日本に裸婦像が乱立したわけ2

 ファンだった方の訃報。
 八千草薫(享年88)。若いころ、こんなにきれいな人がこの世にいるのかと思った。山田洋次監督(88)がきのう、東京国際映画祭の舞台あいさつで「僕たちの世代の日本人にとって、若い時からあこがれの人でした」語ったが、「あこがれ」は私の感覚にもぴったりする表現だ。脚本家、倉本聰は「あの美しさは、ただ表面的な顔の美しさではありません。心の美しさが顔に表れていた」と言う。同感。
 5月、同じく大女優、京マチ子(享年95)が亡くなったのもショックだったし感慨深かった。どちらも「男はつらいよ」に出ている。こちら、京マチ子は歳をとっても色っぽいドキドキさせる女優だった。八千草薫が「お嫁さんにしたい女優」ナンバーワンだとすれば、京マチ子は恋人にしたい女優かな。二人とも他に類を見ない屹立した存在で、まさに一つの時代が終わった感がある。

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若き日の京マチ子

 きょう緒方貞子さんが92歳で亡くなったとのニュースが流れた。
 《緒方さんが生涯でもっとも力を発揮し、また輝いたのは、やはり国連難民高等弁務官時代(91~2000年)だと思う。米ソ冷戦の終焉(しゅうえん)は民族紛争の激化を招き、就任前の1980年代に500万人の難民は退任までには2200万人に膨らんだ。まさに難民の時代の始まりだった。
 緒方さんはジュネーブ事務所を飛び出し、一貫して現場主義を貫いた。迅速な決断と行動力、明快なリーダーシップ。防弾チョッキにヘルメット姿で紛争現場に臆することなく入る緒方さんを、欧米メディアは「小さな巨人」と感嘆したものだ。》(産経新聞
 この記事を書いた産経の千野境子論説委員はマニラで私と同時期に特派員だった。私も緒方さんを現場で見てみたかった。千野さんの記事続き。
 (2012年に)《緒方さんは「日本は人道的な役割で大きな役割を果たしてもらいたい。他に(日本の)生きようがあるでしょうか。もっと大きなところで世界的取り組みをしてもらいたい」と述べている。
 しかし日本には歯がゆさやいらだちもあったはずだ。「(日本人は)ひどく萎縮している。国会の答弁なんか聞くとちょっと絶望的」と嘆いた。それでも生涯日本の国際協力に期待し、次世代に夢を託した。》https://www.sankei.com/world/news/191029/wor1910290020-n1.html
 3人のすごい女性たちのご冥福を祈ります。
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 もう1ヶ月も前に「日本に裸婦像が乱立したわけ1」を書いて「つづく」で終っていたが、その続きをほっぽっていた。すみません。

https://takase.hatenablog.jp/entry/20190930
 おさらいをすると、日本全国のとくに公共施設に裸婦像が置いてある始まりをたどっていくと皇居の堀端、国立国会図書館にもほど近い三宅坂小公園にそれはあった。そこにかつての《寺内元帥騎馬像》の代りに《平和の群像》と題して3人の裸婦が設置された。その転換は、GHOが日本から軍事色を一掃し「平和国家」に衣替えさせる文脈のなかで起きていた。https://takase.hatenablog.jp/entry/20190930

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 この3体の裸婦像は、東京藝術大学彫刻学科教授・菊池一雄が「愛情」「理性」「意欲」をテーマとして制作したという。
 私が三宅坂小公園で《平和の群像》を眺めながらぐるりと台座を回ると、まず目に入ったのが、「渡辺崋山誕生地」の碑。そして台座のすぐ裏には「株式会社 日本電報通信社」の大きなプレートがあった。日本電報通信社とは電通である。
 「広告がわが国の平和産業と産業文化の発展に貢献した事績は極めて大きい。わが社は昭和25年(1950)7月1日その創立50年を自祝し過去半世紀を回顧してこれを記念するに当り、平和を象徴する広告記念像を建設して東京都民に贈り、広告先覚者の芳名を記録してその功労を永久に偲ぶこととした」とある。
 マスコミ界を牛耳る電通が、自社の記念行事の一環としてこの裸体像を建設し、それが日本の公共空間に初めて誕生した女性裸体像になったというのである。
 電通はさらに創立 55 周年記念事業として、東京・千鳥ヶ淵公園に顕彰記念像「自由の群像」を、そして創立 70 周年記念事業として、東京・代々木公園に「しあわせの像」を建てている。

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「自由の群像」は男性の裸像

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「しあわせの像」は男女のカップルと子ども

 「平和」から「自由」へ、さらに「しあわせ」へ。なにかこの国の大きな「空気」の変遷を象徴するかのようである。

 これから街でいろんな像を見かけたら、もっと注意して観察してみよう。
参考:http://crd.ndl.go.jp/reference/modules/d3ndlcrdentry/index.php?page=ref_view&id=1000187987
https://artscape.jp/focus/10144852_1635.html
http://www.dentsu.co.jp/news/release/pdf-cms/2017118-1030.pdf