『全体主義の起源』に学ぼう


 公園のそばを通りかかったら、ミンミンゼミが低いところにとまっていた。近づいても逃げない。もう退場の時期で、疲れているのか。ごくろうさん。
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 北朝鮮の6回目の核実験を受けて、12日午前7時すぎ、国連の安全保障理事会は新たな制裁決議を全会一致で採択した。新たな決議では、北朝鮮への原油、石油製品の上限を決めたほか、主要輸出品の繊維製品の輸入禁止北朝鮮の出稼ぎ労働者に各国が新規に就労許可を与えることを禁じることが盛り込まれ、制裁の対象が広げられた。
 これまでも制裁が採択されるたびに、「過去最も厳しい制裁」と言われてきたが、今回のものが、これまでより一段と厳しくなっているのは確かだ。
 デイリーNKによれば、平壌におけるガソリン価格が急激に上がっているという。以下は1キロ(1.34リットル)の価格の推移。
◇当局が販売制限を始めた4月19日まで、1キロ8350北朝鮮ウォン(約109円)
◇8月4週=1万2800北朝鮮ウォン(約166円)
◇9月初め=1万8000北朝鮮ウォン(約234円)
◇9月7日=2万3000北朝鮮ウォン(約299円)
 この5ヶ月で3倍近くも高騰した。制裁を見越した動きとみられ、すでに、経済活動に困難が生じ始めていると言ってよいだろう。

 先日、北朝鮮イカ釣り船団が大挙して日本の大和堆(やまとたい)周辺の日本の排他的経済水域EEZ)に押し寄せて日本の漁船が駆逐されている事態を紹介した。http://d.hatena.ne.jp/takase22/20170722
 この背景にあるのは、中国の漁船が、北朝鮮から日本海での漁業権を買い取ったことだった。1隻当たり200万円で、300隻の船が3か月間、北朝鮮の沖合で漁を行うことができると書かれています。200万円×300隻で計6億円になる。
 そこで日本海EEZを持たない中国の漁船が進出すると同時に、中国船に押し出されるようにして、これまで近海で漁をしていた小さな北朝鮮の漁船が400〜500隻どっと押し寄せたというのだ。(これに加えて、韓国が北朝鮮の密漁船に武器を使用するようになったという要因もあるという。)
 これも北朝鮮の経済的な厳しさを示す現象だ。。
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 一方、北朝鮮当局はというと・・北朝鮮のアジア太平洋平和委員会は13日、国連安全保障理事会の新たな制裁決議に反発する報道官声明を発表した。
 《声明は「米国の地を焦土化しよう。報復手段を総動員して我々の恨みを晴らそう」と主張した。日本には「日本列島上空を飛び越えたわれわれの大陸間弾道ミサイルICBM)を見ても正気を取り戻せない日本に断固たる気概を示さなければならない」と指摘。「日本列島4島を主体(チュチェ)の核爆弾で海に沈めなければならない」と強調した。》朝日新聞
 いつもながら、大仰な脅しだな。

 このブログで何度も書いてきたが、北朝鮮という全体主義体制に対しては、アメとムチによる政策誘導は極めて難しい。
 《譲歩と大きな国際的威信とを用いて全体主義国を正常な国際関係に引き戻すことはあらゆる正当な期待にもかかわらず何としても不可能だったし、われわれは敵の世界に囲まれているというイデオロギーに根差した全体主義国の主張が正しくないことを行為によって証明して見せようとするすべての試みは、徒労に終わった。外交的勝利―だがこの勝利も暴力行為と戦争とを避けるという結果を得ただけなのだが―が得られるごとに、そんな勝利などは有名無実のものにすぎず、全体主義政権は相手の妥協性に対して一層の敵意をもって応ずるということが判明した。》(新版第3巻P158)

 いま北朝鮮に翻弄される世界をそのまま描写したようなこの文章は、ハンナ・アーレント全体主義の起源』から引用した。
 今年1月、この本はアメリカでベストセラーになったという。トランプ大統領登場の影響だろうが、北朝鮮への対応が喫緊の課題になっているいま、再度注目されていいだろう。
(つづく)