良寛さまと盆踊り

 感染拡大の「第5波」のなか、医療崩壊が恐ろしいスピードで進んでいる。

 新型コロナウイルスに感染して自宅で亡くなった人が、1~6月の半年間に全国で84人に上ったと厚生労働省。しかも「把握できていないケースがたくさんある」(担当者)という。容体が急変したケースが多いという。政府が入院対象を限定する方針に転換したことから、入院できずに自宅で亡くなる人が増えていくだろう。

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東京では自宅療養者の数が、この1カ月で11倍!になったという(11日のテレ朝モーニングショー)

 早いうちから五輪の選手村など「空いている」施設を宿泊療養に使う(五輪中止を前提に)などの対策が提言されていた。立憲民主党長妻昭副代表)がきょう、東京五輪閉幕に伴い利用がなくなった関係者用のホテルを宿泊療養施設として活用することを柱とした要請書を厚労省に出したが、政府はこうした最低限の手も打っていない。

 PCR検査の拡充、「いつでも誰でも無料で検査」はずっと前から世界の常識になっているのに、日本ではまだできていない。ほとんどの人は民間のPCR検査を自費で受けているのだ。
 ようやく、7月20日から8月31日まで、空港で北海道や沖縄、福岡に向かう希望者向けに無料のPCR検査と抗原検査を実施しはじめたが(8月12日~31日は広島と鹿児島の空港行きの便も追加対象にした)、利用率はわずか4%とか。この制度が知られていないのと、陽性だと搭乗できずキャンセルになることを恐れるからだという。そもそも、「希望者」だけが検査をするのではなく、陰性証明がないと搭乗できないと厳しい規則にする必要があるだろう。政府に危機感がないから、どんな制度を作ってもうまくいかない。

 菅内閣支持率が、「朝日新聞」(今月7~8日調査)で28%、NHK世論調査で29%といずれも30%を切り過去最低、不支持率はそれぞれ53%と52%で過去最高。当然の結果だが、支持する人がまだ3割もいることに驚く。
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 お盆をひかえて、「良寛の四季」から、心がさわやかになる文章を以下に紹介したい。

 

いざ歌へ我れ立ち舞はんぬばだまの今宵の月にいぬらるべしや

風は清し月はさやけしいざともに踊りあかさん老のなごりに

 お盆の頃は、夏の盛りでありながら、朝夕は涼しい日もあって、かすかに秋の気配が忍び寄ってくる移ろいの季節で、なんともいいがたい情緒があります。それは、夏の生命力が最高潮に達し、そしてこれから徐々に衰えていくという境目の時であることと、お盆という祖先=死者と子孫たち=生者との境目があいまいになり、静かな交流が行われる時であることとが重なっていることから生まれる雰囲気なのでしょう。

 そういう季節に盆踊りがあるというのも、実にふさわしいという気がします。先祖祀りと踊ることが結びついたのは、一遍上人念仏踊りあたりからだそうですが、とても深くて美しい日本の霊性の伝統だと思います。

 良寛さまも、盆踊りが好きだったようです。さあ、歌え、私は踊ろう、今夜のこのよい月では、惜しくて寝てはいられない、と歌っています。「ぬばだま」は夜にかかる枕言葉で、もともとは「ぬばたま」ですが、「だま」と濁っているところに、「越後の良寛さ」の風情が出ています。

 そしてさらに、風は涼しいし、月は明るく澄んでいる、さあ、一緒に踊り明かそう、老いの名残りに、と歌っています。

 ここには、「老い」という無常性の自覚と、「名残り」という人間臭い感情がひとつになっています。

 はかなさを忘れた生き方は醜くなりがちであり、無常を自覚すると、人は、よく生きたい、美しく生きたいと願うものだと思いますが、この歌には、はかないからこそ、よく生きよう、生き尽くそうという、良寛さまの、決意というにはあまりに自然な、しかし心の定まりが感じられます。

 そしてどちらの歌にも、「いざ歌へ我れ立ち舞はん」、「いざともに」と、はかない人生だからこその親しみ、通じあいの呼び掛けがなされています。

 人生は短く、はかない。だから、憎みあい、争って、無駄にしていいような暇はない。よく生きるということは、共によく生きるということではないか。「いざともに」歌い、踊るための短いチャンスとして、大自然は私たちにいのちの時を贈ってくれているのではないか。ならば、どうして踊り明かさないでいられよう、このよい風に、このよい月に・・・。良寛さまのメッセージは心に響くものがあります。

 人間は、どんなに若くても、少しづつ老いているものであることを考えると、人生はすでに始まった時点から、「老い」であり、だとしたら、それを自覚すると、生きる瞬間はみな「名残り」惜しいものではないでしょうか。名残り惜しい生を、踊り明かすようにして、よく、美しく、共に生きたいものです。

(「良寛の四季」はサングラハ教育・心理研究所会報に岡野守也主幹が連載したエッセイ)