破壊される日本の対ミャンマー外交

 【おことわり】

 先日、突然本ブログがアクセスできなくなり、ご不便をおかけしました。みなさまにご心配いただき恐縮です。

 私の一部のブログ記事に関してあるところから削除要請があり、私がこれを無視したため、公開停止の措置が採られたという事情でした。トラブルは解決しましたのでご安心ください。

 ふたたびブログを公開するにあたって、執筆方針を少し変えざるをえないこともあり、タイトルも一新することにしました。題して「ジャーナルな日々」。

 以前このブログでも書きましたが、ジャーナリズムのもとはジャーナルという言葉で、語源をたどるとラテン語のdies(日という意味)になるそうです。そこから日々の記録という意味のdiaryも派生しました。Journalはdiaryより内面的なものを意味するようです。

 道端の草花のことから国際政治まで、私が出会って感じ、考えたことを記録していきます。後で読み返して、成長がたどれるように精進します。

 今後ともよろしくお願いします。

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 15日(日)の午後、渋谷で行われた、ミャンマーを熟知する2人によるトークイベント【「不完全国家」ミャンマーの行方】がすばらしかった。

 2人とは、井本勝幸・日本ミャンマー未来会議代表、NPO法人グレーター・メコン・センター副理事長と深沢淳一・読売新聞元アジア総局長で、ミャンマー危機の現状と展望を、国際NGOのリーダーとジャーナリストというそれぞれの立場から深く掘り下げてディスカッションするというもの。

 質疑応答を入れて2時間半、マスコミに載らない情報がいっぱいのディープなトークを満喫した。

 井本さんはミャンマーに遺る日本兵の遺骨を収集する活動をして各地をめぐるうち、多くの少数民族組織と信頼関係をもち、内戦の停戦仲介にも尽力するようになった。今の危機的なミャンマー情勢のなかでも出番がありそうなごく少数の日本人の一人だ。

日本ミャンマー未来会議 (teamimoto.jp)

 井本さん、深沢さんから得た、私にとって大事な情報を記録しておこう。

 まず、意外だったのが、民主派の「国民統一政府」NUG(National Unity Government of Myanmar)傘下の武装組織「国民防衛隊」PDF(People’s Defense Force)が戦場でも善戦しているという情報だ。

 クーデターのあと、ミャンマー国民は国際社会に助けを求めたが、何ら具体的な救済がなされず、犠牲者が増えるばかりの状況に、若者たちは武器をとって軍を倒すしかないと立ち上がった。
 少数民族の軍隊から軍事訓練を受けたPDFメンバーはそれぞれの故郷に帰り、いまは全土に村単位で部隊があるという。また、NUGが集めた資金で、部隊によっては良い武器も備えている。

 国軍の兵士は士気が低いうえ、国民全体が反軍なので、軍側の動きなどが筒抜けになって、地上戦ではPDFが押し気味に戦いを進めているという。

 国軍の損害は大きく兵員の数が不足、海軍を投入し慣れない地上戦で大敗北。警察さらには消防隊まで動員されているという。

 これまでもミャンマーでは少数民族武装闘争が続いてきたが、民族自治をめぐる戦いだったので、少数民族は国軍が自分たちの土地に入ってきたときだけ戦闘し、都市部まで攻撃をしかけることはなかった。ところが今回は、PDFがビルマ族の町や村でも国軍施設を襲っている。国軍にとっては大変な脅威になっているというのだ。

 NHKはじめマスコミでは、PDFは武器も手製の銃など貧弱で、国軍にやられっぱなしと報じられているが、それとはまったく違う情報だ。

 ただ、PDFが国軍を打ち負かす展開はありえないと井本さんは言う。やはり武器は質量とも国軍が圧倒しており、今もベラルーシなどからどんどん調達している。
(ちなみにミャンマーの兵器輸入もとは多い方からロシア、中国そして3位があのウクライナ

 このまま犠牲者が出続けるねじり合いが長期化する可能性が高いと見られ、どういう決着に持っていくか、日本としてもしっかり状況を見極めながら役割を果たしていかなくてはならない。

 国軍は地上戦で劣勢なので、PDFにやられた戦場にある村落を「敵」として空爆したり、村ごと焼き払うという蛮行を行っている。そのため、避難民が急激に増えている。避難民の数は、1カ月前が80万、今は100万人になっている。

