寿町で芝居を堪能した夜


 ヤブランが紫の花をつけている。
 雨のせいもあって、ぐっと涼しくなった。
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 きょう、小野寺五典防衛相は、北朝鮮が3日に行なった6回目の核実験の爆発規模の推定を160キロトン(TNT火薬換算)とし、当初は70キロトン、きのう120キロトンとした数字を修正した。15キロトンとされる広島型原爆の10倍超だ。「水爆実験であった可能性も否定できない」と小野寺防衛相。水爆と見ていいだろう。
 打つ手がないまま事態がどんどん進んでいく、いやな状況が続く。いらいらしてくる。誰かバシッと何とかしてくれ、と言いたくもなる。
前回書いたが、結局はアメリカが北朝鮮を核保有国として認める方向に行くだろう。

 アメリカからの先制攻撃はないことを前提に、世界の世論はカタストロフィへの恐怖から北朝鮮に対して融和的になっている。「とにかく何が何でも北朝鮮が暴れないように対話をしよう」と。こうなると、北朝鮮を対話に引き出すために、既にかなりの譲歩を強いられる。今持っている以上の核弾頭を製造しない、テロリストに核兵器を売らないことなどを約束させることで、北朝鮮を核保有国として認めてしまうのではないか。
 北朝鮮の危険度をそぐには体制を転換させるしかない。その方法を考えようと、8月に出たハンナ・アーレント全体主義の起源』(みすず書房)の新版を読み始めた。2002年、拉致問題で大揺れのころ旧版を読んで北朝鮮の支配のメカニズムが理解できたように思ったが、読み直して何を学べるだろうか。読了したら報告したい。
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 先週の金曜の1日、横浜市の寿町で「水族館劇場」の野外芝居「もうひとつの この丗のような夢」を観に行く。石川町で降りる。この駅からは中華街にも行けるが、寿町の最寄駅でもある。寿町といえば、山谷、大阪の釜ヶ崎とならぶドヤ街だ。でも、今は寿町の簡易宿泊所にすむ6500人のうち、8割以上が生活保護に頼る福祉の街になっているという。歩行器を使う足元のおぼつかない高齢者と何人もすれちがった。

 めざすは寿労働センター跡地。広い空き地に、鉄パイプで芝居小屋が建っている。ここは8月3日から9月17日まで「海賊たちのるなぱあく」というアートの催しが開かれており、芝居はその一環なのだ。ここにきたのは、尊敬する写真家の鬼海弘雄さんに「寿町でおもしろいことやってるよ」と誘われたから。鬼海さんは劇団とご縁があるそうで、等身大くらいに引き伸ばされた肖像写真40数枚を野外展示した「人間の海」も開催されている。

 夜、暗闇のなか、観客のど真ん中でいきなり芝居が始まった。驚きながら引き込まれていく。鬼海さんの写真も芝居に溶け込んでいる。この「野外プロローグ」につづき、観客はテント小屋の中に導かれて本編を観る。

 とてもよかった。主演の千代治がうまくて見惚れた。役者の熱演もすばらしいが、テントの中に流れる親しみのこもった一体感もいい。「水族館劇場」の名のとおり、大量の水が使われ、前列2列目にいた私は何度も水しぶきを浴びた。昔のアングラ劇の流れを感じさせる芝居の作り。座付き作者の桃山邑は、日雇い労働をしながら1980年に曲馬舘という演劇運動の流れにある劇団に入り、以降、芝居と建設現場での仕事を続けてきた人物だそうだ。
 はじめて観た「水族館劇場」だが、おもしろいこと請け合いで、お勧めです。次の公演は13日(水)から17日(日)まで、夜6半から。