ロシアのウクライナ侵略から1年

 ロシアのウクライナ侵略から24日でまる1年。ロシアが引くしか終結の道はないのだが、いつになるか、まったく見えない。

 ロシアのGDPはこの1年で2.1%しか落ちていないという。ニュースでは、ふんだんに商品が並ぶスーパーや家族連れが以前と同じように食事を楽しむレストランを映し出し、ロシアの市民生活にほとんど変わりがないと伝える。

 私たちの”期待“を裏切って、ロシア国民の圧倒的多数が今もプーチンと彼が始めた軍事作戦を支持している。

ネットやSNSを主に見る人の支持率がわずかに低いが、過大な期待はできそうにない。(NHKニュースより)

 一方、ウクライナGDPは3割マイナス。自分の国土が毎日破壊され、人びとの暮らしが戦時態勢になっているから当然と言えば当然だが、巨大な負担を強いられている。また、ウクライナを支援する欧米は、物価の高騰で人々の不満が高まっている。ウクライナ支援疲れは現実のものになりつつある。このままだと、先に息が切れるのは欧米の方になるかもしれない。

 万が一、ウクライナが軍事的に敗北してロシアの占領下におかれたとしても、最終的にロシアはこの地を”平定“できず、アフガニスタンの米軍のように、ロシア軍は撤退するだろうが、この場合、ウクライナの犠牲は恐ろしいものになる。アフガニスタンは米軍が侵略してから撤退まで20年もかかった。

 ロシアで閉鎖を余儀なくされた独立系メディア「ドーシチ」の創始者、ナタリア・シンジェーエワさんNHKの取材に、決してあきらめないと決意を語っていた。険しい道を歩む人々を応援したい。

ドーシチの最後の放送のこの挨拶は記憶に新しい。(NHK国際報道より)

ドーシチが創設されたのは2010年。自由を謳歌できそうな雰囲気があり、2011年には当時のメドベージェフ大統領がドーシチの番組に出たこともあった。

ウクライナ侵略ののち、ドーシチはラトビアに移り、さらに現在はオランダで放送を続ける。(NHK国際報道より)

 一方,ロシアという国と国民をラディカルに批判するのは、2015年にノーベル文学賞を受賞したアレクシェービッチさんだ。彼女は母がウクライナ人、父がベラルーシ人で、ロシアの侵略を知った時、戦争が始まることが信じられなかったという。

「この戦争は最初の数日で、帝国(ソビエト連邦)が消滅した後の世界観をひっくり返した。」

 アレクシェービッチさんは、ソ連が崩壊して”自由“を享受できる時代がきたときを思い返すと、「誰も”自由”とは何かを知らなかった」という。

 「強制収容所の人間は、解放されても”自由“が何であるかを知らないから、慣れ親しんだ”不自由“なことをし始めた」

 プーチンは、国民を鼓舞するプロパガンダのために作ったスローガン「ロシアはこんなに長い間屈辱を味わってはいけない」「ロシアは面子をつぶされてはいけない」つまり「我々は再び偉大な大国になるべきだ」と説いた。それは国民自身の思いで、プーチンは国民が聞きたがっている言葉を口にしたにすぎない」と彼女はいう。

 ロシア国民がそのに乗せられたのは「テレビとそこで働いているジャーナリストのせいだと言われている。国民をだましているという点では彼らは犯罪者だが、それがすべてでは決してない。人々がプロパガンダを受け入れなければ、プロパガンダは彼らに影響を与えることはできない」

アレクシェービッチさん(TBS報道特集の取材に答える)


「テレビは『国民が聞きたいと思っていること』を伝えている。私は“ロシア国民自身の罪”だと思う」。

 そして自戒を込めるように、「特にナショナリズムの危険性があると知っておくことが重要だ。文化活動に携わる人はナショナリズムに反対すべきだ。憎しみは私たちを救いはしないということを知らなければならない。時に『言葉は無力だ』と思うこともあるが、私はその絶望に負けたくない。」と語った。

 彼女も、別の視点から、この戦争が簡単には終わらないことを示唆している。

 メディアと国民が相互に劣化しあう負のスパイラルは、わが日本でも始まっているのでは、とわが身を振りかえった。