狩猟採集民が天文学を発達させたわけ

 今年は梅の花の咲くのが遅いようだ。梅林で陽当りのよい1本だけ白い花をつけていた。

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 「コズミックフロントNEXT」(NHK)で「過酷な大地が生んだアボリジニ天文学」(2017年)の再放送を観た。
 《メソポタミア古代ギリシアなど、主に北半球の国々で誕生し、発展したとされる天文学。驚くことに、南半球オーストラリアの先住民族アボリジニが「人類最古の天文学者」である可能性がでてきた。》(番宣)

 人びとの暮らしと宇宙認識の関係がとてもおもしろかった。

 オーストラリア・ビクトリア州で、ある遺跡が発見され、天文学の歴史をくつがえすかもしれないと言われている。
 それは、平原に石を規則的に並べたもので、太陽の沈む位置を観るための天体観測所だったことが判明した。

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上空からみると、直線と円弧の線上に石が並んでいる

 メソポタミア文明エジプト文明天文学を発達させたが、それらよりに古い英国のストーンヘンジ(BC3000年)も天体観測の施設だったとされる。
 この遺跡はストーンヘンジよりはるかに古いと見られ、人類が空を詳細に観測していた最も初期の例の一つと見られている。

 また、5000年前のロックアートには新月などの天体が描かれ、当時の人々が月の運行と海の潮の干満、それによる川の水の増減の関係を認識していたことが分かったという。
 アボリジニは、西洋人とは違う感性で空を見上げてきた。

 ワーダマン部族の長老によれば「南十字」は「巨大なナマズの頭」に模され、その両側には、カエルの姿をした女神ドゥンドゥンと背の高い男神ナーディがいる。ドゥンドゥンが大地を、ナーディが空を作り、この二人から多くの子どもが生れてこの世がはじまったという。

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新月がロックアートとして描かれている

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ワーダマン部族の長老、ビル・ハーニーさん。子どものころから星座とそれにまつわる神話を教わってきたという

 アボリジニには120もの部族と500におよぶ言語があったという。
 ナングラク部族の土地にある壁画には、太陽の黒点らしいものが描かれている。黒点が西洋ではじめて詳細に観測されたのは17世紀になってからである。

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太陽の黒点らしいものが描かれている

 ではなぜ、アボリジニの先祖たちはかくも進んだ天文学を発達させたのか。

 アボリジニの先祖がオーストラリア大陸に上陸したのは6万年前にさかのぼる。そこは乾燥地帯で、農耕には適さない赤土が広がっていた。

 そこで狩猟採集民として生きることになるが、天体の動きを観察するようになるのは、その生活上の必要からだとみられている。

 狩猟採集生活では食料を追って移動するため、その移動時期を正確に知らねばならない。果実が鳥に食われないタイミングや魚の産卵の時期などは生存に直結する情報だ。天体は季節の移り変わりを知らせる「カレンダー」だったのである。

 彼らの生活の知恵の蓄積に驚く。

 私はかつて、アジア最後の狩猟採集民といわれたボルネオ島のプナン族を取材したことがある。
 彼らについて森に入ると、その博識に驚かされた。食料になる動植物はもちろん、矢じりに塗る毒、胃痛のときの薬、雨をしのぐ傘になる草木を次々に教えてくれる。森は彼らの暮らしをささえる「スーパーマーケット」のようなものだった。
 森の中では、我々のなんと無知、無力なことか。弓矢一つ作ることができない。その取材ではじめて、狩猟採集民が「すごい!」と思えたのだった。

 いま、地球環境問題の観点からも、狩猟採集民の暮らしが注目されている。
 狩猟採集という生き方をしているかぎりは、地球システム論的には新しいことは何も起きていない。狩猟採集は他の動物もやっていて人間だけが特別な存在ではない。
 しかし、農耕牧畜は、森林を伐採して畑に変える。結果、地球システムにおける物質・エネルギーの流れが変わる。農地と森林では、太陽エネルギーの地表での反射も、雨による大地の浸食も違ってくるからだ。
 ラディカルにみれば、地球環境問題は農耕牧畜から発生することになる。

 狩猟採集についてもっと調べてみようと思う。