北朝鮮人権抑圧への抗議を続けよう

 8日、1回目のコロナワクチン接種を受けてきた。

 小さなクリニックなので、待合室があふれ、何人もが外で立って待っていた。流れ作業のように、次から次へと医師の前に呼ばれ、打たれていく。痛みはほとんどなく、針がいつ刺さったか分からなかったほど。翌日注射の箇所がちょっと痛んだだけで何事もなかった。

 私が打たれたのはファイザー社のワクチンだが、これは効き目が1年もたないかもしれないとファイザーの社長が言っている。

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 ウイルスはワクチンをくぐり抜ける変異種を生むだろうから、ワクチン自体も新しいものが開発されるだろう。

 ただ、いま使われているいくつかのワクチンは、それぞれ作用機序をふくめ全く別物らしい。どれがいいかという比較も必要だ。使いでも違う。例えば、ワクチンの保管温度は、ファイザー社のものマイナス75℃(±15℃)。 モデルナ製の保管温度はマイナス20℃(±5℃)とどちらも超低温が要求されるのに対して、中国製のやつは+2℃から8℃と普通の冷蔵庫でもOK。高価な保冷設備が必要ないので途上国では喜ばれているという。意外と効能も良かったりして。
 各国のワクチンもでそろって、そろそろランキングが出そうだな。第一位は・・・?
・・・・・・・
 2日ほど前のNHKニュースで、3Dアニメ映画”True North”が紹介されていた。

 北朝鮮政治犯収容所に入れられた家族の物語だ。清水ハン栄治監督が、10年かけて脱北者の証言を聴きインドネシアを制作地にして作ったという。私も完成前から注目していたが、海外の映画祭でも好評らしい。


 清水さんは、「政治に関心がない人にもエンターテインメントとしておもしろく観られるように作った」という。この手の政治的・社会的テーマを扱うことがなかった日本のアニメにも刺激になるかもしれない。

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外国特派員協会にて

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清水ハン栄治さん

 この映画制作に協力した、政治犯収容所の看守だった脱北者安明哲(アンミョンチョル)さんは、収容所の内部機関にいた人物として初めて実態を暴露した。
 ジン・ネットの番組に複数回登場してもらい、私自身、日テレの番組のスタジオでも一緒に出演したご縁がある。

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アンミョンチョルさん

 彼の証言をもとにした映画ならば、リアリティは保証付きだ。
 上映館が増えてきたので、そろそろ観に行こう。

 政治犯収容所については、1年前(去年5月30日)NK WATCHという団体が北朝鮮の人権に対する国際人権運動の成果」(Effects of International Advocacy toward Human Rights of North Korea)という報告書を出し、その中で興味深い言及があった。

http://www.nkwatch.org/wp-content/uploads/2020/06/Effects-of-International-Advocacy-toward-Human-Rights-of-North-KoreaNKWatch-3-1.pdf

 この報告書は、北朝鮮の人権侵害に対して国外から声を上げることがどれほどの成果を生んだのかを総括している。ふつうの独裁ではない北朝鮮への抗議が、はたして効くのかは、とても大事な論点だ。

 報告書は結論として、人権状況にわずかではあるが改善がみられるとし、その成果が政治犯収容所にあらわれているという。
 一部翻訳して紹介しよう。

 まず総括的には―
 「(報告書は)国際的人権運動が北朝鮮の人権状況に影響を与えていると指摘した。
 そのひとつは、政治犯収容所の数が減ったこと。北朝鮮の人権の実態への国際的批判によって、1980年代後半から90年代前半にかけていくつかの収容所が閉鎖された。この結果、収容所は12ヵ所から6ヵ所へと半減した。さらに金正恩が権力を掌握したのちに2ヵ所が解体され、現在稼働しているのは4ヵ所となった
 ただし、解体された収容所の被収容者すべてが解放されたわけではない。他の収容所に移された人々もおり、残った収容所は拡張されている。つまり、北朝鮮政府の人権に関する考え方や政策に大きな変化はないということだ。」

 「15号管理所(ヨドック政治犯収容所)の完全統制区域は今も機能している。既存の収容所の閉鎖にともない、これまで15号は大規模に拡張されてきている。とりわけ、2013年12月の張成沢チャン・ソンテク)の処刑により、収容所の拡張にはずみがついた。現在、15号の完全統制区域は面積600平方キロ、南北24キロ、東西25キロにおよぶ。5万人がこの施設に収容されているものと推定される

 ヨドックはアンミョンチョルさんが看守を務めていたところで、当時は、思想に「改善」が見られた人が外にでられる可能性がある「革命化区域」と、一生出ることがかなわない「完全統制区域」の2種があったが、今は後者しかないという。ただその規模は拡大していると報告書はいう。

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私がグーグルアースに緯度経度を入れて検索したヨドック収容所。これは宿舎のあるごく一部の地区。この収容所だけで5万人収容されているという


 収容所というと、日本人は監獄のようなイメージをもつだろうが、北朝鮮の収容所は一つの郡くらいに広大だ。ヨドックの600平方キロというのは、東京23区とほぼ同じ面積。収容された人はそこで農作業や森林伐採をはじめさまざまな無償労働を強いられる。その一部は、中国企業などからの注文による製造工程で、収容所は北朝鮮が外貨を稼ぐ基地にもなっている。

 報告書によれば、拷問などが多少減った収容所もあるとのことだ。少しであっても改善は改善。北朝鮮の人権抑圧への抗議の声を上げ続けよう。