気候変動と難民

takase222015-11-26

イスラム国」のテロが世界に拡散していく一方、ロシア機がトルコに撃墜されるなど各国の思惑の衝突も表面化して、情勢はますます混沌としてきた。
こういうとき、中東の専門家のなかでは、酒井啓子の見方を知りたくなる。
酒井氏の「パリとシリアとイラクベイルートの死者を悼む」に考えさせられた。
http://www.newsweekjapan.jp/column/sakai/2015/11/post-948.php

パリの同時多発テロの前日、「イスラム国」によるレバノンでも同時多発テロが起きていた。「中東のパリ」と呼ばれたベイルートの中心部二箇所で自爆テロがあり、43人の死者と239人以上が負傷した。しかし、パリとベイルートでは世界での報じられ方も悼まれ方も違っていた。
《あるレバノン人医師はブログにこう記す。「私たちの国民が死亡した時は、どこの国も私たちの国旗の色のライトアップはしなかった。世界中が追悼の意を示すこともなかった。その死は国際ニュースの中のどうでもいい1つの断片にすぎず、世界のどこかで起きた出来事にすぎなかった」》http://www.cnn.co.jp/world/35073624.html

酒井氏はこのベイルートのテロを問題にする。
ベイルートもパリも、「イスラーム国」との戦いの延長で、テロによる報復にあった。だが、その二つは受け取られ方の点で、大きく違う。
 ひとつは、ベイルートでの事件が、欧米メディアのなかでかき消されていることだ。英インディペンデント紙の報道によると、「イスラーム過激主義の動向を懸念している国」リストのなかで、フランスとレバノンは同率2位(67%)である(1位は「ボコハラム」の攻勢に悩むナイジェリア(68%)だ)。中東の出来事だって、パリと同じく「被害者」として扱われてしかるべきなのに、という思いが、中東諸国だけではなく世界に広がる。アメリカの歌手、ベット・ミドラーは、こうツイートしている。「パリの事件も悼ましいが、ベイルートでの犠牲者も忘れてはいけない」。

 ふたつ目は、フランスが「イスラーム国」との戦いに深く関与していることが覆い隠されていることだ。ベイルートで起きていることは「イスラーム国」の周辺として波及しても当たり前だが、遠いフランスは理不尽なテロに巻き込まれただけ、と思う。それは、違う。フランスは、堂々と「イスラーム国」との戦い(実際にはアサド政権のシリアとの戦い?)に参戦している。参戦して空爆でシリアの人々の命を脅かしているのに、フランスの人々は戦線から遠いところにいる。だったら遠いところから近いところに引きずりだしてやろうじゃないか――。犯人が劇場で、「フランスはシリアで起きていることを知るべきだ」とフランス語で叫んだのは、そういう意味ではないか。(略)
イスラーム国」には誰もが頭を痛めている。なんとかしなければと、思っている。だが「イスラーム国」の「テロ」にあうと欧米諸国はいずれも、自分たちの国(と先進国の仲間)だけを守ることが「イスラーム国=テロとの戦い」だと線を引いてしまい、他の被害にあっている国や社会との連帯の声は、聞こえない。自国の利益を追求するのに、「テロとの戦い」という錦の御旗を利用しているだけだ。

 そして「テロとの戦い」と主張してやっていることは、ただ攻撃と破壊だけである。攻撃のあとにどういう未来を、平和を約束するのかへの言及は、ない。反対に、同じ被害者である難民を拒否し、「テロ」予備軍とみなす。

 「テロとの戦いで国際社会は一致する」というならば、その被害者すべてに対して、共鳴と連帯の手を差し伸べるべきではないのか。そうじゃなくとも、まずシリアやイラクレバノンで紛争の被害にあっている人たちに対して、「被害者だ」とみなすことが大事ではないのか。もっといえば、自分たちの国の決定によって「被害者」になる人たちがいることに、目をつぶらないでいる必要があるのではないのか。》

問題をラディカル(根底的)に捉えていかないと・・

さて、パリでは今月末、国連気候変動枠組み条約締結国会議(COP21)が開かれる。
近年、気候と難民の相関が注目されてきた。

「砂漠化がテロを招く」という説を以前紹介したが、気候と政治的不安定化の関係は広く共有されるようになっている。http://d.hatena.ne.jp/takase22/20150221

《1987年以来、揺れつづけているスーダンダルフールの混乱は、国家の弱体化によって一層悪化した自己崩壊のダイナミクスの象徴的な例となっている。ナイジェリア北部では土地の劣化が進み、農業や放牧の生活様式が破壊され、住民は移住を余儀なくされた。幾百もの村落が放棄され、その結果、民衆は難民となり、地域の不安定化につながった。このことが、ボコ・ハラムというイスラム原理主義運動の温床となったのである。》(アニエス・シナイ「気候変動が紛争を増大させる」世界11月号)

シリア情勢については―
《シリア難民の大きな要因の一つとして、地球温暖化がある。最新の研究によると、温暖化が風の流れを変えることによってシリア地域の降雨量を減少させ、高温が土壌水分を蒸発させた。このため2006−2010年に史上最悪と言われる干ばつが発生し、アサド政権が水を大量に必要とする綿花栽培を奨励していたことも重なって、地下水の枯渇、農業生産量の三分の一減少、ほぼ全ての家畜の喪失、穀物価格の高騰、栄養不良による子供の病気蔓延が起きた。その結果、すでにイラク難民であふれていた国境沿いの都市に150万人以上のシリア難民が新たに難民として流入し、まさにこのような都市で2010年の「アラブの春」につながる反政府革命暴動が勃発した。》(明日香壽川、世界12月号)
日本史上でも、農民一揆が干ばつや冷害が要因で起きていることを考えれば理解できるはずだと明日香氏は論じる。
さらに、そこに強権的な体制がある場合、飢餓を増幅する。北朝鮮のような極限的な体制では、民衆が不満の声をあげることさえ封じられ、紛争という形にはならないということはおさえておく必要がある。

ともあれ、毎年膨れ上がる難民の数と、先進国への流入はますます加速すると見られる。
日本では、COP21にむけて、蛍光灯をLEDにする方針を打ち出したとの報道。
LED化自体はよいのだが、日本政府には、そういうチマチマした方策よりも、自然エネルギーの早急な拡大への抜本的な(まさにラディカルな)支援に踏み切るよう望む。