緊急院内集会 「報ステ」を問う

 テレビ朝日の「報道ステーション」で大問題が起きている。
 きょう13日13時から衆院第一議員会館で緊急院内集会「『報ステ』を問う」が開かれ、参加してきた。

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 長く番組を支えてきた手練れの社外スタッフ(派遣労働者)約10人に3月末の契約終了を通知したのだ。大量の一斉雇い止めである。
 定刻に行ったのだが、会場の第一会議室が満杯で廊下まで人があふれて、関心の高さを物語っていた。東京新聞の望月記者はじめ知られた記者やジャーナリストも多く参加していた。

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 この問題の背景についてはlite-ra記事を引用する。
 《『報ステ』では前MC・古舘伊知郎の降板以降、徐々に政権批判色が薄れているが、とりわけ、2018年7月に早河洋会長の“子飼い”と言われる桐永洋氏がチーフプロデューサーに就くと、政権批判や原発報道などを極端に減らし、スポーツなどをメインに据えた“ワイドショー路線”に舵を切る。小川彩佳アナウンサーは番組から追放され、早河会長お気に入りの徳永有美アナがMCに抜擢。金曜日にいたっては安倍応援団の野村修也氏をコメンテーターに起用するなど、『報ステ』は骨抜きにされてしまった。

 ところが昨年8月、その桐永CPが女性アナウンサーやスタッフへセクハラを繰り返していたことが表沙汰になる。結果的に桐永氏はCP解任となるが、このときテレ朝が下した処分自体は、出勤を3日間停止する「謹慎」という大甘なものだった。
 このセクハラ問題の後、後任CPには鈴木大介氏が就くのだが、昨年12月、今度は番組内の「桜を見る会」問題を伝えるニュースのなかで、自民党世耕弘成参院幹事長がコメントを「印象操作」されたなどとし、Twitter上で『報ステ』を恫喝するという事件が発生。当時、本サイトでも検証したように(https://lite-ra.com/2019/12/post-5140.html)、これは明らかなイチャモンとしか言いようがない報道圧力だったが、テレ朝上層部は完全に屈服。報道局長が自民党の幹事長室を訪れて謝罪、番組放送内でも世耕氏に「お詫び」をする事態になる。
 そうしたなかで昨年12月、前述のベテラン社外スタッフたちの契約打ち切りが、テレ朝側から告知されたのだ。
 院内集会での説明によれば、12月20日の『報ステ』本番終了後の反省会で、佐々木毅・報道番組センター長が「体制刷新」を説明。今年3月いっぱいでの鈴木CPの交代と。正社員スタッフ6名を1月1日付で異動することを発表した。CPが就任わずか7カ月で替わるというのは事実上の“更迭”で、1月の社員異動も異例のことだが、さらに番組側は前述のとおり、社外のベテランスタッフ約10人との契約終了を宣告したのである。》
https://lite-ra.com/2020/02/post-5255.html

経過は以下;
2019年8月30日
 桐永洋チーフプロデューサー、セクハラ問題で解任
(処分は3日間出勤停止の「謹慎」止まり)
12月10日
 世耕弘成自民党参院幹事長が、自身の発言に関するニュース編集をめぐり報道直後からツイッターで批判
12月11日
 宮川晶報道局長が幹事長室を来訪して謝罪。「報ステ」でも謝罪。
12月16日の週
 各プロダクションに在籍スタッフの契約終了に関する通告がなされる
12月20日
 本番後の反省会で佐々木毅・報道番組センター長が「体制刷新」を説明
 ○正社員スタッフ6名を1月1日付異動
 ○20年3月末でチーフプロデューサーが交代
 ○同3月末で外部のベテランスタッフの契約終了(10~12人程度)

 テレ朝では一昨年、女性社員が取材対象の福田淳一財務事務次官からセクハラを受けていたことを上司が取り合ってくれなかったため、会話の録音データを『週刊新潮』に提供し、大きな社会問題になった。
 ここから日本でもMeToo運動やフラワーデモが始まったといってもよい大きな事件で、テレ朝は深く反省して適切に対応することを約束したはずだった。
 ところが、今度は報ステのチーフプロデューサーがセクハラをしたのに、極端に軽い処分で済ませた上、これを告発したのが社外スタッフだとして報復に出たと言われている。

