「もうこれは人々の個人の努力だけに頼るステージはもう過ぎた。
感染拡大している地域とそれ以外の人の動きをなるべく控えてくれという強いメッセージと強い方針を国および地方自治体が出すべき」
新型コロナ対策分科会の尾身茂会長の言葉だ。政府に「配慮」した発言で知られる尾身氏でさえ、GOTOをだらだら続けながら国民に注意努力を呼び掛けるしかない政府の無策にいらだっている。
ことここに至っても、菅義偉首相はカエルの面になんとかで、現場からの悲鳴を無視。面の皮が厚いのかと思いきや、実は逆で、一度も会見を開かず、国民へのメッセージを発することなく官僚の陰に隠れている。このままずるずると奈落の底に国民を道連れにする気らしい。
医療体制は危機に突入したと言っていい。
追加の「病床を確保」するのは簡単ではない。例えばECMO(体外式膜型人工心肺)1台を稼働するのに10人内外のスタッフを確保しなければならない。いま看護師はじめ医療従事者の不足が深刻で、募集しても応募がない状態だ。
医療崩壊というのは、例えば急に発作が起きて救急車を呼んでも、病院がどこも「うちはいっぱいで、受け入れられません」と断ってくるような状態を想像すればよい。
一刻も早く強い手を打って感染拡大を阻止することが、結局は「経済」にも良いのだという単純なことがなぜ理解できないのか。
感染を押さえ込んだ中国、台湾、ベトナムなどでは「経済」が正常化しつつあり、すでに「エビデンス」が出てるんですけど・・。
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先日このブログで紹介した『人新世の「資本論」』の斎藤幸平氏がテレビに登場してコメント、我が意を得たりと思った。きのうの「サンデーモーニング」(TBS)の「風をよむ」のコーナーだ。
テーマは「SDGsと資本主義」と、資本主義そのものを正面から問うもの。
「人新世」(ひとしんせい)とは何か。斎藤氏の本では、
「人類の経済活動が地球に与えた影響があまりに大きいため、ノーベル化学賞受賞者のパウル・クルッツェンは、地質学的に見て、地球は新たな年代に突入したと言い、それを「人新世」(Anthropocene)と名付けた。人間たちの活動の痕跡が、地球の表面を覆いつくした年代という意味である」とされている。(P4)
現代は地質学的な年代区分としては、「顕世代」の「新生代第4紀」の「完新世」(Holocene)―「沖積世」のことで、約1万年前から、新石器時代以降にあたる―なのだが、人類の地球環境への壊滅的な影響から「人新世」という造語をクルッツェン氏が提示したわけだ。
「人新世」の危機の根本原因は資本主義という経済システムだと斎藤氏は主張する。資本主義がめざす無限の経済成長を有限な地球で推し進めると、当然どこかで限界が来る。いま進行している格差拡大と環境破壊にはやくピリオドを打たないといけないと斎藤氏は言う。
23日、WMO(世界気象機関)は「温室効果ガスの排出量」が去年、観測史上最も高くなり、今年も改善の気配は見られないと発表した。
また、9月にはモハメド国連副事務総長が、新型コロナのために数百万人が貧困に逆戻りしつつあると報告した。WFPの推計では、新型コロナで飢餓に直面し、緊急援助を必要とする人は約2億7千万人と去年の2倍近くに増加したという。「飢餓パンデミック」という言葉まで登場している。
富める者がますます富んで、そのお金を使って地球を破壊し、気候変動が進行していくと一番大きな被害を受けるのが貧しい人たちとなる。だとすれば、経済成長を際限なくめざす社会から脱却すべきだという結論になる。
2015年に国連総会で採択されたSDGs=持続可能な開発目標は、将来の世代の暮らしを持続可能な形で改善することをめざすものであり、「人新世」のいま、一刻も早く正しい選択をしなければならない。
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このご時世で、自宅にいる時間が長くなり、テレビを観ることも増えている。
毎週土曜、BSテレ東で「男はつらいよ」全作品を放送していて、先週観ていたら、映画の前のコーナーで、山田洋二監督の講演が流れた。
50作目の新作公開を年末に控えた去年夏の、松竹社員向けの「山田洋二監督に訊く」と題する講演で、山田監督は後輩を前に、寅さんと現代を語った。
その中でとても印象に残ったところがあったので紹介したい。
司会が『男はつらいよ』が作られたのは高度経済成長のピークのころだといって、俵万智が寅さんを詠んだ歌を披露した。
自己責任、非正規雇用、生産性
寅さんだったら何て言うかな 俵万智
山田監督、その直筆の歌を手渡されて、こんな話をした。
寅さんと自己責任、寅さんと非正規雇用、寅さんと生産性・・・。
まるで生産性なんかない男だから(笑)
一生、非正規だし(笑)
責任もとらない男だな(爆笑)
はみ出した人間なんだね。はみ出した人に寛容だったんじゃないかな、この映画がヒットした時代っていうのは。
(映画を)観る人はみんな非寛容な時代に生まれてるんだけども。
寅みたいにはみ出た人を愛でるというか、「お前はいいねえ」と彼に共感する自分の気持ちに自分が救われていたんだね。
だから、(映画が)69年にはじまって、70年代は日本で一番充実した時代、あのころ日本人が一番幸せだったんじゃないかな、戦後から今まで見てるとね。
あの時代に比べると、(いま)日本ははるかに窮屈になってきてるよ。表現の自由だってどんどん自由なこと言えなくなってきてるよね。
いろんなところで不自由になってきてるわな。「働き方改革」だって、ちっとも現場がよくなったと思えないし。
だんだん寅さんのような存在が身近じゃなくなってきてることを、僕はむしろ恐れるわけで、いま寅さんだったら何を言うか、どんな思いをするか、「ああいやだ」と言うのか、分かんないけどね、
もう一回、寅さんてものをイメージして、今の時代をもう一度考えてみたい。
今の自分たちの生き方を考えてみたい。
そういうふうに寅さんがなってくれればいいと思ってますけどね・・・
「人新世」とは違った角度から、今の時代を見直せというメッセージが心に響いてくる。