タイで生徒たちの真面目さに感動した

 おとといまでタイにいた。
 タイは、80年代から断続的に7年間滞在していた第二の故郷だ。到着すると間もなく観光地の爆破テロが11カ所で連続的に勃発したが、おかげさまで私たちは何事もなく、懐かしさにひたって素晴らしい日々を過ごした。
 今回は、タイの東北地方、ウボンラチャタニというラオスカンボジア国境の町を訪れた。そこの学校で、うちの下の娘が日本語教科の補助教師のようなことをやっているので、その様子を見に行ったのだ。

 ウボンは30年前に来たことがあるが、今回町を歩くと風景が一変していた。タイのここ20年の経済成長は、田舎をすさまじい勢いで変化させている。それを実感した。Bic C(ビッグシー)というタイの巨大スーパーは、日本では見たことのない広大な売り場で、向こう側の端がやっと見えるほど。縦も横も100メートル競走できるだろう。そのフロア全体に商品がはるかかなたまで並ぶさまは圧巻だった。薄型テレビのコーナーには、サムスン、LG、TCLの世界3大メーカーに加えて、ソニーパナソニックの日本勢2社が展示されていた。タイではまだ日本メーカーのブランドの威光が残っているようだ。


【日本ブース スタンプラリーのように各国ブースを回っていく生徒たちのカードにゆかた姿でチェックを入れる娘】

 さて、娘の教えている学校を見学にいくと、ちょうどアセアンデーという催しをやっていた。学園祭のようなお祭りで、世界各国の文化を学ぶブースが出て、アオザイやチャイナ服の女性が校内を歩いている。娘が担当する日本のブースでは、日本語コースをとっている生徒がゆかた姿で訪問者に折り紙のしおりをプレゼントしている。

【日本語コンテストに参加する生徒たち】
 生徒たちの振る舞いには懐かしさを感じた。廊下で先生とすれ違うと、生徒はサッとワイ(顔の前で手を合わせる)で挨拶する。また、ゲストである私たちの前を横切るときには、腰をかがめて遠慮した様子で通る。その慎ましさは私がいたころのままだなあと感慨深かった。
その日は日本語コンテストもあり、近くの県からの参加者を含め60人くらいの生徒が集まっていた。日本語教科の担当教師から一言挨拶をたのまれ、最後に「みなさん、日本語の勉強がんばってくださいね」と言うと、「はい、がんばります!」とそろった声が返ってきた。ういういしさにちょっと感動する。「目を輝かせて学んでいる」という表現がぴったりだ。真面目にやることがダサいという風潮に長くさらされた日本の若い人たちとの違いをも感じた。

 外国の旅では、こういうある種の文化ショックがもっとも意味深いと思う。翻って、わが日本はどうなのか、と考えさせられるからだ。
 バンドつきのタイダンス(東北地方のモーラムも)も楽しんだ。踊り子が登場するたびにヒャーツという歓声が生徒から上がり、大いに盛り上がった。タイの田舎の人は、奥ゆかしい反面、お祭りではとてもノリがいいのだ。

 ところで、うちの娘が従事しているこのプログラムは「日本語パートナーズ」といい、「ASEAN諸国の中学・高校などの日本語教師や生徒のパートナーとして、授業のアシスタントや、日本文化の紹介を行います。専門的な知識は必要なく、応募要件に当てはまればどなたでも応募できます」とウェブサイトにある。http://jfac.jp/partners/
 うちの娘のように20歳そこそこから60歳過ぎまで、職業も前歴もさまざまな人が200人ほどアセアン諸国に散らばって1年間滞在している。
 留学というのは勉強するだけだが、これは現地の人に教えるもの、しかも学校制度に組み込まれて他の教職員との人間関係なども処理しなければならないから、得難い体験ができると思う。しかも毎月、けっこうな額の「滞在費」が支給される。毎日安い学食で食べ、ソンテウという小型トラックの乗合バスで移動しているから使い切れないという。
 とてもいいプログラムだと思うので、もしやる気のある人がいればぜひ挑戦してください。