カンボジアを撮り続ける高橋智史さんが土門拳賞に!

 いつも資金繰りで憂鬱になる月末の金曜日。昼食をと神保町を歩いていたら、山形ラーメン「ととこ」の隣の洋食屋で「米沢ブランド豚のソテー」の定食820円という看板が目に入った。この辺、山形づいているな。で、この店に入る。昔ながらの洋食屋で、大皿にキャベツの千切り、クリームコロッケ、ポークの下にはスパゲティが敷いてある。これにご飯と豚汁がつく。一つ一つが丁寧に作ってあってみなうまい。

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明大通り明治大学から下ってきたところにある「カロリー」

 神田駿河台下の交差点から明大の方にちょっと上がる。創業は1950年だというから70年前! 店の名前が「カロリー」。時代を感じさせる。戦後まだ5年、とにかくカロリーが高いことが大事だったのだろう。この辺は学生街だから、当時の若者たちがここで食欲を満たしていたさまを想像した。

 オフィスを移転してきて10年にもなるのに、神保町はまだ不案内だ。ちょっと出歩くといつも知らない歴史を発見する。

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    山形県出身の写真家に土門拳がいる。「土門拳賞」は写真界でも権威ある賞だが、今回選ばれたのは、カンボジアを撮り続けている高橋智史(さとし)さん。

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プノンペンに自宅があり、庶民とともに暮らしながら取材を続けている

 《毎日新聞社主催の第38回土門拳賞(協賛・ニコンニコンイメージングジャパン、東京工芸大学)選考会は、2月21日に東京都千代田区一ツ橋の毎日新聞東京本社で開かれ、高橋智史氏(37)に決定した。受賞対象となったのは写真集「RESISTANCE カンボジア 屈せざる人々の願い」(秋田魁新報社)。

 高橋氏の「RESISTANCE カンボジア 屈せざる人々の願い」は、カンボジアの強権政治に屈することなく闘い続ける人々に迫ったドキュメンタリー。監視される日常生活、抗議の現場、デモ行進の最前線で、自身の安全も顧みず、声をあげ、祈り、仲間と助け合う市民の姿を追った。写真は全世界に発信され、知られざるカンボジアの現況と、圧政に負けず闘う人々の姿を伝えた。》(毎日新聞3月19日)

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写真集「RESISTANCE」。秋田魁新報社

 高橋智史さんには、去年彼が15年も前からカンボジアを撮り続けていることを知って注目し始めたところだった。彼は日本のフォトジャーナリストとしてはユニークな存在である。

 ベトナム戦争の時代、多くの日本人がインドシナの地に何年も住みながら取材活動を行った。しかし今、海外のある場所に拠点を置く日本人ジャーナリストは少ない。

 しかも、高橋さんの写真は日本ではなく、主に海外、特に欧米諸国に発信されている。海外メディアで活躍する、数少ない「国際派」なのだ。

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武装警察が住民を強制排除する。いまカンボジアでは専制的な政権を後ろ盾に強引な「開発」が進み、各地で土地取り上げが問題になっている。ている。

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家と土地を返してと懇願する子どもたち

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一方で、高橋さんの写真集には、屈しない人々、特に女性の姿が映し出されていて印象的だった

 被写体は、カンボジア専制的な権力に抑圧される民衆で、この種の取材は権力の既得権に触れるので非常に危険だ。フンセン政権を批判した著名な政治評論家が首都のカフェで銃撃され殺される事件も起きている。弾がどこから飛んでくるか分からないという点では、戦場より危ない場合もあるだろう。

     地元の有力なメディアは潰されるか、政権に取り込まれてしまった。外国人ジャーナリストにも圧力がかけられ、次々にカンボジアを去っているという。そんななか、高橋さんはよくやってきたなと感心する。

 今回の高橋さんの受賞が、報道写真を志す若者に、日本以外でテーマを追求するこんな道もあるんだよと可能性を示すことになればいいと思う。

 今週26日から故郷、秋田で写真展があり、高橋さんはいま里帰りしている。写真展は以前から予定されていたものだが、たまたま土門拳賞受賞発表直後にあたり、昔風にいうと故郷に錦を飾った形。

 会ってお話しすると、高橋さんはとてもまっすぐで「いいやつ」だった。その人柄もカンボジアの人々の信頼を得ることにつながっているのだろう。

参考記事

https://gardenjournalism.com/feature/20171119/