「ウクライナは1週間でおしまいだ」(プーチン)

 ウクライナ東部のハルキウ州で2日続けてロシア軍による攻撃があり、50人以上が死亡した。

NHKニュースより

 5日は犠牲者を追悼するため村の住民が集まっていたところにミサイル攻撃を受け、子どもを含む52人が犠牲になり、翌6日も攻撃で子どもが亡くなった。民間人が集まっているところを狙い撃ちしたと思われる。国連は調査団を現地に派遣し、情報収集を進めることになった。

 一方、プーチン大統領は5日、国際情勢に関する会議で演説し、西側からの援助が打ち切られればウクライナの軍事活動と経済は数日で崩壊するだろうと豪語したウクライナ支援を含む米政府予算を巡る混乱や、スロバキアの親ロ派政権の誕生など、プーチンにとっては追い風の状況が続くのを受けて、勝利への自信を見せた。

 プーチン発言―

 「ウクライナの予算は均衡し、マクロ経済指標も安定している。しかし、それはなぜか?毎月寄せられる数十億ドルの支援のおかげだ。(中略)もし誰かがそれを止めれば(パチンと指を鳴らす)、何もかも1週間ともたないだろう。防衛システムも同じだ。想像してみてほしい。もし明日、支援が止まったなら弾薬が尽きて1週間しかもたないだろう。」

NHKニュースより

 さらに「原子力で推進する地球全体が射程の巡航ミサイル『ブレベストニク』の最終実験に成功した」、核弾頭の搭載が可能な「最新の戦略兵器について作業がほぼ完了した」とも語った。欧米を恫喝し、いっそう強い対決姿勢を見せた。

 ゼレンスキー大統領も危機感を強めている。今のところ、和平への道は戦場で決まるので、これから冬までの戦況に注目したい。
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 ノーベル平和賞は、イランの収監中の女性人権活動家、ナルゲス・モハンマディ氏(51)に決まった。

 収監中に平和賞授与が決まったのは、10年に受賞した中国の人権活動家、劉暁波氏(17年に死去)以来。

 レイスアンデルセン委員長は理由について、モハンマディ氏が差別と抑圧に反対し、女性が尊厳のある生活を送るための闘いを支援してきたと評価。「女性で、人権擁護者で自由の戦士だ。イランにおける人権、自由、民主主義を求める彼女の勇敢な闘いをたたえたい」と述べた。

 米紙ニューヨーク・タイムズによると、モハンマディ氏は受賞決定後「私は民主主義、自由、平等に向けた努力を決してやめない。ノーベル賞は私に希望と熱意をもたらした。女性が解放されるまで差別やジェンダーに基づく抑圧と闘い続ける」との声明を出した。

NHK「国際報道」より

朝日新聞7日朝刊

 彼女、03年に平和賞を受賞したイラン人女性弁護士、シリン・エバディ氏が設立した人権活動団体「人権擁護センター」(DHRC)の副所長として、女性の権利拡大や死刑廃止に向けた運動を続けてきたという。

 シリン・エバディ氏は、私がイラン取材のさい、事務所を訪ねてお会いしたことがある。いつも事務所が物理的に襲われるのを覚悟していると語る肝の据わった人だった。背は小さいが、体中からエネルギーが放射しているような迫力を感じたことを思い出す。

シリン・エバディ氏(2017年)wikipediaより

 モハンマディ氏が最初に逮捕されたのは11年。その後も保釈と収監を繰り返し、現在も首都テヘラン郊外の刑務所で獄中生活を送っている。

 モハンマディ氏は受賞決定後、ニューヨーク・タイムズ紙に「私は民主主義、自由、平等に向けた努力を決してやめない。ノーベル賞は私に希望と熱意をもたらした。女性が解放されるまで差別やジェンダーに基づく抑圧と闘い続ける」との声明を出した

 この受賞に反対するものではない。ただ、この授賞が超保守的なイスラム体制への近代からの攻撃というふうに受け止められないか、心配になる。

 イラン政治に詳しい田中浩一郎・慶応大教授のコメントを紹介したい。こうしたちょっと引いた見方も不可欠のように思うからだ。

《モハンマディさんにノーベル平和賞を授与することを通じ、ノーベル委員会は「イランで街頭行動を行う国民の側に立つ」とのメッセージを込めたのだろう。だが、かえって政府が国民への圧迫を強める方向に作用し、ヒジャブ(ヘジャブ)着用への取り締まりも一層激しくなりそうだ。

 イラン政府が国内で締め付けを強めれば、さらに国際的な孤立が進む。ウクライナに侵攻するロシアに対する軍事支援や、イラン核合意が再建できない状況について、イランに行動の是正を求める国際的な声も強まるだろう。

 イランを含む「グローバルサウス」は近年、ノーベル平和賞について、気にいらない勢力に西側諸国が外圧をかけるための「道具」だとみなしている。ロシアや中国など、イラン政府に近い立場にあるとみられている国々からは、同情的な反応が出てくるだろう。

 モハンマディさんのような「善意の囚人」はイラン国内だけでなく、世界中にたくさんいる。ノーベル委員会がモハンマディさん個人に焦点を当てたことには違和感も覚える。「善意の囚人」全体に向けたメッセージを発してもよかったのではないか。》(朝日朝刊7日)

 今回のノーベル平和賞は、タリバン政権の下での「女性抑圧」がイスラムの邪悪さと結びつけられ、近代社会が人権を振りかざしてアフガニスタンに制裁を科し続ける構図とパラレルに見えてしまう。「イラン政府が国内で締め付けを強めれば、さらに国際的な孤立が進む」(田中)。そしてイラン指導部はもっと保守強硬路線をとるという事態悪化のループにならないよう祈るばかりだ。

 近代が「非近代」または「未近代」とどうつきあっていくか、考え続けている。