「男らしさ」と犯罪

 森は友海は父母なり初夏の風  (新宮市 中西 洋)
 新緑や神のパレットゆ滴るか  (前橋市 木部敬一)
 朝日俳壇より。初夏の自然との楽しいふれあい。ともに大きなスケールの句で気持ちがいい。1句目は、命の源がみなつながっていることを感じさせる。2句目、「ゆ」は「から」の意で、緑の美しさが恩寵のように思われるのをうまく表現していると思う。
 でも歳のせいか、「老」につながる俳句にうなずくことが多い。
 見るだけの山となりけり登山帽  (横須賀市 佐藤博一)
 歌壇では、
 座る椅子ひとつになれど母はまだ四つの椅子を並べて暮らす (丸亀市 金倉かおる)
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 元農水事務次官の熊澤英昭氏(76)が息子を殺した事件。息子の英一郎氏(44)は引きこもりで両親への暴力行為もあり、英昭氏は、引きこもりだった岩崎隆一容疑者(51)が起こした川崎20人殺傷事件が「頭をよぎって」殺害したと報じられている。殺人事件としては、英一郎氏はあくまで被害者で、英昭氏は殺人者だということは分かっているが、どちらも大きな苦しみの中にあったと想像する。逮捕された英昭氏のすべてを観念したような表情をみて余計に痛ましさがつのった。

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 中高年引きこもりが注目され、引きこもりを支援する行政の窓口やNPOには相談が殺到しているという。引きこもりを危険視する傾向に対し、女優の東ちづるツイッターで警告した。

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 東ちづるは好きな女優でフォローしているがこれは正論である。
 
 引きこもりは英字新聞でも”hikikomori”と記され、extreme recluseと訳されている。Recluse は「隠遁者」「世捨て人」の意味で、それに「極端な」という意味の形容詞extremeがつく。日本で問題になる背景に社会の同調圧力を指摘する記事もある。
 《他の国々でも引きこもりは見られるが、一番はっきり表れているのは日本で、それは、みんな同じということを強調する文化が、適応できない人を引きこもりに追いやってしまうからだと専門家はいう》(NY Times June 6)
 While there are extreme recluses in other countries, experts say the condition may be most pronounced in Japan, where a culture that emphasizes conformity prompts those who do not fit in to hide away.
https://www.nytimes.com/2019/06/06/world/asia/japan-hikikomori-recluses.html
 日本社会の病理が個々人を傷つけた結果が引きこもりであって、本人や家族が「責任」を問われるものではないと思う。

 また、川崎事件の後とあって、メディアでは18年前の6月8日に起きた池田小事件を振り返る企画も見られた。(11年前の同じ6月8日には秋葉原通り魔事件も起きている)
 池田小事件の犯人、宅間守が精神病院に入院歴があったことから精神障害者が犯罪を犯しやすいとの偏見が広がり、精神障害者と家族を苦しめた。これについて作家の森田ゆり氏が、精神障害者の犯罪率は低く、犯罪率が高い属性は「男性」だと論じている。

 《精神障害者が犯罪を起こす率は低いのです。検挙された一般刑法犯に占める精神障害者の比率は1・5%です。収入や学歴が低いと犯罪を起こしやすいかと言えば、そんなことはありません。外国人の犯罪率が高いというのも誤解です。犯罪者プロファイルを特定することは統計的にも困難なのです。
 犯罪者のプロファイルの唯一の特徴的なことは、それが男性だということです。犯罪者は男性が圧倒的に多いことを、人は半ば当然のことのように知っています。新聞やテレビで報道される殺人、強盗、詐欺、窃盗の多くの容疑者は男性です。統計を見ると、その事実はいっそう明らかになります。刑法犯検挙人員の女性の割合は、1975(昭和50)年以降は、ずっと全体の2割前後となっています。》 
「池田小事件・宅間守の女性蔑視と大量殺人を生んだ「男らしさ」の呪縛」
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/65074


 問われるべきは、今の社会のジェンダー規範だという主張には虚を突かれた。自分たちの中にある意識せざる価値観や規範、それを形成した社会に意識を向けるとき、犯罪というものが違った形に見えてくる。