JR四ツ谷駅の線路脇は、菜の花とムラサキハナナが咲いて明るく見える。
暖かくなってきているのだが、おとといは変な気候で釧路では夏日になり26.5度を記録したという。沖縄より北海道が暑かったのだ。北海道の桜もこれでだいぶ開いただろう。
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16日(火)、新宿花園神社に、水族館劇場のテント芝居「Nachleben揺れる大地」(Nachlebenは「あの世」という意味)の千秋楽を観に行った。2年前に写真家の鬼海弘雄さんの勧めで観てすっかり魅了され、追っかけになった。
舞台は満州国と現在の東京。80年の時間差を行ったり来たりしながら劇は展開する。
「東洋のマタハリ」と呼ばれた清朝の王女だった川島芳子、李香蘭の幼なじみのジプシー女、満州事変の発端となった「柳条湖事件」に関与した兵士らが登場し、事件の首謀者、石原莞爾の「世界最終戦争」が叫ばれる一方、満蒙開拓団で長野県から渡ってきた貧農、アヘン窟に身を落とした同じ故郷の女、そして現地のみじめな苦力(クーリー)たちが底辺にうごめく。
一転して現在の東京。満州国にノスタルジーをもつ人物が、ヤマトホテルを再建しようとしている。ヤマトホテルとは、満鉄が沿線主要都市に持っていた高級ホテル。(私はハルビンのヤマトホテルに行ったことがある。)東京のホテル建設現場で働いているのは、中国からきた「研修生」だ。食い詰めて満州に渡った80年前の長野の農民とダブってくる。近代への「否」が劇の底を流れている。
現代史のお勉強のようなシリアスな劇かと思うかもしれないが、観客を驚かせる楽しい仕掛けが満載だ。水族館劇場のウリは大量の水を落下、放出する演出で、最前列と2列目のお客さんにはビニールの水よけが配られる。舞台は吹きさらしなので、風にあおられて水しぶきが私のいた5列目あたりまで飛んできた。
ドタバタありとぼけた笑いあり、セリフを忘れてアドリブありと、かつてのアングラ劇の匂いのする舞台を大いに楽しんだ。今回は頭脳警察のPANTAが音楽を担当し、主題歌をつくった。
劇場のリーダー、桃山邑(ゆう)さんはいう。「どのように煮詰められた熱い魂も、それだけでは無限に多様化してしまった現代世界では、誰にもどこにも届かない。強烈なメッセージはクールなユーモアにつつまれてこそ、遅効性の毒を発揮できる」。
桃山さんは、今回で花園神社は終わりにして、見知らぬ土地を流浪していきたいと言っていた。桃山さんは「散楽藝能者」の末裔を自称する。東京で観られなくなるのはさびしいが、還暦過ぎで、旅芸人の原点に戻るという決断ができるのはすばらしい。うらやましくもある。どんな藝能者になっていくのか、期待したい。
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火曜から、土門拳賞を受賞した高橋智史さんの写真展を新宿のニコンサロンでやっているので、ご興味があればぜひどうぞ。