きょうは311で各地のイベントなどのニュースを見ながら、被災者への連帯感を新たにした。被災地に戻る人、戻らない人、ともに悩みながらつらい決断を強いられている。
原発事故前は7千人超が暮らしていた双葉町に今住むのは60人だけ。きょうの『報道特集』にも登場していた伊沢史朗町長は、「国の政策に協力した町でコミュニティが一瞬で崩壊した。日本は必ず犠牲者を助ける国であってほしい」と訴える。
被災者への支援が行き届かないなかで、事故の教訓から「原発依存を可能なかぎり低減」するとされた政府方針が一転、岸田政権は閣議だけで、原発を「最大限活用」するとの新方針を打ち出した。不誠実極まりない。今朝の「朝日川柳」より―
原発も捨てずに何の震災忌 (神奈川県 朝広三猫子)
・・・・・・・・・
「鶴瓶の家族に乾杯」は夕食時にかかっていればチラチラ見るくらいだが、こないだはスケートの小平奈緒が出たのでしっかり観た。
ぶらり散歩系の番組では、ふつうは事前にロケハンで訪問先や会う人に打診し許可をとっておくのだが、「家族に乾杯」はアポなし取材で、ある意味ドキュメンタリーと言っていいかもしれない。
訪れたのは12年前の津波でやられた宮城県南三陸町。311が近いので選ばれたのか。
そこでたまたま出会ったのが、「森は海の恋人」で知られた畠山重篤さん(79)だったので驚いた。畠山さんは漁師で、NPO法人「森は海の恋人」理事長。
海に流れ込む川の上流の森が荒れると養殖のカキはうまく育たない。森の落ち葉でできる腐葉土には、カキの餌の植物プランクトンを育てる養分が含まれているからだ。1989年、漁師たちがブナやナラなど3万本の木を山に植え、そこは「カキの森」と名づけられた。
生態系の関係性の妙を教えてくれるいい話で、ジン・ネットでもこのテーマでニュース特集を作ったことがある。
鶴瓶も小平奈緒もまったく知らなかったようで、いま植林をしているという畠山さんに「漁師がなんで山に木を植えるの?」と戸惑っていた。
畠山さんが、「大震災の津波で志津川湾が大きな被害を受けたが、あっという間に海はよみがえった。それは森をちゃんとしていたからだ。海は壊れたが、木を植えていた山は壊れない。日本列島は3万5千もの川が流れていて、山と海の関係が大事だ」と一から説明。森林保全をしている人を表彰する国連の「フォレストヒーロー」に漁師である畠山さんが選ばれたというと、鶴瓶も「すごい人に会ったな」と感慨深げだった。この番組の多くの視聴者にいい啓蒙になっただろう。
ちなみに番組中の小平奈緒は、感情表現が素直で機転が利いており、相手を和ませていた。彼女の人柄が現れていてよかった。
・・・・・・・・・
黒澤明の映画『生きる』が70年の時を経て、カズオ・イシグロ脚本で英国でリメイクされた。その映画『LIVING生きる』が、アカデミー賞の脚本賞、主演男優賞にノミネートされているという。
舞台は第二次大戦後のロンドンで、毎日同じ列車で通勤するお堅い英国紳士が主人公。彼はある日、がんで余命半年と宣告される。そして貧困地区に公園を造ることに生きがいを見出すというストーリーラインはほぼ黒澤作品を踏襲しているという。
イシグロは幼いころ英国に移住。少年期、両親の影響で日本映画をよく観たといい、10代前半で映画『生きる』に出会って強い影響を受けた。彼はインタビューでこう言っている。
「子どもから大人になるころに『生きる』から非常に大きな影響を受けました。"人生にどう向き合うか?人生で大事なもの、価値あるものとは何か?“を考えさせられました。『日の名残り』(イシグロの小説)の執事と『LIVING』の主人公は非常に近い関係があると思います。これは決して偶然ではありません。だからこそ、今回『生きる』の脚本を書くことにしたとも言えます。私はオリジナルの『生きる』からメッセージを受け取り、小説を書き始めた頃から私の作品にはそれが生かされていると思います。」
だがイシグロは映画を"前向きな作品“にしようと、原作にはない新たな要素を加えている。『生きる』では、主人公が死んだあとは、すぐに同じ日常に戻ってしまうのに対し、『LIVING』では、原作になかった一人の若者が登場し、主人公の思いを受け継ぐというのだ。
これについてイシグロは―
「黒澤版の悲観主義や諦め、〝すぐ元の日常に戻ってしまう”という考えを踏襲した部分もあります。その反面"完全には元に戻らない“という思いもありました。小さな火花が一部の人たちに火をつけ、それが現代にまで連綿と受け継がれていくという思いです。その思いから、原作では大きく取り上げられなかった若者たちを今回は手厚く描こうと考えました。主人公のあとに続く若い世代に強い存在感を発揮させたかったのです。」
ここにはイシグロの時代状況への意識があるという。コロナ禍やデジタル化の一方で人と人との関係が希薄になる時代。そこで"生きる実感“をどう持つのか。
「一人ひとりのささやかな暮らしと外の世界との間に関連性を見出すのが難しい時代です。得に若い世代は、このような課題に直面している人が多いのではないかと思います。一生懸命働いていて、社会に貢献したいのに、リアルな世界とのつながりが分からないという悩みです。自分がどう役立っているのか、どう関わっているのか、わかりにくいのです。
働き手としての人生はむなしくからっぽだと諦めるのは簡単です。映画が伝えているのは、"そうじゃない、生きる実感を取り戻すべきだ“ということです。」
とイシグロは映画について述べ、若者に以下のメッセージを送る。
「社会人になったときは、意味のある仕事をしたい、自分の周りの社会を変えていきたいと思うものです。しかし、時がたつと共に、そんな夢の実現は無理だと思い、疲れて気力をなくし、世の中に恨みを抱くこともあります。自分が夢見みていたものに手が届かなくなってしまうのです。
力を尽くせば、自分の人生に閉塞感を抱き限界を感じていたとしても、それを意味あるものにして充実した人生を生きる方法が見つかるはずです。そうすれば、空っぽの人生をすばらしい人生へと変えられるはずです。」
時代の課題と向き合いながらメッセージを打ち出したという『LIVING』、ぜひ観てみたい。