拉致はなぜ放置されてきたのか3

 コロナウイルスの新規感染者はきょう2500人超となり、4日連続で過去最多を更新した。ここまできてもわが国では具体的な対策らしいものが示されない。第3波の襲来はもう人災と言うべきではないか。

 小池百合子東京都知事は19日、緊急記者会見を開いた。
 いったい何が提案されるのかと思ったら、「5つの小」と記されたフリップを掲げ、小人数、小1時間、小声、小皿、小まめと、会食時の注意点を掲げただけ。この人、「三密」といい、都知事の仕事は気の利いたキャッチフレーズを考えることだと勘違いしているようだ。

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 菅義偉首相は同じ19日、「最大限の警戒状況にある」と危機感を示したかにみえたが、「対策」としては、「皆さん、『静かなマスク会食』をぜひお願いしたい」と言っておしまい。GoToイートで外食を奨励したうえで、食べながらマスクしろという。
 要は、民度の高い国民の皆さんがちゃんとしないと感染がひどくなるよ、とこっちに責任を放り投げているわけだ。いやはや。

 以下、私の周りで見聞きしたことから。

1)古い友人と久しぶりに来週会おうかと予定していたら、突然以下のようなキャンセルの申し出があった。
 「先日会った知人の家族が新型コロナ感染者の濃厚接触者だということがわかりました。知人もその家族も今のところ発病していませんが、ご迷惑をおかけするもしれないので、私も1週間から10日ほど自粛します」
 こうして「濃厚接触者の接触者」でさえ、民度の高い国民たちは自発的に仕事や行動を控えている。
 もし、検査施設がもっとたくさんあり、検査が無料か低額で受けられるなら、陽性か陰性か分からないまま長期間ひたすら自宅に籠っている必要はない。感染拡大防止にも「経済」にもプラスになるはずだ。

2)クリニックを経営する親戚が「看護師が足りなくて募集をかけているが、コロナ禍のなか、全く応募がなくて困っている」と嘆いていた。
 医療機関で働く人はアブナイという風評から医療従事者の子どもが幼稚園への通園を断られる事例もあるという。多くの病院の経営も厳しくなる中、今後増加する重症者の受け入れ体制などは十分なのか。

3)東北地方でタイ料理店をやっている知人ときのう電話で話した。
 「使えそうな支援制度はみな使ってますが厳しいです、いつつぶれてもおかしくない状態です」と悲鳴を上げていた。コロナ感染が収まるにはかなりの時間がかかることがはっきりした以上、国民生活を支える何らかの経済対策が必要ではないか。

 検査体制の抜本的改善、ひっ迫する医療体制へのテコ入れ、市民への一定の行動制限とその補償、経済的に追い詰められている市民への追加の経済対策・・・やるべきことは山積みだろうに。オリンピックがどうのと言ってる状況じゃないでしょ。

 国民からのブーイングに押され、政府はやっときょうになってGoToの見直しなどを表明した。もう連休が始まったのだが。

 菅首相はじめ閣僚はいつも「専門家が(対策会議が)こう言うので・・」と人任せの説明しかしないが、国民に向かってしっかり現状認識を語ってほしい。
 危機のときにひどいリーダーをもつ国民は不運だが、そのリーダーを選んだのは私たちだ。いまはともかく批判、抗議の声をあげて尻をたたこう。
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 戦闘が続くシリアのイドリブ県で、反政府活動家らが、横田めぐみさんの似顔絵を壁画にし、シリア情勢にも目を向けてほしいと訴えた。
 

news.tv-asahi.co.jp

 

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 シリアではアサド政権に拉致される人が数えきれないほどいる。私も取材したシリア難民の何人かから家族や友人が連れ去られて消息が不明だと聞いた。投獄され拷問されて、闇から闇へと葬られるケースが多いという。
 生死を知る手がかりすらなく案じ続ける人びとの苦しみに思いをはせる。
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 政府認定の17人の拉致被害者のうち、工作船密入国した工作員に拉致された人が、横田めぐみさんはじめ少なくとも12人にのぼる。だから工作船による工作員密入国を阻止できれば拉致事件の多くは防げたはずだ。
 ところが、そこによく分からないことがあるのだ。

