ネット上の誹謗中傷と既存メディア

 ツイッターの匿名アカウント「Dappi」の「ウソ投稿」で名誉を傷つけられたとして、立憲民主党参院議員2人が、損害賠償を求めWeb関連会社を提訴した。

 以下は13日、テレ朝の「モーニングショー」が報じた内容。
《「野党がギャーギャー」「屑(くず)中の屑」。Dappiには野党議員を激しく攻撃する書き込みがある。昨年10月には、森友学園問題に関連して、公文書の改ざんを命じられ自殺した近畿財務局の職員に関連して、「近財職員は杉尾秀哉や小西洋之が1時間吊るしあげた翌日に自殺」との投稿を載せた。

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立憲の杉尾秀哉議員(左)と小西洋之議員が会見

 (略)杉尾議員「こうしたフェイクニュースがネット空間で横行している。これに対して、きちっと警鐘を鳴らさなければならない」。

 このWeb関連会社は、自民党から年間80万円の業務を受注していた。同党の東京支部連合会は、「講演の文字起こしを依頼している。Dappiの存在は報道で初めて知った」。同社は、2001年に創業、従業員は17人。

 Dappiのツイッターには、「日本が大好きです。偏向報道するマスコミは嫌いです。国会中継を見てます」。17万人以上のフォロワーがいる。「立憲共産党はいつもそう。批判ばかりで建設的議論をする気ない」「左派マスコミの印象操作が悪影響を与えたケースは枚挙に暇がない」。野党やマスコミを批判・中傷した記事やコメントを紹介する投稿が目立つ。野党幹部を名指しして「屑中の屑」と非難する一方で、政府与党に対しては、「よくぞ国会で言った」「まさに国民のために働いた総理」などと賛美する投稿が多い。(後略)》
https://www.j-cast.com/tv/2021/12/13426934.html?p=all

 以下が問題になったDappiの投稿だ。これはひどいな。

 

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 Dappiの正体と政治党派とのつながり、金銭の授受などを徹底究明してもらいたい。

 

 Dappiにかぎらず、フェイクニュースや自殺にまで追い込む人格攻撃など、ネットでの匿名投稿が問題になっているが、ネットの誹謗中傷・炎上について、作家・監督の森達也氏がこんな指摘をしている。

 「そもそもこういう状況は日本だけなんですよ。海外ではこんなにネットが炎上しません。韓国とか中国は一時そういう時期があったけど、今、全然してないんです。
 理由は明らかです。総務省が2年前に発表したデータによると、ツイッター匿名率世界比較で、日本は匿名率が圧倒的に高い。75.1%です。アメリカ35.7%でイギリスは31,0%。ほぼ独走状態。匿名だからこそ平気で人を罵倒できるし、追い詰めることができる。匿名性の高さを言い換えれば集団性の高さだと思うけれど、この現実を考慮しないならば、日本のネットのリテラシーも育たないし、既成メディアもずっとネットに委縮し続けることになってしまう。

 韓国も一時、ひどかったんです。SNSで誹謗中傷を受けた映画女優とか何人か自殺した。あの時に韓国は、実名制などを一時は導入しただけでなく、ツイッターユーザーも匿名をやめて名前を出そうとする動きを見せた。現在の韓国の匿名率は31.5%です。ネット上の誹謗中傷を厳罰化するという議論の前に、日本のこの匿名性との親和性の高さについて、考えなきゃいけないんじゃないかな、と思います。」(『創』11月号「岐路に立たされたジャーナリズムの危機的現実」より)

 

 今の日本人は、人前で意見をはっきり言うことをいやがる傾向にあるようだ。私も経験があるが、カメラを持ってごく普通の街頭インタビューをするさいでも、応じる人が非常に少ない。応じてくれても、「顔はモザイクかけてミッキーマウスみたいな声にして」などと注文する人がいる。外国から日本に来た人は、テレビを見てモザイクの多さに驚く。異常だという。こういうことも、森氏のいう「匿名性との親和性の高さ」と関係しているのかもしれない。

 人前では何も言わずに、陰で匿名でコソコソ言う。これなら責任を取らないですむ。これでは民主主義的な言論に相応しくない。

 一方、ネットが普及した今、既存メディアこそ自らの果たす負の役割を直視せよという意見がある。以下、「山口真一のメディア私評」(『朝日新聞』12月10日)より。

 眞子さんの結婚をめぐる激しいバッシングの経緯を点検すると、はじまりは小室家の金銭トラブルをある雑誌がスクープしたことで、テレビの情報番組が続き、ネットの炎上につながっていった。

 ここで起きたのが既存メディアとネットとの「共振現象」だ。ネット上の批判的な声を踏まえて既存メディアがネガティブな報道をし、それを知った人がまたネットに投稿し―と繰り返すことで相乗効果が起きる。ネットの炎上に既存メディアが加担するのである。プロレスラーの木村花さんが命を絶った事件も、テレビの人気番組がきっかけとなってネットで攻撃があふれた。

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ネット上で激しい非難・誹謗中傷が巻き起こった

 

 SNS上で最も拡散しやすいのは「怒り」の感情を伴う投稿だという。「インターネットが登場する前から、既存メディアは批判を煽れば視聴率や購買部数に繋がることを知っていて、商業的な手法として多用してきた。しかし、もう意識を変えなければいけない。インターネットの普及した現代では、その手法はかつて以上に大きな悲劇を生むからだ」。

 そして、山口氏は既存メディアに対してこう注文をつける。「重要なのは、自身の高すぎる影響力を認識したうえで、個人への批判的感情を過剰に煽るのをやめることだ。文字だろうと、映像だろうと、報道や論評に先にいるのは一人の人間であることを忘れてはいけない」。

 たしかにそうだなと思う、ネットの時代、既存メディアは「公共性」という重要な役割をいっそう自覚する必要がある。