7日、パレスチナ暫定自治区のガザ地区を実効支配するイスラム組織ハマスが突如、イスラエルへの攻撃を開始。イスラエル側も激しい空爆で応酬し、これまでに双方の死者は2100人を超えた(11日早朝現在)という。
「これはイスラエルにとっての911だ」とイスラエルは「戦争状態」を宣言した。
きのうで出張前の投稿は終わりにしようと思ったが、書いておきたい。
いろんな見方が出来ると思うが、この問題は大きくいえば、冷戦期の反共政策の負の遺産ということができる。
1979年にアフガニスタンに侵攻したソ連に対抗するため、アメリカはサウジアラビアとパキスタンの協力のもと、イスラム教徒義勇兵を反共の戦士として起用した。イスラム戦士たちは共産主義を無神論として激しく敵視したので、対ソ連軍の戦力としては格好の存在だった。その中から生まれてきたのが、国際テロ組織アルカイダ、そしてIS(イスラム国)だった。
9.11同時多発テロは、アメリカがイスラムをご都合主義的に利用してきたことの強烈なしっぺ返しだった。実は日本における統一協会の問題も、宗教の反共政策利用の負の遺産に悩まされるという、全世界的な流れと無縁ではない。
今回の事態にしても、そもそもハマスは、元はといえば、左派系のパレスチナ民族主義組織に対抗するためにイスラエルがテコ入れしてきた過去をもつ。
激動する今の世界を、こうした大きな構図でとらえることを、私の尊敬する中東研究者、酒井啓子・千葉大教授が提唱している。酒井さんの去年11月の論文から引用、参照して紹介する。
日本は、アメリカに言われるまま「対テロ戦争」に深く関わってきた。アフガニスタンでは米軍の後方支援を行い、イラク戦争では陸自を派遣した。さらに経済的にも、アフガニスタンへの「復興支援」7000億円超を、イラクへは「復興支援」50億ドルに緊急復興支援(ISによる被害に対して)を6億ドル以上つぎ込んでいる。
結局、アフガニスタンもイラクも大義なき戦争だったことがはっきりし、アメリカは敗退したわけだが、これだけの資金と労力を費やして日本が関わってきた「対テロ戦争」を日本は真剣に振り返ったことがない。英国では16年に「チルコット報告書」でイラク戦争開戦にかんする問題点が明らかにされた。
アメリカでは19年、アフガニスタン戦争における情報隠蔽を暴いたワシントン・ポストの取材録「アフガニスタン・ペーパーズ」が出版された。
「それに対して、日本はどうか。過去20年間の日本の「9.11後」への関与をどう総括し、今後の政策にどのようにいかすことを考えているのか。先日、政策実務にも深く関わっておられる国際政治学の大先輩が、こう指摘された『日本は総括しない国だ』。そして『微調整ばかりがうまい』。」
「日本が総括しない、微調整で済む、と思いこんでいるのは、日本が直面している課題が、国際政治全体を覆うものの一部だという認識がないからではないか。日本がアフガニスタンと関わったのは、たまたま米国に付き合っただけだと考え、たまたま『勝共』の名を持つ組織と関係しただけでしかない、と人ごとのように考える。そして、関わりを持ったことで生じる責任を回避する。
冷戦期の遺恨や対テロ戦争の残滓は世界に遍在し、日本もそのくすぶった焼け跡のなかにある。それを自覚して初めて、日本は世界共通となっている歴史の負の遺産に取り組むことができる。」(酒井啓子「対テロ戦争、負の遺産 過去を総括しない日本」(アジア時報2022年11月)より)
「微調整」ではなく、ラディカルに、根本的に過去を総括して世界共通の課題に向かわなくてはならない。この意味で日本は、政治家もメディアもふくめて問われ続けている。