横田家の家族写真公開の背景(4)

 「政治とカネ」が問題になるなか、今月3日、画期的なネットのサイトができた。
 約2千ある国会議員の政治団体政治資金収支報告書をデータベース化し、ネット上で公開する事業「ラポール・ジャパン」。国会議員らの事務所に学生をインターンで派遣するNPO法人「ドットジェイピー」が中心の「政治と国民を近づける会」がはじめた専用サイト(https://rapportjapan.info)だ。
 これはいい。市民が政治家のお金の出入りを調べやすくなる。特にすごいのは、政治家の収支を「連結」で見られることだ。
 《国会議員の政治団体は政党支部や後援会など複数あることがほとんどで、資金動向の全容を知るには複数の収支報告書を照合する必要がある。同NPO総務省都道府県選管から入手した報告書をもとに収支をDB化し、議員ごとに政治団体のデータを連結させ、収支構造を分かりやすくした。》(毎日新聞)
 例えば、「甘利明」と入れると・・・

 収入は左で、赤は「事業収入」。さらに「収入項目」を選択して詳しく検索していくことができる。
 こんどは「有田芳生」と入れると・・・円グラフの色が収入も支出も甘利さんとは全然別で、やっぱり政治家によって違うものだなと思う。
・・・・・・・・・
 さて、きのうの続き。
 今回の有田さんによる写真公開で、一つ明らかに「まずかった」と思うのはタイミングだ。『週刊文春』の発売日が6月9日で、1日に国会が終わり参議院選挙が事実上始まっている。「選挙に利用している」と批判されるのは目に見えていた。
 有田さんによれば、すでに5月5日に横田さんご夫妻と公開する写真を選んでおり、私の知る限り、5月中発売の雑誌に載るはずだった。それが諸般の事情で遅れてしまい、有田さんも、誤解を受けるおそれのあるこの時期の公表をいったんはためらったようだ。
 私が複数のテレビ局の人に聞いたところ、みな写真を報じるかどうか迷ったという。選挙への政治的な配慮と、写真のニュースバリューとを天秤にかけた判断が必要だったからだ。結局、多くのメディアは写真を報じたが、5月中であれば、もっと大きく扱ったはずだ。
 つまり、このタイミングは、有田さんが「選挙利用」との批判を浴びたこと、メディアでの扱いが小さくなったこと、この二重の意味で「まずかった」といえる。

【滋さんとウンギョンさん】
 にもかかわらず、有田さんが、このタイミングでの公表に踏み切ったのはなぜか。
 選挙後、落ち着いてからの公開となれば、大幅に時期が遅れてしまう。有田さんはおそらく、急ぎたかったのだろう。その理由は何か。

 「日朝交渉が閉塞している現状を打開するには人道問題をテコにすることだ」。
 有田さんがフェイスブックに書いたこの文章がヒントになる。
http://d.hatena.ne.jp/takase22/20160612
 
 拉致問題に関する、この間の目に見える動きといえば、2014年5月下旬のストックホルム合意だ。北朝鮮による拉致被害者の再調査と、日本の独自制裁の一部解除を柱とする日朝政府間の合意である。これにもとづいて北朝鮮は7月に特別調査委員会を設置した。
 横田夫妻が孫のウンギョンさん一家にモンゴルで対面したのが、合意直前の3月。対面にいたる経緯は『週刊文春』記事によればこうだ。
 《(横田夫妻が、孫に会いたいと)安倍首相と岸田文雄外務大臣に手紙を書き、外務省幹部に託す。しばらくして「実現しましょう」という首相の意思が伝えられた。13年11月なかばのことだ。》
 実現までの折衝は完全に水面下で進められた。横田夫妻も面会計画を誰にも明かさず、二人の息子でさえ、モンゴル出発直前に知らされて仰天したほどだった。
 この時系列からは、2013年秋の横田夫妻の政府への「直訴」から翌14年3月のウンギョンさんとの対面が実現するまでの過程で、北朝鮮側との接点が開かれ、5月のストックホルム合意への流れを生み出したと見えるのである。
 つまり、孫との面会という「人道的措置」が、拉致問題本体の動きを導いたと解釈できるのではないか。
 こうした動きをもう一度作りたいというのが有田さんのいう「人道問題をテコに」「閉塞している現状を打開する」という意味なのだと思う。「人道問題」と拉致問題本体との単純な「切り離し」ではないと12日のブログの末尾に書いたのはこのことだ。
http://d.hatena.ne.jp/takase22/20160612

 しかし、そんなことがうまくいくのか。
(つづく)