大晦日最後の週は、資金繰りと年賀状印刷など年越しの用事。
今年の年末は、倒産寸前になったとき以降、もっとも厳しい資金状況。月末にすべき支払いのうちかなりの金額の繰り延べをお願いし、たくさんの人に迷惑をかけてしまった。申し訳ない。そういえば、倒産の危機をなんとかのりきった4年前の今ごろ、『あきらめるのは早すぎる』という経営者のための本を出したなあ。
http://d.hatena.ne.jp/takase22/20121201
転んでもただじゃ起きないね、などとからかわれたが、自分が窮地に陥った経験から「カネなんかで死んじゃだめだ」と心から思い、資金繰りに追い詰められた私のような零細企業のおやじが首をくくらないようにと、このときも徹夜つづきで書きあげた。それ以降、ずいぶん精神的にはタフになった。というか、大事なものとそうでないものの区別がつくようになった。あのとき危機を体験してほんとうによかった。
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夕方、渋谷の編集スタジオにものを届けに行く。
いま、お正月用の特番をスタッフが連日半徹夜状態で準備中なのだ。1月2日午後9時から「グレートヒマラヤ 体感! ヒマラヤ造山帯〜世界最深カリガンダキ渓谷〜」が放送されます。世界の屋根・ヒマラヤを南北に切り裂く“カリガンダキ川”をたどり、標高8000mヒマラヤ造山の謎に迫る秘境紀行。どうぞ、ご覧ください。
http://www.nhk.or.jp/docudocu/program/91878/1878255/index.html
その帰り。渋谷の交差点は、年の瀬のものすごい人ごみだったが、角々に「悔い改めなさい」などとスピーカーで流しながら布教のプラカードを持つ人たちが・・・シュールな感じに立ちどまる。
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映画監督の佐々木芽生(めぐみ)さんからメルマガが届いた。
制作開始から7年かけて「ふたつのクジラの物語」(英題「A Whale of A Tale」)という映画が10月に完成し、韓国の釜山国際映画祭に正式招待され世界プレミアを迎えることができたという。
映画の舞台になった和歌山県太地町からは、三軒町長はじめ役場や漁業協同組合の代表者の皆さんも釜山まで駆けつけ、上映後の質疑応答は大いに盛り上がったそうだ。
「犬を食べる食文化があり、やはり海外からの非難に晒されている韓国の観客からは、太地町に同情する声が多く聞かれました 。また、これまで海外のメディアのインタビューに一切応じなかった太地町が、初めて沈黙を破り、AFP通信やJapan Timesの取材に応じました。発表された記事は、国内外で大きな反響を呼びました。」(写真は、外国プレスの取材に応じる佐々木さんと太地町の町長)
http://www.flmj.co.jp/megmaga/161228/
太地町の関係者は、これまで散々海外のメディアで叩かれてきたこともあって、「外国人にいくらしゃべっても悪く報道されるだけだ」と取材に応じないでいた。しかし、発信しないとますます「悪者」にされる。佐々木さんは国際捕鯨委員会(IWC)総会を取材に行ったとき、日本代表団がブリーフィングを日本のメディアだけに行ない、外国のプレスを排除したのを目撃していた。そればかりか、フリーランスの佐々木さんまで「出ていってくれ」とブリーフィングの会場から追い出そうとしたという。内弁慶では国際的に通用しない。今回、映画祭をきっかけに太地町の言い分が発信されたことはとてもよかった。
私は夏に佐々木さんと会ったときに映画の内容を聞いているが、太地町のイルカ追い込み漁を残酷だと世界に向けて糾弾した映画「ザ・コーヴ」に対置される映画になると思う。海外の人に対して説得力のある取材方法(ここでは書かないが)を採用していて感心させられた。また、日本の捕鯨を一方的に弁護するのではなく、いろんな立場や見方があることを提示する形をとっていることで、海外の多くの人に抵抗なく受け容れられそうだ。
佐々木さんは、10年前ちょっと前、私たちのクジラ番組のコーディネーターをお願いしたことがきっかけで捕鯨に関心をもち、映画まで作ってしまった。映画制作のはじめのころは、私たちもお手伝いし、うちのスタッフが撮った映像が映画の重要なシーンになっている。ご縁がこうして実を結んだことはとてもうれしい。
佐々木さんは、この映画を「分断する世界に向けて発信する」ものとして捉えている。この位置づけがおもしろかったので紹介したい。
「私たちが住む世界は、7年前とは大きく変わりつつあります。映画完成直後の11月、アメリカの大統領選挙では、大方の予想に反してトランプ氏が次期大統領に当選。その半年前には、イギリスが国民投票でEU離脱を選択しました。このふたつは、分断する今の世界を象徴する出来事でした。それは、グローバル vs ローカル、都市 vs 地方という価値観の対立でもあります。そして「ふたつのクジラの物語」は、まさにこの対立する価値観を描いたものです。イルカやクジラを殺さずに保護したいという考え、日本では「反捕鯨」とカテゴライズされる考えは、今のグローバルな価値観を反映しています。一方捕鯨を続けたいという思いは、長く続いた日本固有の伝統や産業を守って行きたいというローカルな価値観に基づいていています。映画では、どちらが正義か悪かを判断することなく、和歌山県太地町を舞台に、このふたつの対立する世界観を描きました。」
世界が、グローバル vs ローカル、都市 vs 地方というすっきりした二項対立だとは私は思わないが、自分の作品をどのように今の世に問うていくかという問題意識をしっかり持っていることはすばらしいと思う。日本での上映を楽しみにしています。