 工作船による密入国の手順は以下のようだ。
 工作母船が日本の沿岸に近づくと、潜入工作員とそれを補助する工作員複数(計3~4人)が乗った工作子船が母船後尾から出される。子船でさらに岸に近づき、ゴムボートまたは水中スクーターで上陸する。出迎え要員が海岸で待っており、石を打ち鳴らす、ライトを点滅させるなどの合図で潜入工作員と落ち合う。同行してきた工作員は母船まで帰っていく。
 まるで映画か小説のようだが、こうして密入国した工作員が、海岸近くで警察に摘発されたことがある。それが一件や二件ではなく、数が多い。
 一般にはほとんど知られておらず、私自身、拉致問題を取材してから、その多さに驚いたものだ。

 私の郷里の山形県で起きたある事件を紹介したい。

 事件が起きた場所は、日本海に面する庄内の温海(あつみ)町である。
 1973年8月6日の『山形新聞』社会面に以下の記事が載った。

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山形新聞』社会面 右から1973年8月6日、7日、26日付


十年ぶり密航か 未明の温海

ずぶぬれ二人逮捕 一人逃走 空海陸から捜索

 五日未明、温海町の海岸わきの国道7号線朝鮮民主主義人民共和国北朝鮮)の国籍を名乗る三人の男が、パトロール中の温海署員に職務質問され、逃亡した。このため、同署は全署員を非常招集して緊急手配、同日午前五時までにうち二人を外国人登録法違反(登録証明不携帯)の現行犯で逮捕、残る一人の行方を追っている。調べに対し、二人は「船が難破した」と言っているが、酒田海上保安部などの捜索でも形跡が発見されず、同署では密航者の疑いを強め、県警察本部警備課の応援できびしく追及している。

 北朝鮮の船、難破・・・」

 逮捕された二人は、Aが四十歳くらいで身長百五十五センチの中肉、カーキ色のズボンに半そで下着姿。Bは三十歳くらいの身長百七十センチのやせ形、濃いグレーのズボンに上半身はハダカ。逃げたもう一人は背が低く、四十五、六歳。三人とも作業ズボンにズックばきで、かなり疲労気味。

 同日午前零時二十分ごろ、同町早田海岸ぞいの国道7号線で、鶴岡方面に歩いている三人連れをパトカーで巡回中の同署防犯係鈴木光也巡査と、同パト係布川敏徳巡査の二人が見つけ、職務質問した一人が北朝鮮の国籍を名乗ったので、外国人登録証明書の提出を求めたところ、Aが鈴木巡査にヒジでつくなど抵抗している間に二人が逃げた。Aをその場で逮捕、二人を追った結果、同五時ごろBは現場から一・五キロ南に行った鼠ヶ関キャンプ場で、鶴岡市の高校生二人のテントの中で寝込んでいたところを見つけ、捕まえた。隣接各署や新潟県警の協力を求め、残る一人の行方を捜しているが、手掛かりはつかめていない。

 Aは日本語を使い、国籍を名乗ったほか、「鶴岡市の三瀬沖で漁船が沈んだので上陸した。ついでに日本を見物して行こうと思い南へ向かって歩いてきた」と話した。また調べ室では北朝鮮の政治や思想などについて日本語を混じえて述べるものの、登録証明書や、行動については時折り朝鮮語で話すほかは一切ノーコメント。Bは机にうつ伏せになったまま、しゃべらない。

不審な船は発見できず

 所持品は年配者が白紙の手帳と海水パンツを持っていたほかは、何もなかった。ただ若い男がはじめに逃げたさいナップザックを持っていたので、途中で隠した疑いがあり、警察犬を使って、付近一帯を捜している。

