中村医師、朝倉の水害で日本を叱る

takase222017-08-22

 今年の戦争もの特番では、NHKスペシャルの「戦慄の記録 インパール」と「731部隊の真実 エリート医学者と人体実験」の評判が高い。
斎藤博圀さん)
 インパール」の現地取材を担当した新田ディレクターとは、弊社でも仕事をお願いする関係で、放送を楽しみにしていた。これまで外国人立ち入りができなかったミャンマー・インド国境地帯を取材し全工程を初めて記録したという。13577人の戦没者名簿を入手して、データから、戦死者の6割が作戦中止後、撤退中に死亡しており、ほとんどが病死や餓死だったことを明らかにしている。そもそも作戦の目的はあいまいで、戦況が悪化する中、ビルマ方面軍の河辺正三司令官が東条英機首相から景気づけのように「せめてビルマで一旗揚げてくれ」と言われたことがきっかけになった。大本営では作戦実行に消極的な声も多くなっていたが、杉山参謀総長の「あいつにやらせてやれ」という人情論に押し切られた。現地では反対意見を言えば罵倒され、実際に作戦がはじまって壊滅的な犠牲が出ても作戦は続行、牟田口司令官は苦戦の責任を現場の指揮官に負わせ3人の師団長を更迭した。最高統帥機関・大本営は一度始めた作戦の継続に固執し、止めるに止められなくなっていた。番組の最大のスクープは、作戦を立案、指揮した牟田口廉也第15軍司令官の部下だった斎藤博圀(ひろくに)少尉の日記を発掘し、96歳で生存している本人へのインタビューを実現させたことだろう。客観的に見れば誰もが無謀と判断する「陸軍史上最悪」とされる作戦が、「5千人(味方の兵士を)殺せば敵陣を落とせる」などと言う兵士を虫ケラのように見る将校、下士官によって遂行されたことを証言している。「日本の軍隊の上層部は、悔しいけれど、兵隊に対する考えはそんなもんだ」と言ってカメラの前で泣いた。
 ツイッターでは、今も日本の企業に当てはまる、とか、まるで安倍政権そのもの、など現代を彷彿とさせるという投稿がたくさんみられた。私も、人情論で反対意見を押さえたり、いったん決まったことが不合理でもずるずる続くところなど、嫌だけど日本的だなと思いながら観た。
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 注目!!アフガン支援の中村哲医師が、豪雨で大被害が出た朝倉についてコメントしている。

 災害教訓、朝倉から発信を 中村哲氏、用水路モデルの地へエール
 九州豪雨で大きな被害を受けた福岡県朝倉市筑後川にあるかんがい施設「山田堰(ぜき)」をモデルに、アフガニスタンで農業用水路を建設している非政府組織「ペシャワール会」(福岡市)の現地代表中村哲氏が19日、西日本新聞のインタビューに応じた。被災後に朝倉市を訪れた中村氏は「農林業をおろそかにする日本の構造的な問題が災害を引き起こし被害を大きくしている」と指摘、「朝倉には教訓を伝える発信基地としての役割を担ってほしい」と語った。一問一答は次の通り。

―被災地を見た感想は。
 「山田堰が被害を受けていなかったのには心を動かされた。筑後川は本流よりも支流の被害が大きく、本流があふれる今までの水害と全然違うと感じた。あれだけの流木も初めて見た」

―山田堰は川の流れに対し、斜めに石を組むことで水圧を逃がし、水位が変わっても安定した取水が可能とされる。その構造をなぜアフガンに取り入れたのか。
 「江戸時代(1790年)築造の堰が今も使われているのが大きかった。築造に大型の重機も要らず、コストもかからない。補修も簡単。増水時は水の勢いを抑制し、渇水時にも水が取水口に向かう。人の欲望と安全は反比例するが『水は欲しい。でも洪水は起きてほしくない』を両立させた貴重な遺産。今回、洪水に強いことも実証された」

―日本では集中豪雨など異常気象が続いている。
 「九州豪雨でショックだったのは、災害の起き方がアフガンとよく似てきていること。ゲリラ豪雨により局地的に水害が起こるが、隣の村は全く被害はなく土地の乾燥に苦しむ。二十数年前から危ぶんでいた」

―原因は何だと思うか。
 地球温暖化だ。しかし温暖化を止めることは経済活動を落とし、生活を危うくするため多くの人は意識しないようにしてきた。山林も伐採しないと根を張らないのに怠ってきた。敗戦直後、希望を持って植林した木が恵みどころか流木という凶器となった。伐採して売ろうにも外国産に負ける。日本の構造的な問題が災害を引き起こしている」

―必要な対応は。
 「日本は豊かになったようで貧しくなった。豊かさとは何か見直すこと。目先の利益を追い掛けることをやめない限り、被害は続いていくだろう」

―被災地にひと言。
 「先人の知恵を生かし、厳しい自然と共生してきた朝倉はきっと災害を乗り越えられる。被災地には今、山林、農業人口減少、地球環境など多くの問題が集中する。日本全体の将来に関わる問題ばかりだ。朝倉などの被災地は、これらの問題、教訓を警告する発信基地となる使命を得た。その言葉は力を持つだろう」

=2017/08/20付 西日本新聞朝刊=
https://www.nishinippon.co.jp/nnp/national/article/352070/