像の詳しい分析はまだだが、マリウポリ市議会は「ロシア軍は3000人から9000人の遺体を埋めた可能性がある」としている。

NHKニュースより)
 市民の証言などからも、相当数の住民の処刑、虐殺が行われたことは確実だ。しかし、ロシアの「占領」下、犯罪の検証が今後難しくなる可能性がある。

 

 以下、19日のNHK「クロ現」より。

 2週間ほど前に、親ロシア派の市長が任命されたと発表された。この人物を知る、マリウポリ市議のドミトロ・ザバヴィンさんは、「この人(任命された人)は私たちの同僚で、マリウポリ市議会の議員でした。彼はアルコール依存症で、議会でも酔っ払っていました。ロシア人は彼をいとも簡単にコントロールするでしょう」

 さらにロシア側は市内に移動式の焼却炉を持ち込み、民間人の遺体を焼こうとしているという。サバヴィンさんは「彼らはマリウポリの犯罪が世界から厳しく非難されることを知っています。だから犯罪の痕跡を消すことにしたのです」という。

 そして、人道に反すると指摘されているのがロシア側への市民の連行で、マリウポリだけで4万人以上にも上ると市当局は公表している。

 3月、ロシア政府が公表した文書に記されていたのは、ウクライナの市民10万人をロシア連邦内の85の地域に移送させる計画。それはロシア全土にわたり、サハリンなど、極東の地域にも7,000人以上を送るとしている。

(クロ現より)

 知人が極東に連行されたというヴラディスラヴ・セルデュコフさん
「最後に連絡をとったとき、彼らは『サハリンにいる』と話していました。『書類にサインをさせられ、2年間は出られない』と聞きました。それ以来、彼らとは連絡がとれていません」


 マリウポリのジャーナリスト、アンナ・ムルリキナさん
多くの子どもたちをロシアに強制移送する準備が進められています。そして養子縁組しようとしているのです。子どもたちはウクライナ国民であり、これは犯罪行為です」

「私は地元の事例しか知りません。30人の子どもが病院から連行されました。(連行された)少女はおじいさんと電話で話し、『家に帰りたい』と何度も訴えていました」

 

 子どもを連れ去ってロシア人と「養子縁組」させる計画が本当ならば、ナチスにも比すべき残酷な民族抹殺策だ。

 在日ウクライナ人ユーチューバーの「さわやん」がマリウポリから600人の子どもが連れ去られたことを「拉致」と表現して抗議している。

www.youtube.com

 

 これが、彼らが「ネオナチのウクライナ民族主義者を打倒」したあとやろうとしている「ロシア化」だ。

 ロシアがやっていることを「ジェノサイド」と呼べるかどうか議論があるが、少なくとも「ジェノサイド的」な狙いがあると言っていいだろう。ここまで酷いことをしているとは私の予想以上だった。

 

 今回の戦争については、とにかく早く停戦させるため、ゼレンスキー大統領に東部2州はロシアにくれてやるように説得せよなどという声もあるが、侵略を容認する「落としどころ」にウクライナ人が納得するはずがない。

孫崎享氏のツイート。ウクライナは米国の代理戦争を戦っていることになっている)


 また、「戦争当事国の一方に全面加担する国会決議に与党と一緒に賛成し、国民総動員令で軍隊への招集令状を出し民間人に武器を渡し戦争参加を強要するゼレンスキーの演説をスタンディングオベーションで手放しで称賛する行為は戦争の肯定です」(ジャーナリスト鮫島浩氏)という「どっちもどっち論」は現地の実態をまったく見ていない。
 鮫島氏は「民間人に武器を渡し戦争参加を強要するゼレンスキー」と書くが、ウクライナで取材した私の友人たちは、市民が進んで武器をとり、武器をとらない人は兵士に料理を作ったり、市民に生活物資を配ったりと自分ができることで士気高く対ロシア防衛戦に貢献していると伝えている。

 以上のような議論を批判する写真家の石田昌隆氏の意見に同意する。
ワルシャワ・ゲットー蜂起とか、ウクライナソ連に組み込まれていたときのホロドモールのことなどを知っていれば、プーチン/ロシアによる侵略戦争に抵抗して戦っているウクライナ人に対して、武器を捨てろなどと無責任なことを外部の人間が言えるはずがない」。

 

 ウクライナ人たちが何を考え、何を求めているのかを踏まえないで、この戦争をダシにして自分の思想、立場を語るべきではないと思う。