紛争地の取材は八百屋が野菜を売るのと同じ


 真っ赤な葉っぱはドウダンツツジ
 今年は赤が一段と鮮やかだ。
・・・・・・・・・・・
 日曜のNスペ「自閉症の君が教えてくれたこと」、観ましたか。
 東田直樹さんは重い自閉症で話すことはできないが、お母さんの指導もあって文字盤のアルファベット・キーを押して文章を作り外部に発信することができる。
 日本で英語教師をしていた英国の作家、デイヴィッド・ミッチェル氏は、彼の本『自閉症の僕が跳びはねる理由』と出会って感動する。10歳の自閉症の息子がいて、どう接すればよいかわからず絶望していたミッチェル氏にとって、息子がなぜ頭を床に打ち付けたりするのかがはじめて理解できたのだ。彼が英語に翻訳して以降、この本は30か国に翻訳され、自閉症の人の内面を初めてリアルに表現したと世界に衝撃を与えた。
 東田直樹さんを知る前、身近に自閉症の人がいなかった私も、電車の中などで奇妙な振る舞いをする人たちが、私たちと同じようなことを考えているとは思っていなかった。この番組で初めて東田さんを観た人は、自閉症についてのこれまでのイメージがひっくり返ったのではないか。ピョンピョン飛び跳ねたり、奇声を発したりする彼が、がんになったTVディレクターにこれからの生き方をアドバイスしたりするのである。
 最も印象に残ったシーン。ミッチェル氏が、10歳になる自閉症の息子に友だちを作ってほしいがどうしたらいいかと聞かれた東田さん。文字盤を押しながら、こう答えた。
 「僕には友だちがいない」
 「僕のことは不幸に見えますか」
 「友だちがいないとかわいそうで気の毒だと思っている人たちの勘違いです」

 そこでミッチェル氏ははっとする。息子に友だちがいないのは息子の問題ではなく、友だちがいないのはかわいそうだと気に病んでいる自分の問題だと気がつくのだ。
 どきりとした。私はどうなんだろう。家族や周りの人たちの問題だと思っていることは、自分の問題だったのではないか。障害とは何か、ではなく、人間とは何かを考えさせられる。
・・・・・・・・・・・・
 発売中の『月刊文藝春秋』に、常岡浩介さんの「独占手記 イスラム国最前線で拘束された」が掲載されています。今回、拘束されたこともあり、せっかくの取材があまりテレビで紹介できなかったので、雑誌で取材経緯と内容をしっかり報告することを勧めたのだった。最後に拘束事件とからめて彼の取材論も披露されている。
 「今回、私が拘束されたことで、多くの人に迷惑をかけたことは弁解の余地もない。だが、私は今後も紛争地域の取材を続けるつもりだ。
 イラクやシリアには、日本にいては決して知りえない、我々の想像を遥かに超えた残酷な世界が、現在進行形で広がっている。その世界を自分の目で捉え、人々に届けることは、ジャーナリストにとっては、八百屋が野菜を売ることや、タクシーの運転手がお客さんを目的地まで送り届けることのように、当たり前のことだと、私は思っているからだ。」

 高邁な使命を説くジャーナリストもいるが、こういう肩に力が入っていない人の方が、息が切れないのかもしれないと、面白く読んだ。