みかんを作る周防大島の出版人

 19日から節気は「雨水」(うすい)。雪が雨に変り、雪が解けだす時期だ。
 初候、19日から23日が「土脉潤起」(つちのしょう、うるおいおこる)。次候「霞始靆」(かすみ、はじめてたなびく)が24日から28日まで。末候「草木萠動」(そうもく、めばえいずる)。新芽が出てきて、少しづつ若い緑を目にするようになる。

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 まんさくの花が咲いていた。まんさくの名前の由来は不明だそうだ。春早く「まず咲く」から来たとも。昔の人は、よく花が咲くと豊作になると、稲の作柄を占ったという。
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 毎日ミカンを食べている。

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 民俗学者宮本常一の故郷の山口県周防大島から通販で取り寄せた晩生温州みかんで、とても味が濃く、おいしい。
 作っているのは宮本常一の作品を数多く出版する「みずのわ出版」代表の柳原一徳さんで、《荒廃農地の増加により病害虫の多発する実情に鑑みてミカンの無農薬栽培は限りなく不可能に近いのですが、小社では可能なかぎりの減農薬栽培を追求して》いるそうだ。http://mizunowa.com/

 みずのわ出版が出す本は、とても採算に合わないだろうと思うようなラインナップ。  実際、6年前の2014年、「限りなく閉店に近い経営縮小のお知らせ」を出していた。

《・・古典として残すべき人文社会書しか作らんと言い出した日には、このご時世、もはや首都圏に本拠地を置く版元でなければやっていけません。何を出しても売れない。売ってくれる書店が次々と消えていく。気がつけば、地方小扱いではジュンク堂しか残っていない。たまに都会に仕事に出ると、電車もバスも、何処もかしこも、スマホいぢってる人ばっかりで、本を読んでる人が殆どいない。商売柄Facebookは「やらない」よりは「やっておいた」ほうがよいので、ウチのペイジも作ってはいますが、本の実売には全くつながっていない。ネットに依拠する人の生理は、読書人とはまったくの別ものです。ここまで、日本人は本を読まなくなってしまった。推敲に推敲を重ねた書籍を読む力を維持し続けなければ馬鹿になりまっせというても届かない。もう無理とみました。本を出せば出すほど印刷所に迷惑をかける。家族には、それ以上に迷惑をかける。そうしてまで続けるわけにはいきません。
 閉店といっても出版業から完全に撤退するわけではなく、瀬戸内海、宮本常一という、断じて譲るわけにはいかない2つの柱に絞って、予算が確保できたときに限って新刊制作発行を継続していく考えです。・・》

 しかし、その2年後2016年、出版事業継続の宣言を出す。
《過日、出版界の良心とされてきた某版元と業務上の交渉をした折、あまりの堕落ぶりと志の低さに怒りを通り越して呆れ果て、こんな奴らに任せてはおけぬと思い直しました・・》(以前、ブログで紹介した https://takase.hatenablog.jp/entry/20170307

 もう意地でも出版を続けるという。こうした地方の志の高い出版社には頭が下がる。
 例えば、福岡県の「石風(せきふう)社」は中村哲先生の御用達で、『医者、用水路を拓く』はじめ中村さんの関連本10冊を出している。代表の福元満治さんはペシャワール会の事務局長を務め、自身、『石牟礼道子の世界』などの著作がある。
 また、私も何冊か買っている弦(げん)書房。同じ福岡の出版社で、石牟礼道子渡辺京二などの著作を精力的に出版してきた。いい本が多い。

 良きものが淘汰されていくご時世にあって、よくがんばっていると感心する。何とか続けていってほしいものだ。