ウクライナを変える市民社会4

 マスコミのニュースは自民党総裁選に占拠されている

 9人の候補は、選挙の顔に誰がいいかのイメージだけで競っている。裏金問題、統一協会ふくめ自民党が引き継いできた安倍政治の根深い問題をこそ論戦で取り上げるべきなのに、無視されたまま。高市早苗氏は推薦議員20人中、裏金議員が13人だって!?その中にはあの杉田水脈氏も。

 そもそも自民党がなぜダメで、岸田総裁が退かざるを得なかったのか。国民は騙されないようにしよう。
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 パラリンピックではウクライナ国内がとても盛りあがったというウクライナ選手が大活躍したからだ。

 日本も金14個、メダル総数41個で健闘したとされているが、ウクライナは金22個、メダル総数で82個というからすごい。戦時下で、練習する場所や時間が限られ、さらに資金面でも大変ななか、よく頑張ったなあ。

 一方、10日、ICC国際刑事裁判所のカーン主任検察官が、7月8日のロシア軍による攻撃で破壊された首都キーウの小児病院を視察し、攻撃を命じたロシア軍の将校に逮捕状を出したことを明らかにした。このミサイル攻撃では2人が死亡し、子どもを含む30人以上がけがをした。

NHKニュースより

NHKニュースより

 会見で、コスティン・ウクライナ検事総長は、当時、ロシア航空宇宙軍で長距離航空部隊を率いていた司令官が、巡航ミサイルKh101を搭載した長距離戦略爆撃機を使って攻撃するよう部隊に命じるなど、直接関与していたことが分かったと発表した。この司令官について、ICCは、ウクライナのインフラ施設を攻撃した戦争犯罪などの疑いで逮捕状を出しているという。

 「軍事目標しか狙っていない」などととうそぶきながら非人道的な攻撃を続けるロシアを許してはならない。
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 前回、ウクライナの住民のアイデンティティエスニックなナショナリズムからシヴィック(市民的)な国民意識へと成長・転化してきたことを紹介したが、グージョン『ウクライナ現代史』河出新書)はこう記している。

 「マイダン革命後の市民参加はまた、政治改革の分野(汚職撲滅、裁判、公開市場)にも関わっており、多くの組織が創設されている。国家レベルでは、革命の終わりに創設されたNGO連立「蘇生改革パッケージ」が十数個の組織と専門家グループを結集して、法案を策定し、議員に圧力をかけ、改革に関連する法律の採決や活用の監視にあたっている」。

 

 NGOが政府に監視されるのではなく、逆に政党や政府を監視する活発な活動を展開しているのだウクライナには多様な「市民社会の組織」が15万件以上(2020年初頭現在)も登録されており、権威主義のロシアとは全く逆の国づくりを目指している。

 長らく国家をもたなかったウクライナでは、独立後も「国民」という意識が弱かった

 2013年の調査では、54.2%が自分を「ウクライナ国民」と思っているのに対し、35.3%が居住地の住民(たとえば「ドネツクの住民」)と意識していた。これがマイダン革命やその後のロシアからの圧力、武力攻撃を経た19年には、75%対16%へと変化している。ウクライナの国民的統合、一体化が急速に進んでいることを示している。(NGOシンクタンク「ラズムコフ・センター」)

 現在では、ほとんどの住民が「ウクライナ国民」と自己認識するようになっていると思われる。

 平野高志さんが『朝日新聞』10日付け夕刊の1面で大きく取り上げられていた。ウクライナでに日本車(マツダ)の中古車が「大市珍味」という漢字のロゴがついたままで使われていると平野さんが写真付きでXで投稿したところ、その会社が反応して両国の意外な交流が話題を呼んでいるという記事だ。
https://x.com/hiranotakasi/status/1833471620549136592

10日夕刊1面

 平野さんのウクライナ市民社会についての記事続き。市民社会の活躍は汚職撲滅や選挙制度改革だけではない。

人権保護においても市民社会の活躍が目覚ましい。特に2014年以降、ウクライナ南部クリミアや東部ドンバス地方から多くの国内避難民が発生したが、政権の対応は遅かった。そこで避難民を支援したのが、「クリミアSOS」や「東部SOS」など様々なNGOである。これらの団体は、各地域の出身者が中心となり、ロシアの占領地や紛争地から逃れてくる避難民の支援、紛争隣接地・被占領地の状況モニタリング、国際裁判に向けた証拠収集、ロシアに拘束された人々の解放を求める運動、避難民の各種権利回復の呼びかけなど、多様な活動を行い、政権の対応の遅れを補った。》

 私が取材した南部戦線でも、前線近くで住民への支援活動をするNGOの青年たちがいた。行政が及ばないところを民間ボランティアが精力的に補っていた。

takase.hatenablog.jp

 NGOから政府の要職や影響力ある役目に抜擢されることもあるといい、一例として「クリミアSOS」の創設者の一人、クリミア出身者のタミラ・タシェヴァは、現政権でクリミア問題を統括するウクライナ大統領クリミア自治共和国常駐代表になっている。この《タシェヴァの大統領代表職は、ウクライナ政権のクリミア脱占領・再統合政策をまとめる重要ポストであり、同氏が率いる代表部は現在クリミア奪還後の統治に向けて、諸政策の準備を進めている》

《今回紹介したのは、市民社会を代表する専門家・活動家のほんの一握りに過ぎず、ほかにも、あらゆる分野で活躍する人々がいる。男女ともに20~40代の若い層が多いこともあって、改革とは直接関係ない人々、例えば文化、IT、芸能、音楽分野の若い人々とも連携して、抵抗勢力が容易には抗えない変革の流れを生み出している。また、近年の特徴は、彼らが様々な形で政権内に要職を得て、改革・政策の実現に直接関わっていることだ

この市民社会の活躍こそがウクライナ内政の重要な特徴である。そして、その勢いは若い世代の台頭とともにいよいよ強まっている。

 現在のロシアの対ウクライナ戦争は遅かれ早かれ何らかの終わりを迎え、「英雄」と讃えられているゼレンシキー大統領もいずれ政界を去る。しかし、ウクライナはその後も復興や改革を続けていかなければならない。その時に、改革の推進力となり、政権の暴走に対するブレーキとなるのは、この市民社会だ。》

 市民社会は、国内勢力の中で、軍、教会と並んで国民から高く信頼されているという。また国際的な評価も高い。

EUのフォン・デア・ライエン欧州委員会委員長は、2022年6月19日、ドイツの公共放送でウクライナを「活発な市民社会を持つ強力な議会制民主主義国家」だと形容した。その後、ウクライナEU加盟候補国の地位を獲得できたのも、市民社会が高く評価されていることが大きい》

《最後に、ゼレンシキー大大統領が2019年の大統領選挙で勝利した直後に、旧ソ連の他の国々に向けて発した言葉、「私たちを見てくれ。あらゆることが可能なのだ」を紹介したい。彼の念頭にあったのは、芸能人であった自身が大統領に当選したということであろう。しかし、彼を大統領に選びながらも、好き勝手なことはさせず、改革の実現を迫り、真の意味で「あらゆることを可能に」して下支えをしているのは、市民社会に代表されるウクライナ国民自身である。

 そして2020年のベラルーシ反政府抗議運動のように、近隣諸国の人々がウクライナで起きていることを見て、自国の変化を求めていく動きは今後も起こり得よう。ロシアのプーチン大統領ウクライナに対して恐れているのも、この強力な市民社会の存在、そして変革がロシアへ波及することなのかもしれない》(完)