映画「アウシュヴィッツ・レポート」のメッセージ

 アウシュヴィッツ・レポート」はすばらしい映画だった。

《1942年にアウシュヴィッツに強制収容された二人の若いスロバキアユダヤ人は、1944年4月10日に実際に収容所を脱走し、アウシュヴィッツの内情を描いた32ページにも渡るレポートを完成させた。収容所のレイアウトやガス室の詳細などが書かれたレポートは、非常に説得力のある内容で、このレポートは「ヴルバ=ヴェツラー・レポート(通称アウシュヴィッツ・レポート)」として連合軍に報告され、12万人以上のハンガリーユダヤ人がアウシュヴィッツに強制移送されるのを免れた。》(公式サイトより)

auschwitz-report.com

 ヴェツラーとローゼンベルクの2人は国境越えに成功した後、赤十字幹部のウォレンに収容所の実情を訴える。ところがウォレンは、赤十字が収容所に大量の食糧、医薬品、衣料を送っているし、ドイツ赤十字や国際視察団の報告でも異常は認められないと信じてくれない。ナチスが各地から膨大な数の収容者を集めながら、収容所の実態は外の世界には知られていなかったのだ。

 ウォレンはさらに、2人が処刑されたと言う子どもたちからの手紙の束を見せる。実はそれらは処刑の前に書かされ、処刑のあとでSSが日付を入れて送られる偽装工作であることなど、2人は理を尽くして説得につとめる。長い会話がワンカットでつづくこの場面が見せ場である。

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「どうする」と自分に迫ってくる言葉だ

 ウォレンが納得したとき、ヴェツラーが「大事なのは、これを知った後、何をするかだ」と迫る。ウォレンが、アメリカにドイツと交渉してもらおうと言うと、人殺しと交渉するな、収容所を爆撃せよと要求する2人。時間がすぎればそれだけ犠牲者が増えるのだ。もっとも考えさせられたシーンだった。 

 スロバキア人のペテル・ベブヤク監督はこう語る。
「近年のスロバキアでは、過激派勢力が議会の議席を得る状況になってきています。残念ながら、このような問題はスロバキアに限ったことではありません。ヨーロッパ全土で、以前よりも多くの人々がファシスト思想を持つ政党を支持、もしくは容認し、過激派とその共感者は次第に 勢いを増しています。人権が危機にさらされている今、沈黙を保つことは、過激者を支持しているのと同じです。私たちは、先人たちの過ちを繰り返してはなりません。だからこそ、これまで犯してしまった失敗の物語を描くことが重要です。

 映画の最後に、マリーヌ・ル・ペンやドナルド・トランプらの排外主義的な演説の音声が流れる。あの過ちを繰り返すな!という監督の直截なメッセージが伝わってくる。

 感動してこの映画、2回も観てしまった。 

 この夏は『復習者たち』、『ホロコーストの罪人』、『この世界に残されて』、『沈黙のレジスタンス〜ユダヤ孤児を救った芸術家〜』とナチズム、ホロコーストに関連する映画上映が続く。ご時世だからか?

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パントマイムの神様、マルセル・マルソーユダヤ人の子どもたちを助けていたとは知らなかった