「朝日新聞」のGLOBEに懐かしい顔が載っていた。
旧知のドキュメンタリー監督の竹内亮氏だ。去年まで私が主宰していた「ジン・ネット」でも何度も番組制作をお願いしたディレクターだ。南京在住で、いま中国でブレイクしている「時の人」である。
実はかつて、彼を主人公に「情熱大陸」(毎日放送)を制作したいと企画書を書いて番組に提案し、ボツになって実現しなかったという因縁がある。こんなにビッグになるとは思っていなかったが・・。
竹内氏は取材で知り合った南京出身の中国人女性と結婚したあと、日本人、中国人お互いがよりよく知りあうような仕事をしたいと妻の実家のある南京に移住。日本のテレビ番組向けの取材やコーディネーションをやっていた。その当時、私も取材や調査をお願いしたことがある。重宝がられて仕事は途切れずにあったが、妻に「何のために中国に来たの?」と問われ、日本からの依頼仕事は断って初心に返り、めざすべき道を探した。
しばらく模索が続いたが、転機になったのは、彼が2015年に中国のネット動画サイトではじめた「我住在这里的理由」(私がここに住む理由)というシリーズ。
日本に住む中国人、中国に住む日本人の視点からそれぞれの国の社会を伝えるというコンセプトで、初回は浅草の中国人漫画家を主人公にした。
両国の人に見てもらうため、字幕は日本語と中国語の両方をつけた。これが注目されて活動を拡大、現在は社員40人を抱える企業を率いるまでになった。(すごい!)
5~6年前、彼が中国人の若い女性リポーターをつれて東京を取材中にばったり会ったことがあった。聞けば、日本のいろんなお店を中国人リポーターが「突撃取材」する番組を作っているという。
「『アポなし取材』っていう手法、まだ中国では新鮮なんですよ。中国は動画関係のITでは日本よりずっと進んでいますけど、番組制作ディレクションのノウハウではまだ日本人として勝負できます」と語っていた。
去年は、都市封鎖された武漢の人びとを追った1時間のドキュメンタリー「好久不見、武漢」(お久しぶりです、武漢)がヒット。「微博」やYoutubeなどで公開されると年末までに再生回数4000万回を超えた。この作品は日本はじめ海外でも注目されている。
彼の番組には、両国の市民同士が分かり合える空間がある。人間ってどこに住んでいても愛すべき存在なんだなと思わせてくれる。
ますますの活躍を祈っている。
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ミャンマーでは軍のクーデターに対する抗議が広がっている。一部でデモ参加者が銃撃されたとの情報もあり、心配だ。
ミャンマーは「インパール作戦」などの戦争のエピソードで知られるように、現代史でも日本との関係が深い国だ。
日本軍の敗残兵が次々に飢えと病気で倒れたさい、現地の民衆が助けてくれたことはよく知られている。『ビルマの竪琴』のように、戦後も自分の意思で現地に残った兵士もいた。私自身、そのまま現地で家庭をもって暮らした元日本兵二人をヤンゴンで取材したことがある。
私の伯父もビルマ戦線でマラリアに罹って死にかけた。やはりビルマ人のやさしさに惹かれ、晩年、戦友とビルマを訪れる一方、ビルマ人の留学生や研修生の身元引受人になって家に呼んだりしていた。伯父もいわゆる「ビルキチ」(ビルマ気違い―ビルマが好きでたまらない人)の一人だった。
アウンサンスーチー氏の父親のアウンサン将軍は、「建国の父」の英雄だが、日本軍の「南機関」のもとで反英独立戦争を開始、現在のミャンマー国軍の前身の「ビルマ国民軍」を日本軍の指導下で作っている。
日本政府は、軍事政権時代も欧米とは一線を画して、関係を切らずに関与政策を続けてきて、国軍とのパイプもある。
一方、将軍の長女のアウンサンスーチー氏は、父の歴史を研究するため、2年間かけて日本語を習得し、1985年10月から翌年7月までの約9か月間、国際交流基金の支援で京都大学東南アジア研究センターの客員研究員として日本に滞在していた。日本人の知己も多い。
つまり日本は、国軍側にも民主派側にも特別な関係を持っているわけだ。
外務省前のクーデター抗議デモに集まった大勢の在日ミャンマー人たちの姿に、日本政府への大きな「期待」が感じられる。
さらに国民レベルでの「親日」が日本の強みだとの声がある。
先週の「報道特集」に在日ミャンマー人のチョウチョウソーさんが登場して「日本政府は、自分の力をあまり使ってないと思う」と語っていた。
「日本の企業がミャンマーに入っているのは、ミャンマー人は反対してない。
中国なら、(入ってきたら)みんな嫌だって、そういう声が出てくる。
日本は嫌だって一切聞いたことがない。それが日本の強さ。
その強さをきちんと使ってほしい」
同じ番組で、上智大学の根本敬教授が、今回のクーデターの背景と結果についてこうコメントした。
5年前(2015年)、NLDが圧勝した時に、憲法ではアウンサンスーチーは大統領になる資格がないので(外国籍の家族を有する者は大統領になれない-スーチー氏は英国人と結婚し子どもがいる)、軍としてはスーチー氏は大統領になれないと当然のように思っていた。
ところが、圧勝したNLDは「国家顧問」という事実上国のトップの役職を作り、スーチー氏がそれに就いた。国家顧問は大統領にまでアドバイスできる。これに国軍は驚いてしまい、猛反対するが、それでも5年間は国軍からいえば我慢した。
スーチー氏が2度目の国家顧問になるというのは耐え難い。スーチー氏と彼女への国民の人気に対する恐怖心もあり、このままでいくと彼女やNLDが主張し、国民の多くが支持している憲法改正、軍の政治的な権限を弱体化させる憲法改正が通ってしまうような状況もありえると考えた。それが国軍の思惑だという。
また、ミャンマーの軍事政権に対しては、米国のクリントン政権の2期目とブッシュ政権のときはかなり厳しい経済制裁を実施した。その結果、米国資本と米国を市場に選んだ外国資本がミャンマーに入らなかったから、中国の経済的な影響力が強くなった。
今回、もし制裁が始まれば、いわゆる西側の国々の資本は去っていく。そこを狙って中国がさらなる経済進出をする可能性はある。
すでに2009年、中国はミャンマーとパイプラインの建設で合意し、大きく地政学的に取り込もうとしているようにみえる。ただ、軍事的な影響力まで中国がミャンマーに及ぼすかというと、可能性はゼロに近い。というのはミャンマー国軍は、国軍なりの愛国心と誇りを持っていますから、外国軍と組む、もしくは外国軍が自分の国の領土を通過するということに対する非常に強い警戒感を持っているので。―と根本教授は指摘する。
ミャンマーの人々の期待に応えられるのか。日本政府の外交力が試されている。