6万5千人を拉致していたアサド政権

 オリンピックで日本はもちきりだが、「平和の祭典」の最中、シリアでは内戦が続く。特にアレッポでは7月31日から8月14日までの間で民間人327人(うち子ども76人、女性41人)が死亡したという。http://www.syriahr.com/en/

 ほとんど日本では報道されなかったが、今月17日のアサド政権側による空爆を受けた住宅から救出され埃と血にまみれた男児(5)の映像がインターネット上で公開され、CNNの女性キャスターがニュースを読みながら泣きだすなどして衝撃が広がった。結果、さすがに日本のテレビニュースでも取り上げた。
 これを撮影して配信したジャーナリストに感謝する。こういうのを見ると、できるだけ多様な現場に「記録し伝える人」がいるべきであることを実感する。
 アレッポメディアセンターの動画 https://www.youtube.com/watch?v=7cfBmRW3isc
 
 シリアの事態は、アサド政権と反政府勢力の「どっちもどっち」という報道も多いが、事実を見ていくと、一方的な抑圧、虐殺であることが分かる。
 最近の報道から。
 2011年以来、シリアでは65000人もの人々がvanishedつまり「消えた」という。これはもっとも重大な「人道に対する罪」にあたる「強制失踪」である。
 「強制失踪とは、国の機関又は国の許可、支援若しくは黙認を得て行動する個人若しくは集団が、逮捕、拘禁、拉致その他のあらゆる形態の自由のはく奪を行う行為であって、その自由のはく奪を認めず、又はそれによる失踪者の消息若しくは所在を隠蔽、かつ、当該失踪者を法律の保護の外に置くものをいう」
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/shissou/index.html
 拉致も強制失踪の一形態とされるから、人権という観点からは北朝鮮に比肩する。
 「人道に対する罪」についてはもう一つ。
 アムネスティの《最新の報告書は、シリア内戦が始まった2011年以降に少なくとも1万7723人が拘束された収容施設内で死亡したと発表。政権側による組織的な「人道に対する罪」の実態を告発した。》
 《シリアでは、ジャーナリストや人権活動家、医療関係者に至るまで、少しでも反体制的とみなされればだれでも投獄される危険がある。最近は、シリア国内で人道支援活動に携わる職員が投獄されるケースも急増している。
 聞き取り調査に協力したのは、シリア当局が運営する刑務所や収容施設で拷問を受けた生存者65人。平和的な抗議活動に参加して拘束されたという弁護士や活動家、農家の青年など、元収容者の多くが拷問されたうえ、処刑の現場に居合わせていた。目の前で収容者が殴り殺され、監房には死体が転がる惨状だったという。収容施設では一切の私語が禁じられ、静まり返った建物内には生々しい拷問の音が響き渡った。》
 このあたりも北朝鮮政治犯収容所を彷彿とさせる。
 《聞き取り調査を基に再現した悪名高いサイダネヤ刑務所の3D画像も公開、一刻も早い行動を促している》https://news.nifty.com/article/magazine/12172-20160818-E175556/
 サイダネヤ刑務所の3D画像は以下のアムネスティのサイトで見ることができる。
https://saydnaya.amnesty.org/?kind=explore

 アサド政権とそのパトロン、ロシアを糾弾すべきなのに、安倍首相はプーチンと会いたいと来月訪露を予定している。国家ぐるみのドーピングの実態とその後の開き直りを見れば、いかに異様な政権か分かりそうなものだが、プーチンにはシッポを振りつづけだ。
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 これはこれとして、さてオリンピック。
 吉田沙保里選手が「申し訳ない。取り返しのつかないことをしてしまって」と泣きじゃくるのを見て、こっちまでもらい泣きしそうになった。
 国家のためにスポーツをやっているんじゃない、という正論は分かるが、期待される金をとらねばという責任の重圧と闘う姿にも共感する。
 近年、大きな試合に臨んで「楽しんできます」と言うスポーツ選手が増えているが、私などはちょっと抵抗がある。古い人間なんでしょうか。
 吉田選手を足かけ5年取材した知り合いの長南武さんが書いた『吉田沙保里 強さのキセキ』という本を読んで、彼女がいかにすさまじい精進を重ねてきたかを知っていたので、勝たせたかったなあ。でも、ほんとうにごくろうさまでした。
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 お知らせ:テレビ朝日系「テレメンタリー」で「ゲンよ、中国へ渡れ〜被害と加害の狭間で」が放送されます。弊社の制作ではないのだが、ここにご縁のある方が登場する。
 《漫画「はだしのゲン」を中国で出版しようと奮闘する女性がいる。坂東弘美さん(68)。9年前から「はだしのゲン」を中国語に翻訳する作業を進めてきた。しかし中国の出版社が見つからない。加害者である日本を被害者として描くのは時期尚早、という理由からだ。坂東さんは贖罪の意味も含めて「はだしのゲン」を中国に伝えたいという。そこには日本が被害者としてだけではなく、加害者としても描かれているからだ。制作:名古屋テレビ放送
 坂東弘美さんは、かつて「チェルノブイリ救援中部」という市民グループで中心的に活動されていた方で、私はこのグループに付いて行って初めてチェルノブイリを取材した。http://d.hatena.ne.jp/takase22/20110413
 テレビ朝日は21日(日曜)の朝4時半〜5時、地方局で放送時刻が違うのでサイトで確認してください。
 それにしても、ドキュメンタリーは視聴率が取れないので、こういう時間帯に追いやられてしまうのが残念だ。私はこの枠で『父はスパイではない!〜革命家伊藤律の名誉回復』と『21年目の真相〜あれは誤報だったのか』(http://d.hatena.ne.jp/takase22/20130602)というかなりオタクな番組を放送してもらってとても感謝している。
 日テレ系のNNNドキュメントと並んで地方局ががんばっている老舗のドキュメンタリー枠なのでぜひ応援してください。