 同時に、政権批判を控えるために、「根性のある」ベテランの社外スタッフを切ることで番組の「色」を変えようとしたという二重の狙いがあると見られる。

 じっさい、報ステの政権批判にからむ報道がすでに大きく減っており、テレ朝の「変質」はどんどん進んでいると危惧されている。
 これは派遣労働者の権利の問題にとどまらず、報道の自由、ひいては国民の知る権利を脅かす問題だとして、多くのメディア関係者が注視しているのだ。
 政権に都合の悪い報道をしたら自分の身分が危うくなるとなれば、誰も政権批判をしなくなる。

 「報ステ」、「朝まで生テレビ」、「サンデープロジェクト」などテレ朝の報道系番組に関わってきた朝日新聞の山田厚さんが、きょうの集会に駆けつけ、テレビ界の暗部を語っていたので紹介したい。

 《私は朝日新聞に入る前に、大阪のテレビの準キー局に就職した。そのとき番組を作っているのは「下請けさん」と言われる人たちだと知り、私がずっとテレビで報道をやりたいなら、下請けの会社に入りなおさないといけないのかなと思った。
 というのは、正社員として報道に配属されても、3~4年で人事に行ったりCMに行ったりする。正社員とは、ゼネラルマネジャー、管理職要員みたいなもので、実際には報道の現場は、きわめて献身的で、労働環境が悪く、使い捨てされるような人たちで支えられている。
 入社直後、編成という部署に仮配属されて、夜遅くまで仕事をしていた。私は入ったばかりの22~23歳のガキだったが、終ったあと、椅子を片付けようとすると、「社員さん、そういうこと、なさらないでください」と言われた。みな同じような茶色っぽい上っ張りを着ているが、袖のところにブルーの線が入っているのが正社員で、茶色の線が入っているのが下請けとはっきり分かる。
 終わった後いっしょに酒を飲んだりして給料などを聞くと、下請けで報道の仕事をやるのはつらいなと思えるような待遇だった。
 
 そのテレビ局では報道を希望したが、配属される見込みがなさそうなので辞めて、朝日新聞に入った。
 その後、テレビ朝日に出入りして番組を作ることになったが、「こういう企画でやろう」という場合、一緒に組んで仕事をするのは、管理職のチーフディレクター、プロデューサーではなく、関連会社のVIVIA(テレ朝の子会社、テレビ朝日映像)とかフリーでやっている人たち、ベテランの非常にモノゴトを知ってらっしゃる、けれど決しておもてには出ない、そういう人たちだ。
 もちろん社員は、大きな番組の流れとか、方向性とか、リスク管理とか、経費計算とか大事な仕事があるのだろうが、実際に何をどう訴えてどんな番組を作っていくのかというのは、全部下請けの方だ。
 私がある報道番組でお世話になった、優秀な女性の社外スタッフがいた。この方は一人でやっていた方だが、「山田さん、酷いのよ、結局リストラが全部私たちに回って来る。これも削られて、これも安くなって・・・それに対して抗弁する余地もなくて、ただ受け入れるしかない」という。結局、彼女は体を壊して疲れきって自死された。テレビ局に対する恨みつらみがこういう形になったのかと思った。
 このように、実際に現場でやっている人たちが使い捨てされているのが現状だ。そんななかでも、精神的には高い方がいて、好きだから何とかやりたいし、現場にいる手ごたえを感じてて喜びもあるから、みんなで励まし合いながら良い番組をつくろうと努力している。
 そういう人たちが、上層部の風向きが変わったりすると、その都合で、あの人はもういらないと取り換えられていく。人びとが「スペア」として使われると同時に、論調さえ人の入れ替えでころころ変えていくことができる。
 このシステムはほとんど知られていないし、私も中に入ってはじめて「えー、こういうことだったのか」と思った。
 きょうは「かたき討ち」みたいな形でここに来た。できるだけ多くの人たちにこういう現状を知っていただきたいと思う。》

 先に挙げたlite-ra記事はこう結んでいる。
 《いま、『報ステ』で起きている社外スタッフ切りの問題は、決して、ひとつの報道番組だけの問題ではない。こんな暴挙が見逃されれば、視聴者の知る権利はどんどん奪われ、安倍政権を礼賛する官製報道か、芸能人の不倫や一般人の炎上・ご近所トラブルのような卑近な話題しかテレビで流れなくなってしまうだろう。このままではテレビ朝日は完全に死んでしまう。次はTBSなど他の民放だ。座視している場合ではない。》

 ぜひ関心を持って「報ステ」問題を見守っていただきたいと思う。