中村哲医師に学ぶ世界の不幸への向き合い方

 まだ質問があります!

 記者(江川紹子さん)の声を無視して会見場をそそくさと去る岸田総理。どこに「聞く耳」があるんだ?

https://twitter.com/Lanikaikailua/status/1557352281875484672

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 先日、悲惨な出来事をニュースなどで知って、「共感うつ」になる人がいるという話を本ブログに書いた。

 そして「理不尽さであふれるこの世の中を、どんな心構えで生きればよいのか」と振っておいてそのままになっていた。きょうはその続き―

 不幸な人を見たり、悲惨な出来事を知ったときにすべきことは、その不幸や悲惨を無くすか軽減するための行動であって、共感しすぎて心が乱れ、自分も不幸になることではないはずだ。具体的にはどんなことをすればよいのか・・・
https://takase.hatenablog.jp/entry/20220802

 これについては私の師の岡野守也さんがこう指摘していた。

「健全な市民にはもちろん適度な共感性は必要だが、共感しすぎて自分まで不幸になるのは、世界に不幸な人を一人増やすだけで、不幸を減らすことにはならない。あなたがすべきことは、不幸を少しでも減らす具体的な行動をすることであって、それができないのなら、そのことは忘れて、せめて自分が不幸になるのは避けるように」

 共感しすぎて疲れたり「うつ」になったりするよりも、人間として適度な共感の範囲にとどまりながら、自分にできる行動をすることの方が有効だというのは、理性的な考え方だ。

 では自分にできる具体的な行動にはどんなものがあるか。

 私を例にあげると、例えばウクライナでの悲惨な事態については―

ロシア大使館への抗議デモに行く
ウクライナへの救援活動に寄付する
SNSでのキャンペーンに賛同する。SNSで発信する
#知り合いとウクライナを話題にして語り合う
ウクライナ支援のTシャツを着る
#祈る

 以上のことをやっている。

 私は政治活動の経験もあるし、報道に携わってきたこともあって、デモや集会に行くこともおっくうではないが、そんなの無理という方も多いだろう。それに私は特にウクライナに関心が高いが、不幸が起きているのはウクライナに限らない。

 ある映画を観て考えさせられた。いま上映中の『荒野に希望の灯をともす』だ。

 これは、35年もの間、病や貧困に苦しむ人々に寄り添い続け、2019年12月にアフガニスタンで凶弾に倒れた医師、中村哲さんの生き方を描いている。私も中村哲さんを取材し、その人柄にふれて感銘を受けた一人だ。

中村哲さんは自ら現場作業にも従事した(映画より)

 中村さんは、大干ばつで飢餓が蔓延するなか、医療では人々を救えないと、井戸を掘り、用水路を建設する事業に取り組んだ。7年にわたる難工事を経て水路は完成。荒地は一面の緑あふれる大地となり、65万人もの人々の暮らしを支えている。

 難民たちは沃野に蘇った故郷に戻り、食うために武装集団の戦闘員になっていた男たちは銃を鍬に替えて農作業にいそしんでいる。

人々は荒野となった故郷を捨てた(映画より)

それが水路によって緑の大地によみがえった(映画より)

 まさに人々を不幸から救うすばらしい行動だ。この中村哲さんの生き方から何を学べるのだろうか。

 とてつもない大事業をなしとげた中村さんだが、座右の銘は意外なものだった。
(つづく)

 なお、中村哲さんの過去の言動にはいまも多くの気づきをいただいている。
 

takase.hatenablog.jp

 

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 日本の自然科学分野での研究力が下がり続けていることがわかった。

世界で2018~20年に発表された自然科学分野で影響力の大きな上位論文数で、日本が世界12位と、統計がある1981年以降、初めて10位以内から脱落した文部科学省科学技術・学術政策研究所が9日にまとめた調査結果で分かった。日本は研究力の低迷に歯止めがかかっていない。

 論文は、他の論文に引用されるほど注目度や影響力が高いとされる。同研究所によると、日本が12位になったのは、被引用数が上位10%に入る論文数だ。前期は10位で、新たにスペイン(10位)、韓国(11位)に抜かれた

 日本は論文総数でも前期の4位からインドに抜かれ5位、被引用数が上位1%の論文数も前期の9位からインドに抜かれ10位と、いずれも順位を下げた。とくに注目度の高い論文で、世界における存在感の低下が顕著だ。

 研究力の伸びが著しい中国は、上位1%論文数で初めて米国を上回り1位になった。上位10%論文数、論文総数も前期に続き1位で「3冠」を初めて達成した。(以下略)》(毎日新聞

mainichi.jp

 スペインや韓国といった、日本より人口も研究予算も少ない国々に抜かれている。

 これに注目するのは、オリンピックのメダル数比べのようなムード的なナショナリズムからではない。
 日本が将来、何で食っていくのか、もっというと、日本の次世代の「働き口」をどう確保するのかという問題だからだ。

 本ブログで繰り返し警鐘を鳴らしているが、沈みゆく日本の産業の最後の牙城、自動車産業が、EV化の波で「強み」を失いかねない。早く次の産業を育てなくてはならないのに政府のもたつきがひどい。

takase.hatenablog.jp

 中国が3冠というのは予想の範囲だが、このままでは次世代産業へとつながる最先端分野で軒並み中国の先行を許す可能性がある。

 そうなれば、「中国の特色ある社会主義」の方が、欧米の民主主義より優れているとして中国がますます強硬路線を突っ走るということにもなりかねない。世界がどちらに向かうかという趨勢にもかかわってくる。

 将来を見越して科学、産業を育てる戦略が、岸田総理の「新しい資本主義」には全く見えないことを憂慮している。