いじめをエンターテイメントにする人々

 きのう、お茶の水のECOM駿河台(エコムスルガダイ)へ「玉川上水46億年を歩く」の展示を見に行った。

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ECOM駿河

tb2020.jp

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展示場

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記録映像が上映されている。私は「宇宙の歴史語り部」で登場

 玉川上水の46キロを地球46億年の歴史に重ねて、ヒトと自然との関係を考えながら歩くプロジェクトがあって、このブログでも何度か触れたが、私も少しお手伝いをしている。
 関心のある方はどうぞ。7月29日までやっています。(平日のみ)
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 オリンピック開会直前にまた不祥事。

 開会式で楽曲の作曲を担当したミュージシャンの小山田圭吾氏(52)が、過去に同級生や障害者をいじめた経験をインタビューで語っていた問題で、小山田氏が辞任に追い込まれた。五輪関係で辞めたのはこれで7人?8人?

 小山田氏については、組織委が14日、開会式の楽曲の作曲メンバー4人のうちの一人と発表した直後からネット上に批判が相次ぎ、16日には小山田氏が謝罪文をツイッターに掲載した。組織委は「(過去の発言は)把握していなかったが、不適切な発言である」とコメントしつつ、「現在は高い倫理観をもって創作活動に献身するクリエーターの一人」として続投させる意向だった。
 しかし批判はやまず、小山田氏は辞任、オープニングの楽曲のうち、彼が担当した4分間は急遽新たな楽曲に差し替えられることになった。

 私は芸能関係には疎く、小山田圭吾が何者かも知らなかった。Wikipediaをみると、国内だけでなく海外でも華々しい活躍を続ける最先端の人気ミュージシャンらしい。私の知識と重なるのは、和田弘とマヒナスターズ三原さと志の長男で、田辺靖雄は母方の叔父だということくらいだが。

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小山田圭吾wikipediaより)

 いじめは昔の話で、今は反省しているならそんなに騒がなくてもいいのでは、と思ったのだが、いじめの程度が普通ではなく、「反省」の本気度も疑われるとの報道に、ではいじめを「告白」した雑誌記事を読んでみようと、図書館に行った。

 最も詳しくいじめを「告白」しているのがサブカル『クイック・ジャパン』(太田出版)の第3号(1995年刊)に掲載された「村上清のいじめ紀行」という特集記事だ。村上とは特集のライターで、のちに『クイック・ジャパン』の編集長を経て、現在は太田出版に書籍編集部編集長として在籍している。

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 読んでみると、生理的に気持ちが悪くなるほどグロテスクな記事だった。

 「いじめ紀行」とは、「“いじめってエンターテインメント!?”とか思ってドキドキする」という村上が、いじめた側といじめられた側を「対談」させておもしろがるという、はじめから悪趣味な企画だ。

 しかも、小山田(ここから呼び捨てにする)がいじめ、嘲笑した対象は、知的障害者在日朝鮮人ダウン症の子どもという弱い立場の人たちで、いじめの内容はもう犯罪といっていいレベルだ。それを小山田は、うれしそうに笑いながら、まさにエンターテインメントとして語っている。

 こういう人物が、パラリンピックの開会式の音楽まで引き受けていたというのだから、怒りを通り越して気味が悪くなる。

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小山田「この場を借りて謝ります(笑)」だと・・。これは謝罪とは言わない。村上はいじめられた人と再会させることに「ドキドキしてきた」と書く

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冒頭、村上が「小山田さんとのいじめ談義は、同じ学校の奴とバカ話しているようで、凄く楽しい時間だった」とインタビューを振り返る。

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5人しかいない太鼓クラブでの沢田君いじめ

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沢田君を全裸にして廊下を歩かせた・・

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93年の「山形マット事件」を語るも、笑いながら。そして村上は「いじめ談義は、どんな青春映画よりも僕にとってリアルだった・・」

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村田君というやはり知的障害者と思われる級友へのいじめ。肉体的ないじめの他、家から持ち出したお金を使わせたりもしていた。

