知られざる日本の現実を「東京クルド」に見る

 関東南部で豪雨被害が出ている。

 3日午前10時半ごろ、静岡県熱海市の伊豆山地区で土石流が発生し、逢初川沿いに海までおよそ2キロにわたって流れ出た。少なくともおよそ130棟の建物が被害を受け、これまでに女性2人の死亡が確認されたという。安否が不明な人がおよそ20人いるとみられている。ニュースによると、神奈川県、千葉県などでも被害が出ている。これ以上、被害が拡大せぬよう祈ります。

 きょうも雨。都議選投票日だが、投票所に貼りだされた投票率速報では、雨のせいか前回の選挙よりだいぶ低くなっている。この低投票率がどう結果に影響するのか。

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 先週の30日、試写会で『東京クルド』というドキュメンタリー映画を観てきた。

 すばらしい映画で、ぜひ多くの人に観てほしい。わが日本にこんな現実があるなんて!ときっと驚くはずだ。東京は7月10日から「シアターイメージフォーラム」で緊急公開!また、イオンシネマ川口で7月16日から上映開始。

tokyokurds.jp

 主人公はトルコ国籍のクルド人の青年、オザンとラマザン。故郷での迫害を逃れて、小学生のとき、家族とともに日本にやってきた。それぞれの家族は難民申請を続けるが、今も在留資格を与えらえないままだ。

 このブログで何度も書いてきたが、トルコでクルド人に対する迫害が続ていることはよく知られていて、欧米諸国ではクルド人への難民認定率は非常に高い。一方、日本ではこれまでクルド人を一人も難民認定していない。

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ラマザン(左)とオザン(右)。二人は悩みながら将来の道を模索する

 映画は二人がじゃれあいながらボーリングを楽しむシーンから始まる。入管の収容を一時的に免除される「仮放免」の身分で、一見普通の生活をしているように見える。ところが、彼らは就労が禁止され、住民票もなければ健康保険にも入れない。県をまたぐ移動にはいちいち入管から事前の許可をもらわなければならない。

 進路を決める年頃になった二人だが、そもそも就労ができないのにどんな将来を描けばいいのか。夢を描こうとしても、差別的な壁が彼らに立ちふさがる。普通に生きることさえ阻む日本社会の現実。憤りとともにその一員として恥ずかしさを感じる。

 主人公の一人、オザンは両親と3人の妹と暮らす。スマホでIS(イスラム国)と戦うシリアのクルド組織の兵士の映像を見ながら、何もできない自分に自責の念をもつ彼は「帰れば危ないし、帰らなくてもつらいし、仕事はするなといわれるし、トルコにも日本にも居場所がない」とつぶやく。

 仮放免の身分では、本来仕事はできないが、実際は食べていくために働いている。クルド人は解体業に従事する人が多く、オザンも父親も解体現場で働く。オザンは父親に反発していて、「ちゃんとした親父だったら、俺も不良にはなってない」とカメラに吐露する。どこにでもある家庭内不和だが、デラシネのようなオザンを「自分はダニ以下の価値がない存在だ」とまで言わせるほど追いつめる。

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トルコの総選挙で大使館での投票の日。クルド人トルコ人が衝突、激しい乱闘になった。映画には、初めて知るクルドを取りまく現実も多く登場する

 自暴自棄になっていたオザンだが、ある日ラマザンから、やってみてダメだったらあきらめもつく、お前は俺より日本語もうまいし漢字もかけるんだから、その能力をいかしてみろと励まされ、夢だったタレントになる道を模索する。
 スーツを着たオザンが訪れたのは、外国人タレントの老舗プロダクションの稲川素子事務所(以前、私も撮影でタレントを派遣してもらいお世話になった)。面接は合格で、すぐにテレビのバラエティ番組への出演の話になった。ところがオザンは「仮放免」の身分で、建前上は就労禁止だ。念のため、入管に電話で問い合わせるオザン。入管の答えは非情なものだった・・・「どうしよう、もうやりたいことがない」とうなだれるオザンの姿が、彼ら、在留資格のない青年たちの境遇を象徴しているように思えた。

 人生の岐路に立たされた青年を主人公に配することによって、彼らの置かれた非人道的な境遇を鮮やかに描き出している。5年以上をかけて取材しただけあって、被写体への密着度にも驚かされる。みごとである。

 この映画にはちょっとしたご縁があった。
 監督の日向史有さんは、老舗の番組制作会社「ドキュメンタリージャパン」のディレクターで、2018年3月に、同名の「東京クルド」という作品をテレビ朝日系の「テレメンタリー」で放送している。今ほど関心が高まっていなかった難民申請者の置かれた現実を深くえぐったこの番組に感動した。そして放送後、日向さんに会って感想を伝えた。このままにしたらもったいないので、ぜひ取材を続けてほしいと思った。

 日向さんが取材を始めたのは2015年にさかのぼる。欧州の難民危機に触発されて、日本にいるクルド人たちの話を聞くうち、一人の青年の言葉に衝撃を受けたという。
 「シリアに行って、ISと戦いたい・・」。
 なぜかと問う日向さんに彼は「日本で暮らしていても希望がないから」と答えた。この衝撃が日向さんに現在まで取材を続けさせたという。

 日向さんには、在日シリア人難民の家族を1年間記録した「となりのシリア人」(2016年、日テレ)などの作品もある。

 今回、日向さんから試写会に招かれたのだが、あの番組放送以降、コロナ禍の困難な時期も取材を続行して厚みを増した作品に仕上がっている。
 新たに加えられた素材には、今年3月のスリランカ女性ウィシュマさん死亡事件を彷彿とさせる出来事もある。19年3月、東京入管に収容中のラマザンの叔父メメットが極度の体調不良になり、家族らが救急車を呼んだが、2度にわたり入管が救急車を追い返したのだ。

 試写会には舞台挨拶に主人公のオザンさんも来ていたが、事前に日向さんと一緒に入管に出頭して移動許可をもらったとのこと。埼玉県から東京に来るのは県をまたぐ移動になるからだ。いやはや・・・。

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舞台挨拶する監督の日向史有さん(右)とオザンさん(左)

 試写のあと、オザンさんと挨拶したとき「日本人として恥ずかしいよ」という言葉が私の口をついて出た。

 5月、入管法改正案が廃案となったが、滞在資格のない外国人のおかれた理不尽な状況は変わらない。
 ぜひご覧ください。自信をもってお勧めします。
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 きのう午後はなんとか天気がもったので畑へ。

 植物の育つ速さに驚く。生命力を感じる。帰りに道で近所の人2人に会ったので、収穫物をおすそ分け。袋がないので、インゲンを手づかみでそのままハイと手渡しする。
 ほんの“まねごと”の畑いじりにすぎないが、まがりなりにも自分の収穫物だ。人にあげて喜ばれるのはうれしいものである。

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あれよあれよという間に大きくなる

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二種類のジャガイモ

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実がすぐに割れてしまうが、どうすればいいのか・・