同姓は「合憲」判決によせて

 ついに「リンゴ日報」が消えた。今日付の朝刊を最後に新聞発行を終えた。

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24日朝刊一面は、「リンゴ日報」前で別れを惜しむ多くの市民の写真に「雨の中のつらい別れ」の大見出し

 

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未明から新聞を買いにスタンドに列をつくる市民

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一人で何部も買っていく人が相次ぐ。「将来、子どもや孫に見せたい」という人も。

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最後のネットニュースで別れをつげるキャスター

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英国は激しく非難。日本は・・?

 NHKニュース9のMCは、これで香港の一国二制度は無くなったと言い切った。

 今回の逮捕では「言論活動」を直接の容疑にしており、次は弾圧がネットメディアなどにも広がるのではと倉田徹さん(立教大教授)はいう。
 すっかり中国本土と同じになりそうだ。今後、ライター、学者、文化人なども攻撃対象になる可能性があると憂慮されている。ウイグル族の弾圧でも、精神的な影響力のある知識人、文化人が最初に狙われたことを想起させる。

 香港返還以降、テレビ、新聞、出版などの企業に中国本土の資本が入ってきて主要メディアは経営の実権を握られ、政府批判が抑えられた。だからこそ、「リンゴ日報」のように自由な独立資本のメディアが信頼を集めたのだった。
 資金を絶たれてとどめをさされた今回のケースを見るにつけ、逮捕など直接の弾圧にくわえ、「金の力」も大きいとあらためて思う。中国共産党のやり方に香港のなかで抵抗するのは至難の業だ。日本をふくむ海外からの声がもっと必要だ。

 きょうの「リンゴ日報」は100万部と香港の人口の6分の1の部数を刷り、新聞スタンドにはそれを買うために朝から長い列ができたという。一つの時代が確実に終わったが、そのスピリットは市民の心に残っていくだろう。
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 23日、最高裁大法廷は、夫婦別姓を認めない民法と戸籍法の規定について「合憲」と判断した。この判決はいろんな点で“時代”を感じさせる。

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(朝日新聞より)11対4

 まず、ここ数年の意識の変化には驚かされる。

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朝日新聞より(「今回」とは2020年)

 朝日新聞の意識調査では、わずか5年で、選択的夫婦別姓に「賛成」が20%も増えている。いまや7割が「賛成」。日経の調査でも7割を超えており、8割に達する調査もある。

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高校生から60代まで4210人にインターネットで調査(2020年10月)


 とくに女性の「賛成」は圧倒的だから、いまどき同姓にすべきだなどと言う男は、結婚をいやがられそうだ。
 こうした意識変化のスピードは、世直しの可能性を示すものだ。

 市民の意識に反して、今回の判決は、旧態にしがみつく日本の体制を象徴している。4人の判事の反対意見は良識を感じさせるが、やはり最高裁が2015年12月に同姓の強制を合憲とする判決を言い渡したときには5人が違憲だとして反対意見を表明していたから数としては一人減っている。

 私が素直に肯けたのは、宮崎裕子・宇賀克也裁判官の共同反対意見だ。

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左が宮崎裁判官、右が宇賀裁判官

 宮崎裁判官は、最高裁で初めて旧姓を使う裁判官だ。こういう人が少ないながら出てきているのも“時代”ではある。

宮崎裕子・宇賀克也裁判官の共同反対意見

 夫婦同姓の規定は憲法24条に違反する。決定を破棄し、婚姻届を受理するよう命ずるべきだ。

 生来の氏名が失われることのアイデンティティーの喪失を受け入れることができず、生来の姓を使うことを希望する人に夫婦同姓を婚姻成立の要件とすることは、生来の氏名に関する人格的利益が侵害されることを前提に婚姻の意思決定をせよというに等しい。

 当事者の意思に反して夫婦同姓を受け入れることに同意しない限り、婚姻が法的に認められないというのでは、婚姻の意思決定が自由で平等なものとは到底いえない。憲法24条1項の趣旨に反する。

 なお、夫婦になろうとする者の対等な協議によって姓を選ぶことはこの結論に影響しない。なぜなら、夫婦同姓が婚姻成立の要件であることを所与として認める条件つきの協議でしかなく、双方が生来の姓を選ぶ選択肢は最初からないのだから、自由かつ平等な意思決定とは言えない。

 日本は80年に女子差別撤廃条約を締結し、85年に国会で批准された。条約は「姓を選択する権利」を明記し、締約国に夫と妻が個人的権利を確保するための適当な措置をとる義務を定めている。女子差別撤廃委員会により16年、この義務の履行を要請する3度目の正式勧告がされたことは、両性の本質的平等という憲法24条2項の理念にも反していたことを映し出す鏡でもあったといえる。

 正式勧告以降も何ら法改正がされなかった事実に照らすと、夫婦同姓が個人の尊厳と両性の本質的平等の要請に照らして合理性を欠き、国会の立法裁量の範囲を超えるものであることを基礎づける有力な根拠の一つとなり、憲法24条2項違反とする理由の一つとなると考えられる。

 夫婦同姓に加えて別姓も認める法制度は世界中に多数存在するはずであり、96年には法制審議会の検討も終えて、夫婦同姓の改正の方向を示す法律案要綱も答申されたことを勘案すると、国会が夫婦別姓を希望する人の婚姻を認める法改正をするにあたり、子の姓の決定方法を含めて法改正を速やかに実施することが不可能であるとは考え難い。全ての国民が婚姻について自由かつ平等な意思決定をすることができるようにし、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚した法律の規定とすべく、各規定を改正し、別姓を希望する夫婦についても、子の利益を確保するため、関連規定の改正を速やかに行うことが求められよう。

 参考までに、この中に出てくる条文は以下。

憲法24条】
 婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。
 配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。

女子差別撤廃条約
第16条
 締約国は,婚姻及び家族関係に係るすべての事項について女子に対する差別を撤廃するためのすべての適当な措置をとるものとし,特に,男女の平等を基礎として次のことを確保する。
(8項あるうちの一つが以下)
(g) 夫及び妻の同一の個人的権利(姓及び職業を選択する権利を含む。)

 今朝の新聞は15人の裁判官全員の顔写真まで載せて、各裁判官の立場を伝えている。それだけ市民の関心が強いのは、結婚と姓の平等という身近なテーマだし、このままじゃ、どんどん世界に置いて行かれるぞという危機感も手伝っているのだろう。

 野党はこれを総選挙での重要な争点にすべし。

 そういえば、最高裁判事の国民審査というのもあったな、誰がどう判断したか、覚えておかなくては。 
 きょうはお勉強会のようなブログになってしまったが、今後もこの問題は注視していきたい。