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村上は取材に同席したカメラの森、赤田(当時の編集長/彼の次に村上が編集長になる)、北尾(村上の次の編集長)らが「みんな笑っている」と書く。太田出版はどうなってるんだ

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村田君のお母さん「自殺も考えた」・・痛々しい。

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小山田に反省の色は皆無。ノリノリで取材に協力している。「いい顔のオヤジ」とは、山谷・寿町・西成などにいる、昼間から酒を呑んでる男の人などを指すとの注釈あり。日雇い労働者やパチンコ屋店員などを露骨に見下げている

 被害者たちと小山田との「対談」は実現しなかったが、被害者たちの関係者などを取材した村上は、記事の最後にこう書いている。

 「今回僕が見た限りでは、いじめられた人のその後には、救いが無かった。でも僕は、救いがないのも含めてエンターテイメントだと思っている。それが本当のポジティブってことだと思うのだ」

 その後ろにはまるまる1ページを使って、つたない、大小入り混じった字で書かれた年賀状が掲載されている。小山田いわく「すっごい、バカ」の沢田君がかつて小山田に出したものだ。

 「(略)字が、原稿用紙に四マスに一文字の大きさで書いたかと思うと、次に、一マスに半分くらいの字で書いてたりとかして、もうグッチャグチャなの。それで、年賀状とか来たんですよ、毎年。(略)で、僕は出してなかったんだけど、でも来ると、ハガキに何かお母さんが、こう、線を定規で引いて、そこに『明けましておめでとう』とか『今年もよろしく』とか鉛筆で書いてあって、スゲェ汚い字で(笑)」

 お母さんが息子のために定規で引いてくれた線に沿って、沢田君が懸命に字を埋めていったであろうその年賀状を、小山田は雑誌に提供して、見世物にしているのだ。

 こういう人物が、音楽で人々に感動を与えているというのか・・・。やりきれない。 

 小山田は和光学園に小中高と通っていた。和光学園といえば、自由教育で知られ、和光大学は私も進学の選択肢に入れていた。障害者を積極的に普通学級に受け入れており、それが小山田のいじめの背景になっている。あの和光学園が・・・と信じられない思いがする。

 小山田の同級生によれば、記事に書かれているほどひどいいじめは目撃しておらず、小山田が話を盛ったのではないかという。ただ、村上は小山田の情報にもとづいて、いじめの被害者3人を特定して取材を試みている。小山田本人が謝罪文でいじめを認めており、年賀状などの物証もある。実際に小山田によるいじめがあり、その被害者がいることは確実だ。

 村上は、被害者の一人の村田さん(知的障害者と思われる)のお母さんに電話をかける。記事によれば、お母さんは、村田さんがいまパチンコ屋の住込み店員をしていると語った後、電話口で「中学時代は正直いって自殺も考えましたよ」と言ったという。母親に自殺を考えさせるほどの深刻ないじめだったということではないか。

 村上は、沢田さんとは会うことができて小山田との対談を申し込んだが、お母さんから拒否されている。在日の朴さんは消息不明で接触できなかったという。

 小山田が心から謝りたいと願ってではなく、いじめをエンタテイメントにするために加害者と被害者を再会させようというのだ。良識の一片でもあれば思いつかないだろう。売らんかなの商業主義がここまで突っ走らせたのか。

 記事には1985年の東京・中野区でおきた「葬式ごっこ」で中学生が自殺した事件が取り上げられていて「細部まで(いじめの)アイデア豊富で、何だかスプラッター映画みたいだ」と村上は書く。「山形マット死事件」(山形県新庄市の中学校で男子生徒がいじめで殺された)が起きたのが1993年。この記事の2年前だ。すでに多くの悲劇が起きていたのに、いじめをここまで面白がる神経とは、いったい何なのか。

 太田出版は19日付で謝罪文を出したが、記事を読んで、小山田なる人物の下劣さとともに出版人の劣化の酷さに愕然とする。メディアの責任は大きい。
https://www.ohtabooks.com/press/2021/07/19191000.html