映画「ミッドナイトトラベラー」に難民のリアルをみた

 映画「ミッドナイトトラベラーMidnight Traveler」を観てきた。

 アフガニスタンからヨーロッパへと旅する難民家族が「自撮り」映像で制作した映画だ。

unitedpeople.jp

 《2015年、映像作家のハッサン・ファジリはタリバンから死刑宣告を受ける。制作したドキュメンタリーが放送されると、タリバンはその内容に憤慨し、出演した男性を殺害。監督したハッサンにも危険が迫っていた。彼は、家族を守るため、アフガニスタンからヨーロッパまで5600kmの旅に、妻と2人の娘たちと出発することを決意する。そしてその旅を夫婦と娘の3台のスマートフォンで記録した。》

 私は3年ほど前、トルコから東欧を経てドイツに密入国し難民申請をする計画のシリア人の旅にずっと密着する番組を、いくつかの局に提案したことがある。我々のクルーが所々で取材し、密入国の瞬間などクルーが付けないところは本人に自撮りしてもらうという構想だった。そんなこともあって、この映画には大きな関心を持っていた。


 映画では旅が始まるや、密航業者に騙されて全財産を奪われる。さらに、森を抜け畑を走る非合法の国境越えがあったり、ブルガリアでは難民排斥を叫ぶ男たちから殴られたりとハラハラするシーンもあるが、ほとんどはセルビアなどの難民収容所での日常が描かれている。

 ちょっとしたユーモアのある雑談から絶望がにじみ出ていたり、当事者が撮ったからこそ表現された難民のリアルがとても興味深い。日常の暮らしの喜怒哀楽、人情の機微を見るうち、難民といっても私たちと同じ人間であることを納得させられ、彼らの運命を自分ごととして感じるようになる。

 私は彼らの避難行を観ながら、ちょっと申し訳ない気持ちにもなった。「難民って大変だなあ」「ブルガリア排他主義のやつら、ひどいな」と映画を観ている我らの国、日本が難民をほとんど受け入れていない現実を意識してしまうからだ。

 この映画はまた、タリバンとは何かについても、映画監督の主人公ファジリさんの実体験から教えてくれている。タリバンの主張に合わない映画だというだけで俳優が殺害され、監督のファジリさんの命が狙われる。これが家族連れの逃避行のはじまりだ。 

 このタリバンの体質は、政権を取って一変したわけではあるまい。いくら広報担当が人権を守りますなどとリップサービスしてもファジリさんの視点をもって見ていかなくてはならないと思った。

 ぜひ多くの日本人に観てほしい映画である。
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 先日、「東京クルド」というドキュメンタリー映画について書いた。

takase.hatenablog.jp

 古い新聞切り抜きを整理していたら、「東京クルド」の主人公ラマザンさんに関する記事(2019年10月4日夕刊)が出てきた。

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19年10月4日「朝日新聞」夕刊

 ラマザンさんたちが裁判に訴えているという話だった。彼らの境遇がよくわかるので記事を引用する。

 強制退去が決まった外国人の中には多くの子どもたちが含まれている。在留資格のない親と共に幼い時に来日したり、日本で生まれたりした子どもで、多くは母国語よりも日本語のほうが得意だ。
 出入国在留管理庁(入管庁)は現在、強制退去の対象だとしても、未成年者は収容せず,仮放免する。そのため、子どもたちは日本人と同じように学校に通い、友だちを作り、成長している。
 しかし、彼らには日本人とは異なる現実がある。在留資格を持たない両親は就労できず、医療保険にも加入できないからだ。
 
 埼玉県川口市蕨市周辺にはトルコ出身のクルド人が多く住んでいる。支援者らによると、その数は2千人以上に上るという。
 弁護士の大橋毅さんによると、クルド人の多くは、トルコでクルド語を禁じられたり、差別的な扱いを受けたりして迫害の対象だ。このため日本でも多くが難民申請をしているが、これまで認定されたクルド人はいないという。大橋さんは「2017年のトルコ国籍者の難民認定率は世界平均で約35%だが、日本ではゼロ」と話す。
 18年12月、難民認定されず、帰国もできないクルド人の4家族が在留資格を求めて提訴した。その後、新たに1家族を加えた5家族には20歳前後から5~6歳まで、17人の子どもがいる。その一人、ラマザン・ドゥルスンさん(22)は「自動車整備工として日本で働きたい」と話す。代理人の大橋さんは「子どもたちの多くが10年前後を日本で過ごしている。子どもの最善の利益を守らなければならない」と提訴の理由を説明する。
 子どもたちがこれまで裁判所で意見陳述したり、支援者に伝えたりした言葉をここで紹介したい。

 「僕はこれからも絶対日本で学びたいと思っています。僕の知識はすべて日本語で勉強も日本語です」「修学旅行のお金を払うことができず、中2の時に学校に行かなくなりました」「両親に負担をかけられないので、友だちの誘いを毎回、うそをついて断っています」「入管庁では『学業より出頭することが優先』と言われました。本当にそうでしょうか」

 子どもたちが仮放免のまま成年になれば、親と同様、収容されるかもしれず、就労できず、支援に頼って生きる道を歩むことになる。自力ではどうにもならない。
 仮放免中の子どもたちは将来、日本に多様性をもたらす国際的な存在になりえる。その芽を社会の中で育てることはできないか。(以下略)

 

 彼らからこう聞いたことがある。
 「僕らは日本語もペラペラだし、日本の習慣や制度もよく知っている。仕事させてくれたら、即戦力になるのに・・」

 晴れて共生できる日が早く来るように。