ガザで進行する常軌を逸した虐殺を世界は止めることができないでいる。戦闘開始から40日余り。死者はガザだけで1万1千人を超え、このうち約4500人は子どもだという。
【エルサレム共同】「国連は18日、イスラエル軍が地上侵攻するパレスチナ自治区ガザ北部で住民が避難する三つの学校が攻撃され、犠牲者が多数出たと明らかにした。国連要員は18日に北部ガザ市の地区最大のシファ病院に入り「絶望的」と説明。(略)
国連によると、北部で17、18日に攻撃された三つの学校は国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)が運営。うちジャバリヤ難民キャンプの学校での犠牲者は数十人から200人という報道がある。別の学校では50人超が死亡したとの情報もある。」
学校や病院を攻撃するというのは、ウクライナでロシアがドローンでやっていることだが、イスラエルはそれを地上軍が行い、恐ろしい数の犠牲者が出ている。先日、国連職員が100人以上死亡したと発表され、イスラエル軍が国連をもターゲットにしていることを示す。先の学校も国連機関の運営だ。
国連安全保障理事会はようやく「長期間の人道的な戦闘休止と回廊設置」を求める決議案を賛成多数(米英露は棄権)で採択した。しかし、これまで「即時停戦」決議はアメリカの拒否権で否決されている。
2000年以降、アメリカが行使した拒否権は15回で、うち13回がパレスチナ問題に関するものだ。これではアメリカがいくら人権、人道を語ろうが、ダブルスタンダードと言われるだろう。
「サンデーモーニング」でのコメントをいくつか紹介する。
寺島実郎さん
ウクライナ戦争とイスラエル戦争の二つの戦争のつながりを認識しておくことが重要だ。ロシアにしてみればウクライナにむけられている目を目くらましをかける意味。もう一つはイランの影だ。イランがハマスを後ろで支援していて、アメリカとイスラエルを揺さぶって混乱させることに利益を感じている。実は二つの戦争を結ぶ結節点がイスラエルの隣国、シリアなんですよ。
シリアはこないだまでイスラム国による内戦、大混乱だった。アサド政権を支援する形でロシアが動いた。シリアとロシアは蜜月で、シリアにはロシアの空軍と海軍の正式な基地がはりついているんですよ。いまウクライナに人を取られているが5000人くらいロシアがはりついている。シーア派のイラン革命防衛隊が約7000人シリアに入っていると言われている。それにレバノンのシーア派のヒズボラが5000人とも8000人とも言われる人数が入っている。
イスラエル、国際ユダヤネットワークがユダヤ人のゼレンスキーのウクライナを支援している構図が見えるが、正式にはイスラエルは中立でいたいといって突っ込まない。なぜかというと、シリアの置かれている状況は、ロシアが本気で動き出したらまずいので中立を装っている。だが実質的にはウクライナ支援で動いている。ようするに一言で言うと、アメリカの中東戦略の失敗の構図がここにバーンと凝縮して出てきている。その矛盾が噴き出てきている。どうしてこういう構図になっているのかをしっかり認識しないと、ただ人道危機だというだけで昂奮していてはだめだ。
なぜ、アメリカがイスラエル支持なのか。ユダヤロビーが強いからだという説明が多いが、ユダヤ人の人口はアメリカで750万人、全人口の2.2%しかなく、マイノリティもいいとこなんです。9.11の同時多発テロあたりからパラダイムが変ってきた。クリスチャンシオニズム、イスラエルを支持するクリスチャン連合ができたのが2006年です。福音派プロテスタント、トランプの岩盤支持層なんて言われてるが、キリスト教のユダヤ化というか、キリスト教徒なのにイスラエル、ユダヤを支持する人たちが、イスラムの脅威をテコにしてずーっと浸透していってアメリカを変えている。
だからイスラエルはアメリカにとって「やっかいな同盟国」、たった950万人の国がアメリカを振り回してサダムフセインを葬り去ったし、イランを封じ込めている。日本はというと「従順な同盟国」の典型と言われていて、「やっかいな同盟国」イスラエルとのコントラストがおもしろいとよく国際社会ではいわれている。
安田菜津紀さん
拒否権という政治カードが誰を犠牲にしてきたのか。ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が国際法違反だという意思表示自体は必要だと思う。一方で、ガザにかぎらずパレスチナの市民に対してイスラエルの政府が綿々と行ってきた人権侵害だったり殺戮だったり、国家ぐるみの暴力は見過ごすのかということになると、アメリカという大国が命には格差があるということを自任するということになると思う。いまガザに閉じ込められている知人たちから日に日に悲鳴のような声が私のところまで届いている。それに対して国連は限界を露呈しているが、それでも人権、人道にダブルスタンダードを持ち込むなということは言い続けなければならないことだと思う。
青木理さん
拒否権もそうだが、大国の横暴というのが憎悪やテロを生み出してきた。ロシアによるウクライナ侵攻も、アメリカによるイラク侵攻もそうだ。
ただ、世代で少し変わってきた。アメリカは65歳以上になると80%以上がイスラエルの軍事侵攻を支持しているが、18歳~34歳だと27%になっている。だからそれぞれの国の中で少数ではあっても異論や異議申し立てがある、声を上げるメディアや市民運動がある、そのひろがりが国際世論を作っていくということに、かすかなんだが我々は希望を持たなくちゃならない。とくにメディアの仕事をしている我々は希望をもたなくてはならないし、言い続けなくてはならないと思う。