 井本さんはカレン族やカヤ族などの避難民40万人が押し寄せているタイ国境で人道支援を届ける陣頭指揮をとっている。

 インドはチン州やザガイン地方からの避難民を受け入れているが、タイは避難民を国内に入れない。支援物資は人がかついで国境の川向こうに運んでいる。
タイ国境での変化は、ミャンマー国軍が派出所やポストを撤収して地上部隊がいなくなったこと。そのかわり、空爆が大変でひんぱんに防空壕に避難しているという。

(右が井本さん、左が深沢さん。上の写真、井本さんたちは日の丸にWe are watching「我々は見てるぞ」と書いて、空爆するなとアピールしている)

 1988年に軍政に対して学生が立ち上がったあと、07年にもジャーナリスト長井健司さんが殉職した大きな民主化運動があったが、いずれも1カ月ほどで流血の惨事のあと鎮圧された。

 ところが今回は1年以上たっても闘いが続いている。それはなぜか?

 この問題については井本さんも深沢さんも「愛国心」を大きな要因として挙げた

 2012年に本格化した民主化プロセス(同年1月、政治犯解放、5月アウンサンスーチー国会に初登院)を10年経験し、初めて自由を知った国民が、ミャンマーという国に誇りと愛国心を持ったのではないか、というのだ。

 かつては学生と僧侶が中心だったのに対して、今回の運動は、国民の全ての階層、全ての民族が全土で立ちあがっている。さらには国外のミャンマー人も熱心に支援を続けている。

 それは、せっかく「自分たちの国」になったミャンマーを軍による理不尽なクーデターで失ってたまるか、という意識からだというのである。深沢さんは「新愛国心」と表現した。

 なるほど!と得心するものがあった。ウクライナ国民が、ロシアへの抵抗戦争が始まってから、「ウクライナに栄光あれ!」とお互いに声を掛け合うようになっていると知って、香港の運動と同じだな、と思っていたこととつながった。

 2019年、香港では、今は禁止用語になった「光復香港 時代革命」が合言葉になったが、「光復香港」とは、よく「香港を取り戻せ」と邦訳されるが、「香港に(ふたたび)栄光あれ」に近い。

 あのとき、香港で「こんなに香港を愛していたことに気付いて自分でもびっくりしている」と語る人に何人もあった。また、香港の個人主義的な雰囲気がいやで日本に留学したというある人は、民主化運動のなかで、香港と香港人が愛おしいという気持ちを初めて持ったという。

 強い愛国心が今の粘り強い運動を支えていると知って、「愛国心」についてもっと考えてみたいと思う。

 

 ミャンマー情勢への日本の対応については、二人とも日本には「まともな外交」がないと強く批判している

 とくに、クーデターの首謀者、ミンアウンフラインと「パイプ」をもつという、日本ミャンマー協会の会長、渡邊秀央氏、息子で協会事務総長の祐介氏が、対ミャンマー外交を白紙委任されたような形になっていて、絶大な影響力を行使している現状は問題だ。

 今月あたまにも、渡辺氏はミャンマーを訪問、軍政の閣僚たち(計画財務相、商業相、投資・対外経済関係相、農業・畜産・灌漑相、労働相)と次々に会って「日本からの支援」と「二国間協力」について話し合っている。

(The Global New Light of Myanmar 5月6日付。投資・対外経済関係相と渡邊秀央氏の会見を報じる記事)

(同5月7日付。労働相が渡邊親子と会談したことを報じる記事。アンドウ・ハルヒコ氏が同席したとある)

 民間団体であっても、今のクーデター政権の閣僚と二国間関係を深めましょうなどということを話し合うこと自体、大問題だが、さらに、渡邊親子にAndo Haruhikoという人物が同席していることに驚愕する。

 安藤晴彦氏は内閣官房内閣審議官で現役の官僚である。これでは事実上、日本政府が今のクーデター政権を支持していることになるではないか。

 渡邊親子と日本政府の異様な関係については、篠田英朗さんが「日本外交を『指揮』する渡邊親子の破壊力」で批判している。
https://agora-web.jp/archives/2051634.html

 とにかく、日本をまともな外交をする国にしなければ。

 ウクライナ情勢にかくれて、ミャンマーにかんする報道が激減し、ミャンマーはもう片づいたかのような感じになっているが、問題はむしろこれからだ。

 クーデター政権は来年、総選挙をやって既成事実化をはかるが、これはなんとしても阻止しないと、ますますミャンマーは混迷する。

 メディアが日本が前向きな役割を果たせるよう、自覚をもって報道を続けてほしい。

(井本勝幸さん(右)と。このあと、二次会で楽しく飲んだ)