 警察が密航の疑いを強めているのは①登録証を持っておらず、いっさいの行動を話さない②三人とも作業ズボン、ズックばき、それにことばなどから日本で生活した経験がないようだ③船の難破の形跡がない④ズボンと上半身がぬれていた―などから。同署と本部警備課は、逃げた一人の行方を追う一方、A、Bの身元確認、密入国の方法、動機などの究明に力を入れる。

 一方、警察からの要請を受けた酒田海上保安部では五日午前四時巡視船やまゆき、三十分後に巡視船とねを出動、また新潟の第九管区海上保安部にヘリコプターの応援を求め、酒田―鼠ヶ関間の海域を空と海から大がかりに捜索した。

 同日の海上は、南東の風二メートルで曇っており、視界も二、三キロと悪く、夜が明けてからの捜索でも不審な船や漂流物は発見出来ず、同日午前十時半に打ち切った。

 また、県漁業無線局(酒田市)の話では前夜から同日未明にかけては庄内浜沖一帯で出漁中の漁船は少なく、不審船を目撃したとの情報や、怪電波などはキャッチしていないという。

 県警警備部の調べによると、庄内浜で密航事件がひん発したのは去る三十六年から三十八年にかけて。当時、日本潜入ルートとされていた北陸、山陰海岸が相次ぐ密航事件で警戒が厳しくなったため、比較的、警備の手薄な北日本の海岸をねらったといわれ、いずれも波の静かな五-七月、それも土、日曜日に集中した。

 しかし四十年代に入ってからは急減、最近ではおととし7月末、石川県であっただけだった。

 県警では毎年五月から庄内浜沿岸の密航監視員(民間人)に協力を求め、警戒体制を強化しているが、その矢先におきたまる十年ぶりの事件だけに警戒を強めている。
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 翌8月7日朝刊には、二人の写真と所持品の写真とともに

 密入国と断定 温海の二人 ラジオも所持 県警再逮捕
 の見出しの記事が載り、警察が密入国と断定し、「五日朝、外国人登録法違反の疑いで逮捕した」二人の名前を咸鏡北道漁郎郡漁大津里、崔光成(44)、咸鏡南道興南市、船員・金フンソク(33)と公表(どうせ偽名だろうが)、「六日午後四時過ぎ、出入国管理令違反容疑で再逮捕した」と報じている。

 また「金が逃げるとき海中に投げたナップザックの中にはソニーとナショナルのトランジスタラジオ二台と、マーキュロ、白い錠剤、ショートピースのたばこのパッケージ、トウモロコシのような食糧、衣類などが入って」おり、警察は「これらの所持品は過去にあった密航入国者のものとほぼ同じ」だとしている。

 「逃げた四十五、六歳の男」の行方は分からないが、「温海署が緊急配備して捜索を開始した五日午前二時半ごろ、温海町の小岩川沖、約五百メートルの海上に停泊中のモーターボートが、突然、ライトを消して新潟方面に走り去ったのを捜査員が目撃し」たという。
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 8月26日の朝刊には、
 地検鶴岡支部 「密入国」で起訴 北朝鮮の二人
 の見出しで、地検が二人を「出入国管理令違反(密入国)容疑」で起訴したことを伝えている。

 二人は「七月三十一日、北朝鮮の漁大津(オデジン)港を出た船が難破したため救助を求めようと上陸した」と密入国を否定。
 しかし、日本近海で船が遭難した形跡はないうえ、 捜索の結果、「密入国に使ったとみられるエンジンのついた黒いゴムボート」「トランシーバーのケース、公航海羅針盤トランジスタラジオなどが発見された」という。

 ヘリコプターまで出動する大がかりな捜索がなされ、新聞でも大きく取り上げられたこの事件だが、このあと意外な展開が待っていた。
(つづく)