先日、こんな記事が新聞に載った。
《フランス上院は25日、国際結婚で生まれた子の親権争いの解決ルールを定めた「ハーグ条約」への早期加盟を日本に求める決議を賛成多数で可決した。同条約は、国際結婚で生まれた子の親権争いが起きた場合、子を元の居住国に戻すルールを定めたもの。
日仏間では、仏人男性と離婚した日本人の母親が子を引き取って日本へ帰国し、父親の面会権が事実上剥奪(はくだつ)されるケースが70〜100例もあるとされ、問題化している。世界82か国が署名し、主要国では日本とロシアが加盟していないため、日本政府は同条約への加盟について検討している。(2011年1月26日 読売新聞)》
どこも小さい扱いだが、実は、アメリカ下院も昨年9月に日本人による子どもの連れ去り「拉致」という言葉で非難して、同じような決議を採択(416対1)しており、米政府要人もことあるごとに日本に強く加盟を迫っている。
アメリカの超党派上院議員22人がオバマ大統領に出した共同書簡によれば、《米国から日本に子供が連れて行かれた事例が判明しているだけで79件あり、米国籍の子供100人以上が巻き込まれている》という。
国際結婚し夫の国で暮らしていた日本人女性が、夫の同意なしに子どもを連れて日本に戻った場合には「拉致」「誘拐」とみなされる。北朝鮮による拉致問題を国際的にアピールする日本が、別の拉致問題で非難されるという皮肉なことになっているのだ。
実は、数年前、私も直接にこうしたケースに関与したことがあった。
中東の某国で取材していた私は、現地に住む日本人女性Aさんとたまたま知り合った。
二人の幼い子どもがいるが、夫の暴力に耐えかね離婚したいと言う。だが、夫は離婚に応じない。子どもとは絶対に別れたくない。どうすればいいのかと相談されたのだ。
現地の人には秘密にしたいし、日本人社会は狭く内密な話でもすぐに漏れてしまうので話相手がいないという。そこで私が相談役を引き受けることになった。
「女性でしかも外国人のあなたが、イスラム法の色彩の強いこの国で離婚裁判をしたら、圧倒的に不利になり、子どもを連れて日本に戻ることはできないでしょう。こっそり子どもを連れて帰ったらどうですか」。これが私のアドバイスだった。
これに加えて「日本はまだハーグ条約に入っていませんから」とも言った。
問題の背景には、子どもの親権の考え方の変化がある。この条約は1980年署名、83年発効だが、このころから先進国では共同親権へと変わっていく。
映画『クレイマー、クレイマー』では、子どもの親権・養育権を夫婦が激しく争うが、映画の公開は1979年。あれがアメリカの単独親権時代の光景なのだが、その後、アメリカは夫婦ともに親権・養育権を持つ、共同親権の制度になる。
(つづく)