日本の平均気温は、7月も8月も過去最高だったという。
先日ニュースで、人間活動による生態系の破壊が止まらないという問題をやっていた。例えば、原生林の減少は大問題だが、今後がさらに憂慮されるという。というのは今残っている原生林の7割は、人間が切り拓いた農地に隣接しており、非常に危うい状態だというのだ。
きわめて多様な植物種を擁する原生林には、多様な動物が植物との共生関係にある。それぞれの植物種は、受粉一つとっても、パートナーの動物が決まっている。ところが、原生林が隣接する人間の開拓した畑はモノカルチャーで単一の栽培種で占められ、多様な動物が住む環境ではない。多くの動物がその付近から遠ざかっていく。すると、モノカルチャー畑と接する原生林のたくさんの植物が受粉できない。植物と動物の関係が崩れてしまう結果、人間の手で伐採しなくとも原生森は衰弱し消滅していくというのである。
いま、気候変動(地球温暖化)や生物多様性の減少など人類の経済活動が地球に及ぼす影響のすさまじさから、地質年代を「人新世」に変えようという議論が起きている。
人類全体が危機の時代だが、もっと近未来でわが日本をみると放置できない安全保障上のお寒い状況がある。核戦争が起きたら、日本の人口の6割が餓死するというのだ。
「国際物流停止による世界の餓死者が日本に集中する」という衝撃的な研究成果を朝日新聞が報じた。米国ラトガース大学の研究者らが、局地的な核戦争が勃発した場合、直接的な被爆による死者は2700万人だが、「核の冬」による食料生産の減少と物流停止による2年後の餓死者は、食料自給率の低い日本に集中し、世界全体で2億5500万人の餓死者のうち、約3割の7200万人が日本の餓死者(日本の人口の6割)と推定した。
恐ろしい・・。核戦争でなくとも、日本を巻き込む紛争や巨大な自然災害によっても「食糧生産の減少」や「物流停止」は起こりうる。
歯に衣を着せぬ農業政策批判で知られる鈴木宣弘先生の話を聞こう。
「日本の本当の食料自給率は10%前後にすぎない!」 東大大学院 農学生命科学研究所の鈴木宣弘教授に聞く 2023年3月3日
https://www.kyodo.co.jp/life/2023-03-03_3756165/
「日本の食料自給率はカロリーベースで約37%といわれています。これでは低すぎるといわれている。しかし、日本は種、肥料なども輸入に頼っており、それを計算に入れると、本当の食料自給率は10%前後なのではないか」——この試算を明らかにするのは東京大学大学院・農学生命科学研究所の鈴木宣弘(すずき・のぶひろ)教授である。
「異常気象の頻発による世界的な不作や国際情勢を受けての輸出停止や規制が広がれば、日本が世界で最も飢餓に陥ってしまう可能性があるのです。このまま日本の農家が疲弊していき、本当に食料輸入が途絶えたら、国民は食べるものがなくなってしまいます」
だが、日本政府にはまだ危機感が欠如していると鈴木教授は見ている。「これまで政府は食料自給率を上げようと考えてこなかった。貿易自由化を進め、関税の撤廃要求に応えるなか、食料はカネを出して買えばいいというのが日本の政策なのです」
「ただ、建前としては5年ごとに食料自給率の目標を立ててきましたが、それを具体化するための工程表を作るわけでなく、予算をつけるわけでもなく、それで自給率は上がるわけがありません。むしろ下がってきたのです」
「ここに来ても、まだ政府は分かっていない。アメリカの意向に沿うことによって、農業をいけにえにして、自動車などで儲ければいいという人たちが主流なのです。ただ、スーパーに行けばモノがあって実感が湧きにくいとはいえ、国民は少しずつ危機感を持ちつつあります」
【アメリカが続けてきた洗脳】
日本は“自由貿易信奉”が強いと鈴木教授は言う。「それはアメリカが続けてきた洗脳によるものです。アメリカの大学で日本の若者たちに自由化と規制緩和は素晴らしいとマインドコントロールしてきた。その結果、アメリカの大企業が日本で儲かるようにしてきたのです。そのマインドコントロールが解けない。日本人のドグマに刷り込まれている」
「戦後、学校給食などを通じてアメリカの余った農産物を日本は食べて生きていきなさいと定められた。その流れが今も続いているのです。考えてみれば、武器やワクチンもそうです。余ったものを日本に売りつける構図です」
ここにきて、海外からモノが入りにくくなっているのは事実。「モノを買おうと思っても、例えば肉、魚、穀物など、中国が高く買いつけて、日本には回ってこない。天候不順による不作、ウクライナ戦争の影響で敵国にはモノを売らないという国が出てきた。そのうえ自国民を守るために輸出規制をかける国が今、30カ国ぐらいになっている。そういうところが増えていけば、ますますモノが入ってこなくなる」
中国をやたら敵視する人たちがいるが、鈴木教授は言う。「勇ましい議論ばかりするが、本気で中国を“攻撃”するようなことがあったら、あっという間に兵糧攻めされる。コスト高にあえいでいる農家もどんどん潰れてきている中、日本人は飢え死します」
「コスト高による赤字で農家がどんどん倒産している。農家の苦しみを放置して自分たちだけが生き残れるわけはない。我々は運命共同体なのだということを今こそわからなければいけないが、ひとごとのような“のんきさ”がある」
「政府がなかなか動かないのなら、食品業界全体、社会全体で何ができるのかを考えないといけません」
2022年度の補正予算はおよそ30兆円と巨額になった。コロナウイルスやウクライナ戦争の影響を和らげるための経済対策であったにも関わらず、農家の赤字を直接軽減するためのおカネがほとんどなかったことに政府の“のんきさ”がうかがえるというのが鈴木教授の見方だ。
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「農業をいけにえにして、自動車などで儲ければいい」というが、日本の最後の牙城、自動車産業自体が、EV化の遅れで風前の灯だ。
アメリカから高い武器をいくら買っても、肝心の食糧が確保できなければ始まらない。
日本の安全保障政策は根本から考え直さなくては。