ジャーナリスト保護活動の意義

 東大和公園が気に入って、最近よく自転車で行く。巨大な森からなるとてもワイルドな公園で、いつもほとんど人を見かけない。ただ、丘陵地なので自転車をこぐのが一苦労だが、木々に囲まれた昼食は別世界だ。

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サンドイッチで昼食。紅葉はこれからだ

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 衆院選のテレビの取り上げ方は、自民党総裁選より控えめだという。

 NHKと在京民放キー局5社の、総裁選告示。衆院選公示の日とその前後2日づつ(土日を除く)の5日間を比べると、総裁選は29時間55分だったのに対し、衆院選は25時間52分で、たしかに短い。とくに情報番組やワイドショーでは、総裁選が14時間31分に対して衆院選が8時間25分と大きな差が出た。

 ある民放のプロデューサーは、「世の中の問題を提示したくても、政権批判のように捉えられてしあう。手足を縛られている感じがあり、やりづらい」といったそうだ。(朝日新聞30日)
 「みなさん、投票しましょう」と言っておいて、選挙への問題意識を育まないなら、掛け声だけに終わってしまう。

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 2人のジャーナリスト、ドミトリー・ムラトフ氏とマリア・レッサ氏のノーベル平和賞受賞は、ジャーナリストがいかに脅威にさらされているかを世に知らせ、報道の自由の重要性に気づかせてくれた。受賞発表以来、メディアでも各地のジャーナリズム事情などを伝えるようになっている。

 去年、取材などで命を落とした報道関係者は54人にのぼる(「国境なき記者団」による)という。先日、興味深く観たのがNHK「国際報道」の特集で、欧州で命の危険に晒されたジャーナリストを守ろうという取り組みを紹介していた。
 
 マルタ共和国は観光で知られた、地中海にある人口40万人の小国だ。そのマルタで10月16日、あるジャーナリストの追悼集会があり、1000人もの人が集まった。4年前、2017年のこの日、政権がらみの汚職事件を取材していたジャーナリスト、ダフネ・カルアナガリチアさんが殺害される事件が起きた。

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4周忌で1000人もの市民が追悼集会に集まった

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自動車が爆破され殺された

 事件の前、実行犯の一人が当時の閣僚に会っていたことが分かり、政権が関与した疑惑が出てきて、去年ムスカット首相は辞任においこまれた。だが、真相は未だ明らかになっていない。

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首相は辞任に追い込まれたが、真相は不明だ

 マニュエル・デリアさんは、カルアナガリチアの遺志を継ぎ、マルタで取材をしてきたが、執拗な嫌がらせを受け、ドイツに逃れてきた。

 ドイツで彼を保護したのが、NPO「報道機関とメディアの自由のためのヨーロッパセンター」(ECPMF Europian Center for Press & Media Freedam)だ。

www.ecpmf.eu

 

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 この組織は2015年、EUから資金提供を受け、ドイツで設立。ジャーナリストに住居と取材拠点を無料提供し、これまでに30人以上を保護してきた。

 EUといえば、人権がよく守られてジャーナリストへの危険などなさそうだが、今年の7月にはオランダのアムステルダムで、事件取材をしてきた記者が殺害される事件が起きている。東欧圏では記者への迫害がよくみられるという。
 このNPOは、EU圏内だけでなくベラルーシ、トルコなどからもジャーナリストを受け入れてきた。

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さすが欧州、保護の仕方が手厚い

 また、ジャーナリストの身柄を保護するだけでなく、さまざまな教育なども提供しており、この20年間で対面式の取材からデジタル世界への移行があったことに対応して、オンラインで情報漏洩を防ぎながら取材先と自身の安全を守る知識なども提供しているという。至れり尽くせりだ。こんな活動をするNPOがあるなんて、すばらしい。

 民主主義のためにジャーナリストを守ることが必要である理由について、国連人権高等弁務官事務所のアナ・カトゥル氏はこう語る。

 「ジャーナリストを殺害したり、脅迫したりすることで、市民が議論する場をおのずと減らし、当局がやっていることに疑問を抱かないようにしている」と。

 日本にもこんなNPOがあればいいのに。香港やミャンマー、フィリピンなどで迫害を受けるジャーナリストを一時的に保護して活動拠点を保証することは民主化への大きな貢献になるだろう。