岸田内閣で拉致問題の進展はあるのか5

 言論を守るため権力と対峙するジャーナリスト、フィリピンのマリア・レッサ氏(58)とロシアのドミトリー・ムラトフ氏(60)へのノーベル平和賞の授賞式が10日、ノルウェーの首都オスロで開かれた。ムラトフ氏は「われわれは独裁権力への対抗手段だ」と演説。レッサ氏は弾圧下でも事実を追求する決意を表明した。(毎日新聞

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ムラトフ氏。ロシアでは権力に逆って多くのジャーナリストが命を失っている(NHKニュース)

 世界各地で報道の自由がどんどん狭められている。

 中国武漢で初の新型コロナ感染者が確認されてから2年がたつが、あらためて当時の報道に対する弾圧が問題だ。現地の状況を発信し続けた市民ジャーナリストの張展さんが逮捕され実刑判決を受けたのだ。

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NHKニュースより

 武漢でコロナの取材をしていた少なくとも10人が拘束されたままで、中国で現在拘束中の記者・市民ジャーナリストは少なくとも127人に上るという。
 報道の自由度では、中国は北朝鮮に次いで最下位レベルとされている。

 先日、張展さんへの弾圧でアメリカが抗議した。

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NHKニュースより

 一人のジャーナリストへの弾圧に対しても名前を挙げてしっかり批判し、釈放を要求している。日本政府も「民主主義サミット」で人権をうんぬんするなら少しは見習ってほしい。
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 昨日11日、北朝鮮による拉致被害者家族連絡会(家族会)は臨時総会を開き、拉致被害者田口八重子さんの兄、飯塚繁雄さん(83)が体調不良のため代表を退任し、横田めぐみさんの弟拓也さん(53)が後任に就くことを決めた。新しい事務局長には八重子さんの息子の飯塚耕一郎さん(44)が就いた。

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退任した飯塚繁雄さん。何度も取材させてもらい多くの思い出がある(テレ朝ニュースより)

 拉致問題が進展しないまま、とうとう代表まで世代を超えてしまう。とてもつらい。

    退任する飯塚繁雄さんは体調不良とのことだが、早く回復されることをお祈りします。

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 前回のつづき。

 田中実さん、金田龍光さんの生存情報を含む北朝鮮からの「中間報告」をなぜ日本政府は受けとらず、情報の存在自体を隠すのか。

 「特定失踪者問題調査会」の荒木和博さんは自身のブログでこう書いている。

《(前略)北朝鮮ストックホルム合意以来(あるいはその前から)、リストを何度も出してきました。そこには田中さんも金田さんも入っていました。しかし、状況証拠から推論すれば、言い方は悪いですが横田めぐみさんや有本恵子さんら「目玉商品」がなかったために、なかったことにしているとしか思えません。北朝鮮側からすればそういう人たちを返せば日本の世論がどうなるか分からない。平成14年(2002)と同様逆に火を付けてしまうのではないかという恐怖感があります。だから自分から言ったと言える田中さんや金田さんたちで終わりにしたい。

 一方日本政府も、例えば金田さんがいたと認めれば警察断定(在日なので現行法では拉致認定の対象にならない)しなければならず、そうすればマスコミからは「何度も情報が出ていたのになぜ認めなかったのか」と詰め寄られます。それよりは知らん顔をしていた方が良いということだと思います。被害者のことを考えていないという意味では日本政府も同じようなものだ、と言ったら言い過ぎでしょうか。(後略)】
http://araki.way-nifty.com/araki/2019/02/news292831215-2.html

 日本政府が中間報告を受け取らないのは、この2人の情報では「点数が稼げない」からだろう。田中実さんは政府認定の被害者だが、家族会に参加する親族がいないし知名度も低い。横田めぐみさんや有本恵子さん、田口八重子さんなど家族ともども名が知られた中心的な拉致被害者の生存情報でなければ、家族会も世論も納得しないだろうと判断したと思われる。

 有田芳生参院議員は、去年10月26日の質問でこのあたりを直截に突っ込んでいる。

《政府は帰国していない十二人の政府認定拉致被害者に序列をつけているのですか。ありていにいえば横田めぐみさんや有本恵子さんたちの生存と帰国のめどが立たないうちは、田中実さん、金田龍光さんの生存確認はしないということですか。拉致問題解決への道筋のなかでの田中実さん、金田龍光さん個人の位置づけについて明確にお答えください。》
https://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/syuisyo/203/syuh/s203002.htm

 これにも政府はまともに答えていないが、こうした姿勢のままでは、打開の道が見えてくるはずがない。

 もちろん、拉致は北朝鮮の国家事業であって、拉致被害者はすべて把握されており、いまさら「調査」などする必要はない。しかし、ストックホルム合意」で北朝鮮に「調査」を約束させたのは、拉致は「完全に解決された」と言い張る北朝鮮に、「調査したら、実は拉致された人がもっといました」と言わせるための方便だ。だから、北朝鮮が、調査したらもう二人いましたと回答してきたのは一つの「前進」と見なければならない。はじめから100%の回答を北朝鮮がするわけはない。そんなことは分かり切ったことだ。

 「中間報告」を受け取ったうえで、その不十分点をつき、さらなる「調査」を要請するなどの形で交渉をつなぐ中からさらなる展開を作っていく。それを怠ったために、今のように北朝鮮とのパイプが完全に「切れた」状況に陥っているのではないか。

 岸田内閣が拉致問題を進展させるには、まず、安倍内閣のこの大きな「失策」を転換する道を示さなければならない。

 さらに言えば、安倍内閣が制裁一辺倒の強硬路線から突如、「無条件で日朝首脳会談を」へと揺れる、無原則な対北朝鮮外交を繰り広げる背景には、家族会、救う会との不正常な関係があると思われるが、これはまたの機会に書こう。