ホロコースト雑感

 片付けをしていたら、一年前の鷲田清一氏の「折々のことば」(朝日新聞)の切り抜きが出てきた。なぜ切り抜いたかは忘れた。

権威への服従が人びとの責任感を麻痺させ、残虐な行動に走らせる。
              (田野大輔)

 ナチス時代のユダヤ人迫害から現代の酷薄な差別発言まで、人はなぜ「正義」を装い、嬉々(きき)として少数者を排撃するのか。ポイントは、権威を後ろ盾にした「責任からの解放」にあると社会学者は言う。つまり責任を負うべき〈顔〉を隠せること。匿名でしか声を出せない人は、他者を属性でしか見られない。何より自身がもはや属性でしかないから。『ファシズムの教室』から。

 

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2020年8月26日(朝日新聞

 これは右翼か左翼かに関わらない。

 大樹によりかかり、その陰に隠れて匿名で他者を攻撃する。こういう行為に警戒しよう。

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 いま、欧州だけでなく米国でも反ユダヤ主義的活動が新たな段階に入っているという。ユダヤ人へのヘイトクライムはトランプが共和党大統領候補になったころから広まり、5月のガザ衝突後には街頭でユダヤ人が公然と暴行を受ける事件まで起きているという。

 逆に、シオニスト右派も反撃に出て、イスラエルによるガザ地区への空爆を「テロ行為だ」と表現した(私は正当な表現だと思うが)イルハン・オマル議員のような民主党左派に対し、反ユダヤ主義の憎悪をかきたてたと非難が殺到しているという。

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イルハン・オマル議員。2018年、ソマリア難民初、イスラム女性初の米下院議員に当選。トランプから「もとの国に帰れ」と罵られるなど、何かと話題の人である。newsweek

 反ユダヤ主義者もシオニストも、ユダヤ系の人々とイスラエル政府を同一視する点が共通しており、反ユダヤ主義の暴走は結果として、イスラエルに対する批判を困難にしている。

 トランプ大統領新型コロナウイルスを「チャイナ・ウイルス」と呼んだことから広まったアジア系への暴力に反対することは、中国当局によるウイグル族へのジェノサイドを非難することと両立するはずである。

 ヘイトスピーチヘイトクライム、少数者への差別をはびこらせることは、社会全体から理性的な雰囲気を減退させることにつながる。
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 先日、Eテレの「こころの時代」で今井紀明さんが紹介されていた。
 

www.nhk.jp

 18歳の時に「イラク人質事件」に巻き込まれた今井紀明さんは、「自己責任」の激しいバッシングを受け、精神を病み、自殺まで考えたという。今は若者支援のNPO代表を務め、コロナで孤立する若者に寄り添う活動を続けている。

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人質事件では帰国後自宅前で家族ともどもメディアの前で「謝罪」させられた。今井さんは直後から引きこもった。(Eテレより)

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自己責任論が煽られ今井さんに膨大な非難が浴びせられた。ほとんどが匿名である。

 タイトルが「怒りを超えて優しさを」。怒りをもとにした闘いではなく、優しさをを大切にして社会を変えようとする彼の哲学をとても興味深く観た。

 その本筋からちょっとはずれるが、彼が「自己責任」論について語った言葉が心に残った。
 (今の若者は)我慢することをあまりにも植えつけられすぎている。社会全体として我慢しすぎている。(コロナ禍でも)あなたが自分で解決しなさいというマインドを刷り込まれてすぎている。

 ほんとに困る前の段階で人に相談したりとか、自分だけの力だけでやらないということがあってもいいのでは。 

 自己責任論とは自分のことを切り詰める論だと思う。人助けしにくい社会というか、『あなたの責任だからね』と言いすぎてしまうと、言ってる本人が困ったとき、助けを求めづらくなるから。その雰囲気をすごく感じてますね、今の日本では」

 異質な少数者を攻撃すれば、結局は自分も住みにくい世の中になるのだ。