ミャンマーの二つの政府の間の正統性をめぐる争いが本格化してきた。
クーデターから半年の8月1日に、国軍がミンアウンフライン総司令官を首相とする「暫定政府」の樹立を宣言。
一方、アウンサンスーチー氏率いる国民民主連盟(NLD)の議員らは、クーデターで覆されたもとの政権を引き継ぐ「国民統一政府」(NUG)を4月16日に立ち上げている。オンライン政権ではあるが、国民の圧倒的支持を得ている。
まずは、国連大使の信任をめぐっての対立がある。
国軍側は、チョーモートゥン国連大使が2月26日、国連総会でクーデターを非難、抵抗を示す3本指を掲げた。すると国軍は翌日に「解任」を発表、のちに「大逆罪」で逮捕状を出し、米国に身柄の引き渡しを求めている。国軍は、アウントゥレイン氏という国軍と関係の深い人物を新たな大使として任命したとするが、チョーモートゥン氏は大使の職にとどまるつもりだ。
こうした状況下で、チョーモートゥン氏の暗殺計画が発覚したというから、事態は深刻だ。
《米当局は今月6日、ニューヨークに住むミャンマー人2人を、外国人公務員への暴行の共謀容疑で逮捕、訴追したと発表。チョーモートゥン氏は取材に、容疑者の一人はボランティアの警備員だったと明かした。
ニューヨークの国連代表部周辺では、大使の身を案じた有志がボランティアで警備を続けていたが、容疑者はその一人だという。共犯者とみられるタイの武器商人が、代表部に近い人物を引き入れることで計画を確実に実行しようとしたとみられる》
《国連は9カ国でつくる「信任状委員会」が大使の正統性について検討し、最終的には年内にも国連総会(193カ国)がどちらが大使かを投票で決める可能性がある》(朝日新聞)
日本は二つの「政府」のうち、クーデター政権とは外交関係を続けているが、「国民統一政府」とは正式な交渉をまだ行っていない。「国民統一政府」と外交関係をもち、クーデター政権とは断交すべきだ。
問題は外交だけではない。日本の官民が進めてきた都市開発事業で、賃貸料が国防省に支払われ、国軍の資金になるとして中止を求める声が内外の42の人権団体などから上がっているという。
これは、ヤンゴンの一等地の1万6千平米の敷地にオフィスや商業施設、ホテルなどの複合施設を建設する都市開発事業「Yコンプレックス」で、ゼネコンのフジタや官民ファンドのJOIN(海外交通・都市開発事業支援機構)などが事業に参加、国際協力銀行(日本政府が全株を保有)が約51億円を融資している。事業用地は国防省の所有で、合弁相手のYTTCが土地を借り、日本の関係企業とYTTCでつくる合弁会社がその土地を転借している。賃貸料は年間約2億円だという。人権団体によると、賃貸料は国軍兵站局が管理する口座に支払われる仕組みだという。
国軍に利益を与えていないか、ミャンマーでビジネスを展開する民間企業や個人にも問われていく。
かつて軍政時代、私は、アウンサンスーチー氏の自宅を訪れてインタビューしたさい日本に何を求めるか尋ねた。彼女は、軍政のミャンマーには投資も援助もしないでほしい、観光にも来ないでほしいと訴えた。
当時の発言をさがしていたら、『ビルマからの手紙』(1996年)に氏のこんな文章があった。
《私は、外国からの投資について意見を求められると、いまはまだ投資すべき時期ではないと答える。そして「現在の投資」に代わるいかなる選択肢があるのかと問いただそうとする人に対しては、こう言いたい、「未来に投資しなさい」。すなわち、あなたがたご自身の利益のことだけ考えても、ビルマの民主主義に投資しなさい。信認と信用性の裏づけのある、開放的で安定した政治システムを前提として自社の投資方針を定める企業は、それが、信認と国際信用の上に立つ開放的な安定経済を促進するのに役立つことがわかってくるし、また、民主的なビルマは経済的に力強く安定したビルマになるでありましょう。》(P60-61)
いまミャンマーの二つの政府に対して、日本政府だけでなく、企業や個人も「立場」を問われるのだ。