世界報道写真展2019を観に行く

 東京都写真美術館に「世界報道写真展2019」を観に行った。
https://topmuseum.jp/contents/exhibition/index-3437.html
 「スポットニュースの部」で大賞を受賞したのがフォトジャーナリスト、ジョン・ムーア氏のこの写真だった。

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 2018年6月12日、米国テキサス州マッカレンで、母親サンドラ・サンチェスが国境監視員の取り調べを受けている間、泣き叫ぶホンジュラスの子どもヤネラ。
 米国に亡命しようと、1ヶ月かけて中米からメキシコへと移動してきた母子は、国境の川を渡って米国に入り、拘束された。トランプ政権は「ゼロ・トレランス」(不寛容)政策を発表し、不法に越境し拘束されたものを刑事訴追すると述べたが、その結果は親子が切り離されて別の収容施設に送られた。この写真は大きな反響を呼び、抗議を受けてトランプ大統領は同年6月20日に政策を覆すことになったという。1枚の写真が政治を動かしたわけである。
 ジョン・ムーア氏は1968年米国テキサス州生まれ。ゲッティイメージズ所属。受賞歴は計4回の世界報道写真賞、ピューリッツアー賞、ロバート・キャパ・ゴールドメダル賞など多数というスタージャーナリストだ。 
https://www.pen-online.jp/news/culture/jonhmoore_2019/1

 ある写真展レポート(関根慎一氏による)に、来日したジョン・ムーア氏の記者会見が紹介されていた。https://dc.watch.impress.co.jp/docs/news/exhibitionreport/1192233.html
 紛争地など危険な場所で、撮るべき写真とリスクのバランスをいかにとるかという問題では;


——リスクのお話についてもう少し聞かせてください。そういった危険な取材現場においては、どのようにして安全を確保していたのでしょうか。

ジョン・ムーア:個々のプロジェクトにそれぞれ異なるリスクがあるのですが、私の場合、特に中央アメリカの現状を取材する際には、現地のジャーナリストと行動をともにするようにしています。彼らは現地の内情を詳しく知っているので、取材をするにしても、より条件の良い場所に連れていってもらえますし、現場からすぐに離れなくてはならない状況に陥ったときにも、避難誘導してもらえますから。

——命の危険を冒すリスクのある職業ですが、どうして報道フォトグラファーの職に就く道を選んだのでしょうか。

ムーア:私は何か、世界に変革を起こすようなストーリーを伝えたいと思っていますし、同時に、誰も見たことのない写真を届けたいという思いが強いんです。私はプロの写真家になって27年になりますが、これは多くのジャーナリストがそういった想いで仕事をしていると思いますし、私自身も、そういった想いは今でも変わらず持ち続けています。

——ムーアさんにとって、報道写真とはどのような力を持っているものなのでしょうか。
ムーア:報道写真は「フォトグラフィ」と「ジャーナリズム」の2つの要素を持っていますが、私はこのうち「ジャーナリズム」の方に興味を持っています。いかに写真でストーリーを伝えるかに興味を持ってこの仕事をしています。ですが「フォトグラフィ」も重要です。

 いま、スマートフォンSNSの発達によって、世界中で多くの人々が写真を目にするようになりました。もしかしたら、1枚の写真を見る時間は1秒もないのではないでしょうか?そうした状況の中、写真が多くの方に興味を持ってもらえなければ、その先にある記事を読んでもらえませんよね。なので報道内容を知ってもらうためには、まず「写真的に強いイメージ」を打ち出す必要があります。報道写真にはそういう力があるのです。

——撮影している時に意識していることはありますか?

ムーア:写真を見る人と写真そのものを、いかに感情で結びつけるかを常に考えています。人々は写真の詳細については憶えていませんが、感情を掻き立てた写真は憶えているものです。

・・・・・
 戦場のど真ん中で兵士がスマホで動画を撮り、即座に世界に配信できる時代である。速報性では現場の人にかなわないだろう。また動画の生々しさと情報量には静止画である写真は対抗できないのではないか。報道写真は存在意義の問われる時代に入ったのではないかとさえ思っていたので、このあたりはとても興味深い。
 ムーア氏はフォトグラフィよりジャーナリズムを重視するが、大量に映像が反乱している今だからなおさら、写真のインパクト(感情を掻き立てる写真)で引きつける必要があると考えているようだ。
 また、以下のように、静止画の影響力は今も強いままであり、SNSの発達でむしろプロの映像の重要性が大きくなっていると認識しているようだ。

 

——写真を発表する場の環境は、ムーアさんがフォトグラファーになった27年前と現在とでかなり違うと思うのですが、当時と今でご自分の撮影した写真の影響力の違いを感じることはありますか?

ムーア:仰るように、一枚の写真が世の中に与える影響力は、以前よりもさらに高まってきていると感じています。SNSの台頭で、イメージが持つ影響力の強さはより顕著になっており、そこには動画と静止画の両方が混在していますが、静止画の影響力は依然として強いままです。

 それには静止画が撮ったあと編集を経ずにすぐ拡散できること、そして「アイコン化」できるという特性が関係しているのかもしれません。今回の受賞作品の閲覧回数をゲッティイメージズに調べてもらったところ、総閲覧回数は数十億回にのぼったそうです。これは以前では考えられなかったことです。

 

 世界放送写真展は毎年観ているが、いつも、この世界にはいかに紛争、抗争が多く、いかにたくさんの人々が苦しみ、悲しんでいるかと暗澹たる気持ちになる。
 同時に、そうした現実を伝えようと奮闘する多くのジャーナリスト、フォトグラファーがいることに励まされる。

 個人的には、自分もよく知っているマニラのパッシグ川の写真(環境の部の第3位)に惹きつけられた。マリオ・クルス氏(ポルトガル)の撮影。

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 パッシグ川は世界ワースト10に入る汚染された川で、水面に浮かぶゴミの上を歩けるほど。そのゴミの中でマットレスに横たわる子どもがいる。天国なのか地獄なのか、シュールささえも漂っている。

 写真展は8月4日(日)まで開催中。関心のある方はどうぞ。