日本のIWC脱退によせて

  12月26日、日本政府は国際捕鯨委員会IWC)を脱退する旨、国際捕鯨取締条約の寄託国である米国に伝えた。2019年6月30日をもって脱退が確定する。これについては、各方面から賛否の意見が出ているが、捕鯨に関する問題作、映画「おクジラさま」の監督、佐々木芽生さんが、日本政府のIWC(国際捕鯨委員会)脱退についてコメントしているので紹介したい。
https://www.facebook.com/megumisasakinyc/posts/10160963798500467IWC脱退は正しかったのか?「おクジラさま」監督に聞く)
 「私が初めてIWC総会を取材したのは、2002年の下関です。日本のテレビ番組用の取材でしたが、「こんなにひどい国際会議があるのか」と当時びっくりしました。(略)その後は、「おクジラさま」の製作のために、2010年のモロッコ、2014年のスロベニアでの総会を取材しました。」と佐々木さん。
 実は、02年の取材はジン・ネットの番組で佐々木さんをコーディネーターとして依頼したときで、この番組取材は、佐々木さんが捕鯨への関心をもったきっかけとなった。
 その佐々木さんのIWC脱退への見解は・・
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鈴木款(フジテレビ解説委員):
2002年から12年間の間に、IWCはどんなふうに変わりましたか?

佐々木:
加盟国数がどんどん増えてきて、確か2002年の時には50か国以下だったんですけど、去年のブラジルの時には89か国が加盟しました。ただ、89か国のうち、捕鯨に関係する国はわずか7か国。商業捕鯨を行っているノルウェーアイスランド、調査捕鯨の日本、先住民生存捕鯨として、イヌイットを抱えるアメリカ、ロシアとデンマーク、あとセントヴィンセント・グレナーディンというカリブ海の小さな国。加盟国の中にはモンゴルなど海に面していない国や、捕鯨に全く関係ないアフリカ諸国が入っています。捕鯨反対派と賛成派が、それぞれ票を獲得するためにリクルート合戦を続けてきた結果です。

鈴木:
船頭が多くなれば、まとまるものもまとまらなくなりますよね。

佐々木:
鯨を捕りたい国と保護したい国が、まったく正反対のゴールをもって集まるわけなので、合意になんか到達できるわけがないです。かつて国連で小型武器拡散防止の国際会議を取材した際は、参加国全員が合意に達するように、合意文の細かい言い回しを徹夜で詰めてました。IWCの人たちはそういったことが一切ありません。ただわーと来て、お互いに言いたいことを言って、さようならと。それが繰り返されているんです。総会に反捕鯨国から来る代表は、環境関係の政府機関や団体です。一方日本やノルウェーは、水産関係の代表者が来るわけです。話がかみ合うわけないです。茶番ですよ、本当に

鈴木:
そういうIWCから脱退する日本の決断について、佐々木監督はイエス(賛成)、ノー(反対)でいうとどちらですか?

佐々木:
間違いなくイエスですね。私はIWCという組織の存続の意義を問わないとダメだと思いますよ。日本国内ではIWC脱退を問題視して批判していますよね。でもまず世界が問題としているのは、IWC脱退ではなく、商業捕鯨の再開です。

鈴木:
日本人はIWCがどういった組織なのかよく知りませんし、今回の脱退表明の報道を受けて、世界大戦の時の国際連盟脱退とイメージを重ねる向きもあります。

佐々木:
そういうのとは全然違いますよ。アイスランドのようにIWCを一回脱退して戻ってきている国もあるわけで、一度脱退したら取り返しがつかないわけじゃありません。IWCに加盟していなくても捕鯨をしているカナダやインドネシアもあります。だからIWCに加盟すればいいというものではありません。

そもそも終戦直後に国際捕鯨取締条約(※IWCはこの条約を基に設立)ができたのは、各国が捕鯨を行っていて、「このまま鯨資源が枯渇しないよう、捕り続けられるようにしましょうね」ということからでした。しかし加盟国がどんどん鯨を捕らないほうに変わっていったので、本来のIWCの目的から外れていったのですね。ですから今こそIWCそのものの存在意義を問うべきだと思うんです。
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 私もIWCの動向をフォローしてきたので、佐々木さんの意見に賛成だ。

 ただ、脱退にあたって国会をまったく無視していることについては大きな問題があると思う。友人の水島朝穂早大法学学術院)教授が指摘しているとおりだ。
《国会に説明なく、憲法軽視 IWC脱退 早大水島朝穂教授》東京新聞12月27日)
 「国際機関への加盟の根拠となる条約の締結について、憲法七三条は、事前もしくは事後の国会承認が必要としている。その趣旨からすれば、条約や国際機関からの脱退も国政の重大な変更であり、国会での議論抜きにはあり得ない。
 だが、安倍政権はIWCからの脱退について、野党や国民にきちんとした説明をしないまま、臨時国会閉会後に決めてしまった。
 国際機関からの脱退を内閣が勝手に行い、国会にも説明せず、記者会見もすぐに開かない。この「聞く耳を持たない」姿勢は一貫しており、安倍政権の「国会無視」「憲法軽視」の姿勢の到達点ともいえる。」東京新聞http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201812/CK2018122702000147.html

 佐々木さんも、日本政府が説明責任を果たさず、国際社会に説得力ある発信をしていないことを厳しく批判している。
 国内ですらきちんと議論してこなかった。外に向けての説明不足ははなはだしいものがある。議論無用の安倍政権のもとで、この問題にかぎらず、まともに国際的な態度表明ができるのか心配になる。