香港―抵抗と暴力

 きょうと明日、NHKクロ現で「シリーズ 検証・かんぽ問題」が放送されるが、第一夜のスタジオに「2年にわたって保険の不適正問題を取材」してきた望月健ディレクターが登場した。

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 彼は10年前までジン・ネットの社員で取締役の一人でもあった。当時から傑出した取材力があり、今の活躍は驚かないが、かつての仲間が大きな意味のある仕事をしているのを見るのはとてもうれしい。
 かんぽ問題は、早くも2018年4月にクロ現が取り上げた。すると日本郵政グループが圧力をかけてNHKに続編の放送を延期させた。https://takase.hatenablog.jp/archive/2019/09/29
 今回、かんぽ問題がまた放送できたということは、クロ現放送延期をメディアが報じ、国会でも取り上げられ、社会からも批判がでたことが大きい。まがりなりにも民主社会であればメディア、政治、市民が動けば事態はマシになるのである。また、NHKの中にも圧力に屈しない人々がいることが確認できる。
 かんぽ問題は、まだまだ闇が深そうで、さらに追及してもらいたい。
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 13日、東京外大で『香港危機に終わりはあるのか?』というシンポジウムがあり取材してきた。
 香港政治が専門の倉田徹さん(立教大教授)が編著の『香港危機の深層』(東京外語大出版会)という本の出版記念の催しだ。9人の著者のうち8人が参加し、伊勢崎賢治さんの講演もあり、香港から周庭さんがスカイプで会場と対話するなど盛りだくさんの、非常に中身の濃いシンポジウムだった。

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スカイプで結んだ周庭さんに多くの質問が寄せられた

 論点は多岐にわたったが、議論が集中したテーマに「運動はこれからどうなるのか」そして「暴力をどうとらえるか」があった。
 多くの論者が、民主派が圧勝した区議選のあとも香港政府と警察はまったく変わっておらず、反政府運動は終りそうにないと見ている。
 雨傘運動では都市中心部の限定された地域を占拠する「オキュパイ」型の闘争だったが、今回はデモ隊がゲリラ的に神出鬼没の闘争を実施した結果、中心部だけでなく田舎でも警察のデモ規制が見られた。警察の暴力を目の当たりにする機会が格段に増え、区議選では、警察が催涙弾を撃った地域で民主派が勝ったという。デモ事情に詳しい人がこれを評して「本当の意味で全民運動になった」と言う。
 周庭さんは8月末に(私が香港に着いて会う予定だった日に)逮捕、起訴され、自由に海外に出られないのでスカイプでの出演となった。闘いはいつまで続くかと会場から聞かれた周庭さんは、「何千人と仲間が逮捕されている。もし闘いを止めれば、仲間たちは何年も獄中に身を置くことになり、弾圧はさらにひどくなる。止めるわけにはいかない」という意味の答えをした。また、「平和的なデモだけでは政府を変えられない。急進的な手段で「逃亡犯条例」改正を撤回することができた」とも語った。
 本の執筆者の一人で香港の若者たちの動向に詳しい伯川星矢さんが、周庭さんを補足する。「人々の声に耳を傾けようとしない政府には、いくら100万人超が集まっても平和的な運動では効き目がない。条例改正を撤回したのは、空港を2回占拠した結果だった。つまり実力行使が効果があった。暴力ではなく抵抗だといいたい」。
 ゲストスピーカーの伊勢崎賢治さんは、アフガンで武装解除の任にあたったことで知られるが、香港区議選に民主派から監視委員として招聘された。
 伊勢崎さんの話は「抵抗と暴力」。パレスチナインティファーダを例にとって、こう問いかけた。「パレスチナ人の子どもが、イスラエルの戦車に向けて石を投げた。これは暴力ですか」。

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 伊勢崎さんによれば、これは暴力ではない。「私は子どもが手榴弾を投げても暴力ではないと思う」。
 いったい暴力とは何だろうか。
(つづく)