池江璃花子選手の意見も聞いてみたい

 9日の日曜は「母の日」で、畑で採れたエンドウをもって母親を訪ねた。だんだん歩くのが不自由になってきたが、大きな患いをしていないだけでありがたい。

 いま母の思い出話をビデオに収録している。
 自分の「なりわい」の一つとして、「自分史ビデオ」の制作(発注者の人生を30分ほどの映像作品にするプロジェクト)を手掛けているが、自分の母親の記録もやってみようと思い立ったのだ。
 9日は2回目で、女学校を出てから結婚するまでをカメラに向かって語ってもらった。知らないことばかりで興味深い。親子なのに意外にお互いを知らないものだ。

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小金井公園に咲くアヤメ(9日)

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 このかん、釈然としなかったことのいくつか。

 競泳女子の池江璃花子選手に、SNSを通じて五輪辞退要請や五輪反対を求めるメッセージが寄せられ、池江が7日夜、「私に反対の声を求めても、私は何も変えることができません」「選手個人に当てるのはとても苦しいです」と心境を明かした問題

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 池江選手に同情が寄せられ、多くのメディアで、こうした心無いメッセージを送る行為が非難された。
 「がんばってるアスリートに五輪開催への態度表明せよなんて、ひどいですね、選手とは関係ない話じゃないですか」といった意見がワイドショーでは多かった。

 丸川珠代五輪担当相は11日の記者会見で、この件で「非常に残念だ。匿名で個人に言葉の暴力をぶつけるのはいかなる理由があっても許されない」と述べた。政治問題にまでなってきた。

 池江選手へのメッセージを分析した人によると、58%が激励で、辞退要請は18%、誹謗中傷に近いものが6.5%だったという。
 もちろん、選手個人への誹謗中傷は非難されるべきだが、SNSを選手とファンとの交流の場でもあると理解すれば、ファンが五輪開催に関して意見を言い、辞退を要請することはかまわないのではないか。池江はそれに答えるも無視するも自由だ。

 メディアでの報じ方に、アスリートは社会問題について発言すべきではないというニュアンスを感じて、釈然としなかった。それに、池江は五輪代表選手なのだから「関係ない話」ではない。

 テニスの大坂なおみ選手は9日、イタリア国際出場を前にオンラインで記者会見し、「私は選手だし、生涯待ち望んでいたようなものなので五輪は開催されてほしい」との思いを述べる一方で、今夏の東京五輪開催に反対する声が日本国内で根強い点について「人々がリスクや大きな不安を感じるのなら、今されているように絶対に議論すべきだ」と語った。

 さらに錦織圭選手は10日、イタリア国際の1回戦の試合後、東京五輪開催は「難しい」と表明している。
 「今回(イタリア国際)のような100人規模の大会じゃなくて、1万人が選手村に集まって大会に参加する。だから、簡単じゃないと思う。特に今、日本で起きている状態は、うまくはいっていない。日本だけじゃなく、世界中で今、起こっていることを考えなくてはいけない。まだ2,3か月ある。今何かを言うのは難しい。ただ、今は保留していても、いつかは決めないといけない。もしそれが今なら、とても難しいと自分は思う」。
 「安全に開かれるなら開かれるべきだけど、この状態で僕は何とも言えない。選手村で100例、1000例の感染者が出るかもしれない。コロナはとても容易に拡大してしまうから。だから(大坂)なおみが言ったのと同じようなことを言いたい。どう安全にプレーできるか、議論する必要がある」。
 「究極を言えば、1人でも感染者が出るならあんまり、気は進まないですけどね。例えばだけど、死人が出ても行われることではないと思うので。究極的には、一人もコロナ患者が出ない時にやるべきかなと思いますけどね」(報知新聞社

 自身もコロナウイルス陽性になった経験がある錦織は、人命優先を強調している。
https://news.yahoo.co.jp/articles/3e49c7ac1c00a4825f89f21abfe18421ba457a1a

 大坂なおみ錦織圭は、アメリカで相次ぐアジア系の住民に対する差別や暴力事件を批判するメッセージを出しているが、これが世界では当たり前なのだ。

 池江璃花子も、私に言われても困ります・・と逃げるのではなく、一人の20歳の大人として、また五輪代表選手として、自分の意見をはっきり言う方がかっこいい。
 コロナの死者数が東日本大震災の犠牲者数に近づいている状況のもと、何も発言しない方がむしろ不自然ではないか。

 もし開催するなら、最低限こういう対策を求めますなどと政府やIOCに働きかける方が、代表選手としての責任を果たすことになると思うのだが、どうだろうか。
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 今朝、朝刊を開いたら、見開き全30段の広告にびっくり。

 中央にでかいコロナウイルス。それに薙刀(なぎなた)と思しき棒で立ち向かう少女ら。
 「このままじゃ、政治に殺される。」

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 「ワクチンもない。クスリもない。タケヤリで戰えというのか。このままじゃ、政治に殺される。」に続いて
 「私たちは騙されている。この一年は、いったい何だったのか。いつまで自粛をすればいいのか。我慢大会は、もう終わりにして欲しい。ごちゃごちゃ言い訳するな。無理を強いるだけで、なにひとつ変わらないではないか。今こそ、怒りの声をあげるべきだ。」とある。

 右上には赤で「緊急事態」の文字が―。

 出版社「宝島社」の企業広告だった。今の政府のコロナ対策を批判している。

 これについて、SNSでは著名なジャーナリストはじめリベラル系の人々が絶賛している。だが、なぜ「宝島社」が?と疑問になった。

 会社HPの「広告意図」には―
 「新型コロナウイルスの蔓延から、すでに一年以上。しかし、いまだに出口は見えません。マスク、手洗い、三密を避けるなど、市民の努力にも限界があります。自粛が続き、経済は大きな打撃を受け続けています。厳しい孤独と直面する人も増える一方です。そして、医療の現場は、危険と隣り合わせの状態が続いています。真面目に対応している一人ひとりが、先の見えない不安で押しつぶされそうになり、疲弊するばかりです。
 今の日本の状況は、太平洋戦争末期、幼い女子まで竹槍訓練を強いられた、非科学的な戦術に重なり合うと感じる人も多いのではないでしょうか。
 コロナウイルスに対抗するには、科学の力(ワクチンや治療薬)が必要です。そんな怒りの声をあげるべき時が、来ているのではないでしょうか。」

 写真は竹槍じゃなくて薙刀の模擬刀のようだが、主張はそのとおりで私も賛成だ。ただ「宝島社」の意図がいま一つ釈然としない。

 ツイッターでは、朝日新聞の三浦英之記者がこの広告をほめたのに対して、映画評論家の町山智浩氏が、信用ならねえ、と一喝。 

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朝日新聞の三浦英之記者(彼の『白い土地』を読んでいるがすばらしい!)が「すげえな」とツイートしたのに対して、「ヘイト出版社がイイ子ぶっても騙されないよ」と町山氏

 「なんか、リテラシーを試されている出題みたいな広告でした。」というツイートにも、なるほどと同感。https://twitter.com/masataka_ishida

 世の中の雰囲気への「刺さり具合」が考えられた広告なのだろう。
 たしかにリテラシー試されます。